TRANSPORTER-BETA(旧題:進学理由『地元が廃村になりました』)

桐生彩音

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168 案件No.009_Treasure Hunt Tour(その6)

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 旅行一日目。その夜明けをサービスエリアの駐車場で眺めながら、睦月は缶コーヒーを盛大に呷った。
「ああ、ねみぃ……」
 近年のサービスエリアでは、個別経営よりもチェーンのコンビニ店舗が設営されていることが多くなってきた。それでも、地域経済の活性化を目的として、特産品を扱う施設は残されている。
 だが……24時間営業のコンビニとは違い、個別経営の店舗は営業時間が限られている。その為、未だに施錠されているどころか、従業員の一人も見かけられなかった。
「お前の食糧事情も、いいかげん解決策を考えないとな……姫香」
「…………」
 不機嫌な表情を隠さないまま、コンビニで買ったミネラルウォーター(辛うじて飲める銘柄、割高)片手に『ヒメッカーズチョコバー』をかじる姫香に、睦月はそう声を掛けた。
「食料とかは、あまり持って来ていないんですか?」
「下手な保存料だと、こいつの身体が受け付けなくてな。ちなみに『ヒメッカーズこれ』は、姫香作の自然由来オンリー」
 旅慣れてそうだと思われているのか、由希奈にそう聞かれてしまう。けれども、睦月は肩を竦めると、溜息と共にそう返した。
「それに『ヒメッカーズこれ』も、この時期夏場じゃ持って三日が精々だ。先に食い切った方が良い」
 そのような事情もあり、睦月も付き合って『ヒメッカーズチョコバー』をかじっていたのを、どこか羨まし気に見ている由希奈(コンビニの菓子パン装備)に対して、姫香は挑発的な態度を……取ろうとしていたので、後頭部を軽くはたいて抑え込む。
「『隣の芝生は青く見える』、って言うだろ? 昼飯はお前が食える物置いてある場所にしてくれって、朔に頼んでおいたから。いちいち喧嘩腰になんな」
「…………」
 再び不機嫌になり、今度はこちらに軽く手を上げようとしてくる姫香を適当にいなしつつ、睦月は喫煙所の方を向いた。
「にしても……朔の奴、いつまで吸ってる気だ?」
 少し長めのベンチに、睦月を挟んで姫香と由希奈が腰掛けているのを放置した朔夜は、『いいかげん煙草吸いたいっ!』と言い残したまま、姿を消している。特段急ぐ理由もなく、むしろ休息を取らなければ道路交通法違反に取られかねないので、追い駆けることもなかったが。
 車種にもよるが、近年では二時間に一回、最長でも四時間に一回は三十分以上の休息を取ることが義務付けられている。深夜帯で比較的空いていたので、高速道路を四時間フルで運転してきた睦月はその為に、しばらく運転することができなかった。
 無論、体力的には少し休めば問題ないかもしれないが、下手な危険は避けておくに越したことはない。それに、自動取締装置のカメラで超過運転がばれてしまえば、面倒この上なかった。
(ま、先は長いしな……しばらくゆっくりするか)
 大方、煙草片手にスマホで宿泊先や食事処を探しているのだろうと楽観的に考えた睦月は、日差し除けを見上げた後で軽く目を閉じた。
「ちょっと寝る。朔が来たら起こしてくれ……」
 姫香のように、完全に意識を飛ばさない状態で休む技術は持ち合わせていないが、短時間睡眠ショートスリープで可能な限り早く、心身の疲労を回復させる練習はしている。まだ不完全ではあるが、何もしないよりはましだろう。
 睦月は意識的に休息目的のノンレム睡眠へと脳を切り替えようと、若干強引に思考を手放した。



 四時間(睦月が)ぶっ続けで運転し続けた結果、現在は近畿地方の最西端、中国地方の手前に居る。
(もう少し進めて……九州入る前に、一度泊まるか)
 煙草を口に咥えてくゆらせながら、朔夜はスマホで目的地周辺の情報収集をしつつ、そう結論付けた。
 大まかな場所はすでに絞ってある。ただ、その中心から周辺にかけて、廃棄された鉱山があることで過疎化が進んでいる。在処が山中であれば登山具を用意して突貫できるのだが、もし違えば徒労に終わってしまう。ならばその近くで情報収集に一日を費やし、翌朝までに目的地を定めた上で、改めて登るかを決めた方が現実的だった。
(問題は、九州に入った後だな……東側はまだ人口密集地だし、二日目はそっちに泊まって人混みに紛れるか?)
 連続して同じ宿を取ってしまえば、その周辺に何かがあると喧伝しているようなものだ。あえて少し離れた場所を選ぶ手もあるが、滞在が長期になればその分、尾行してくる者達に居場所を知られる恐れがある。
 それに……どちらにしても、万全の状態で情報収集や探索をおこなわなければならないのだ。であれば、デコイも織り交ぜながら一泊ごとに宿を変えつつ、目的を達成するのが無難だろう。
(とりあえず、宿も取れたし……昼飯でも食いながら、睦月達と相談するか。道中の名物だと、何があったっけ?)
 一先ずは中国地方の半ばを目指して(睦月か姫香が)運転し、昼食後は宿泊先のある九州地方手前で一日目を終えようと決めた朔夜は、咥えていた煙草の吸殻を殻入れへと放り入れた。
(あなご飯とラーメン。後は……牡蠣も良いな。店は睦月達と相談して……)
 空になった缶コーヒーも喫煙所入り口にあるゴミ箱に投げ入れ、睦月達の下へと戻ろうと歩き出す朔夜。
(…………ん?)
 ふと、朔夜の視界の端に、杖を突いた初老の男性が入り込んだ為、思わず立ち止まってしまう。その男は、振り向いたこちらの視線に気付いていないのか気にしていないのか、健常者と・・・・同様の・・・足取りで駐車場に向かうと、車の運転席・・・へと乗り込んでいった。
(『わ』ナンバー……レンタカーか)
 車自体は問題ない。けれども、杖を突くような人間が、細かい足の動作が必要な運転等できるものだろうか。
(足に何の問題もないのに、何故か杖を突いている。リハビリや登山趣味とかで付いた、ただの癖か? それとも……)
 走り去るレンタカーを眺めてから、朔夜は止めていた足を再び進めた。
(…………ま、こっちには関係ないか)
 相手はもう居なくなった。また会うこともなければ、意味がないだろう。『超記憶力Hyperthymesia』の片隅に留めておきつつも、朔夜は男のことを意識から外した。



 交代で姫香に運転させてはいるが、あまり長い時間任せるわけにはいかない。普段の運転であれば問題ないが、今は睦月や朔夜が同乗している為、常に緘黙症の状態となっている。
 ただ運転するだけであれば無駄話をしない分、むしろ集中できているのだが……もし検問等があれば、いちいち説明しなければならない。代わりに睦月が説明してもいいが、緘黙症についても話さなければならないので、余計に時間が掛かってしまう。
 その為、二人が同乗する場合は睦月が必ず運転し、姫香に交代する時も三十分最低限休息時・・・だけ・・、任せるようにしていた。もちろん、それ以外にも理由がある。
「本当に、クラッチ操作が荒いな。お前……」
 姫香が運転している為、あえて助手席に腰掛けた睦月は左手で頬杖を突きながら、前方に視線を向けていた。
「……今度、二人で練習するか」
 こちらに顔を向けようと前方不注意をしてくる姫香を空いた右手で押し返した睦月は、後ろを振り返って後部座席に居る二人の様子をうかがう。
「そっちは大丈夫そうか?」
 吐き気をもよおす程ではないだろうが、乗り物酔いにより二人共、気落ちしているのは見ただけで分かる。その中で少しでもまぎらわせようとしてか、火の点いていない煙草を口に咥えながら、朔夜は車内上部にある握り手アシストグリップと合わせて身体を固定していた。
「ぅ、ぅぅ…………」
「……次の交代はいつだ?」
 その問い掛けに睦月は、視線を後部座席に居る朔夜達からカーナビの画面に移し、進行方向上の地図を確認してから告げた。
「大体、二十分後位だな……きついなら寝とけ。俺はもう少し寝る」
 未だに眩しい夏の陽光をまぶたさえぎりながら、睦月は背もたれに体重を預け、そのまま眠ってしまう。
「睦月さん、よく眠れますね……」
「慣れだ慣れ。乗り物の中には、今以上に揺れが酷いのもあったからな……」
 特に飛行機は、姫香の運転よりもよく揺れた。あまり練習できなかったのもあるが、車以上に環境要因に左右されてしまう為、乗る度にやり方を変えていく錯覚に襲われたことがある。秀吉と暮らしていた頃に合間を見て操縦士技能証明パイロットライセンスを取得していたものの、機会がなければ宝の持ち腐れだ。
(また折を見て、飛行機に乗るかな……もしくはヘリ)
 未だに荒い姫香の運転技術を気にすることなく、睦月は目を閉じてしまう。



 そして、交代地点として選んだ総合運動公園に到着した一行だったが、駐車してすぐに伸ばされた朔夜の手により、睦月は運転席へと無理矢理座らされてしまう。
「そこまで我慢できなかったのかよ……他の奴からは苦情とか、あまり聞いたことがないぞ?」
「すみません、睦月さん……緊急事態だったので黙ってましたけど、バスジャックの時も結構酷かったです」
 一度外に出ていた由希奈に手を上げようとする姫香の腕を掴んで制しながら、朔夜は気晴らしに噛んでいた煙草を外すと、そのまま近くのゴミ箱へと投げ捨てていた。
「やっぱりちゃんと、教習受けさせれば良かったな……」
「……違うのか?」
 そう聞いてくる朔夜に、睦月は運転席に腰掛けたまま、ハンドルにもたれかかった状態で答えた。
「前に、姫香に『免許必須だ』って言ったことがあったんだが……その翌日に、飛び込み一発で取ってきやがったんだよ。多分、運転とかも仕込まれてたんじゃないか? こいつ」
 その言葉に、朔夜に腕を掴まれたままの姫香はあっさりと、首を縦に振ってきた。
「まともな教習指導じゃなかったんだろうな……この間尾行してきた連中の方がよっぽど、よどみない運転してたぞ」
「お前の方も、変な問題トラブル抱えてんのかよ……」
 姫香の手を離した朔夜は、運転席の前に立つと天井部分ルーフに腕を載せて、睦月の方を見下ろしてきた。
「取引先の別部署に、疑惑の変な目で見られたことがあっただけだ。その辺りは一先ず・・・解決してるから、今のところは問題ない。そう言う朔の方はどうなんだ?」
 尾行をいた上でこちらに合流し、そのまま夜通し走行してきたので、しばらくは問題ないのかもしれない。だが、楽観論は禁物だ。
 ハンドルに体重を預けたまま見上げた睦月に、朔夜は一つ溜息を吐いてから、載せていた腕を上げて頭を掻きつつ、悩ましげな表情を浮かべてくる。
「向こうの組織力次第だから、何とも言えないんだよな……適当に捕まえて、尋問すりゃ良かった」
めろ馬鹿。揉め事トラブルが増えるだけだろうが」
 さすがに冗談だったのか、朔夜は軽く手を振るだけで、まともに取り合ってこない。しかし本当にやりかねない為、睦月は気が気ではなかったが。
「となると……『情報屋』でも探すか?」
 和音に聞くという手もあるが、秀吉これ関連になるとどうしても、信憑性に欠けてしまう。普段は信用できる分、できない範囲に関してはあまり期待しない方が良いだろうと考えていた睦月だが、それは朔夜も同じらしく、今度は顎に手を当てて悩み出していた。
「一応……今日は移動で潰して、明日近くの地域か繁華街で情報収集してから、明後日行動に移そうと考えてる。宝探しだけなら、そこらの図書館とか郷土資料館の類で問題ないんだが……尾行者そっちは任せてもいいか?」
「相変わらず、無茶言ってくれるな……」
 情報収集は朔夜に任せ、姫香と由希奈も一緒に降ろしてから一人だけ、適当に運転して様子を見る手もなくはない。けれども、相手は個人ではなく組織である。数の優位性を取られてしまえば、追いつめられるのは睦月の方だ。
「何人か、婆さんに目を付けられてなさそうな『情報屋当て』はあるが……この辺りまで網羅カバーしてる保証はないぞ?」
「それは尾行者側向こう同じ・・だろ?」
 そう言われ、睦月はようやく、朔夜の意図を理解した。
「……それもそうだな」
 要は、情報さえ手に入ればいいのだ。星来のマンション近辺から尾行されていたのであれば、そこから逆に、足取りを追うこともできなくはない。
「じゃあ、何人か当たって……って、待てよ朔」
「あん?」
 すでに周囲を見渡し、喫煙所を探していた朔夜に向けて、睦月はジト目を向けた。

「『情報屋それ』…………最初から・・・・朔の・・方で・・、手配できなかったのか?」

 朔夜は睦月の方に、視線を向けなかった。いや、おそらくは向けられずにいるのだろう。
「おい……こっち向け、馬鹿姉貴」
「…………」
 思わず声を荒げてこちらを向くように言う睦月だが、朔夜は無視を決め込んでいるらしく、ようやく見つけた喫煙所の方へと駆け出していた。
「お前だって、都合悪くなったら逃げてんじゃねえか! 絶対忘れてたろ、おいっ!」
「違うわっ!」
 思わず言い返し、運転席から立ち上がって追い駆けた睦月に向き合うように立ちはだかると、朔夜は近寄ってきた弟の肩に両手を載せ……

「『運び屋お前』と違って、普段あまり使わないから…………『情報屋その辺』の伝手、全然作ってないんだよ」

「…………」
 一度、険しい顔をしてから一変し、気落ちした眼差しを向けてくる朔夜に……睦月は、何も言うことができなかった。
 要するに……交遊関係がかたよっている上に少ないと、指摘されたようなものなのだ。自分が付き合い下手コミュ障なこともあり、ある意味朔夜の気持ちが理解できてしまう睦月は、同じく目を伏せるしかなかった。



「ねえ……あれ、どうすればいいの?」
「ほっとけばいいんじゃない?」
 互いに向き合って交遊関係の悩みをぶつけ合う馬鹿二人姉弟を放置し、車から少し離れた場所に移動した途端、由希奈にそう問い掛けられるが……姫香はスマホを弄りながら、適当に返すだけだった。
「ところで……本当に、他から苦情来てないの?」
「そもそも、車の運転自体が普段から睦月任せなのよ。一応、別の車両で追走とかもするけど……大体は睦月に合わせているから、そんなに荒れないし」
「……普段もそう意識したらいいんじゃないの?」
 由希奈の言葉を無視し、姫香はスマホに集中した。
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