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第三十三章 剣(つるぎ)の山

エールさんの長い話

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「最初、私はどこで製造されたかは知りませんが、起動された時は、このテラに向かう移民船の中でした」
「人工知能、イザナミによる、テラの監視端末としてでした」

「7万年前でしたか、私の主さまたちである女性体は、男性体と『まぐわい』による、種族の発展を目的としていて、別々の移民船でアスラ族の主流派、つまり女性体政府より逃亡、この辺境の惑星で、ひっそりと根付く計画でした」

「男性体の移民船の人工知能は、イザナギと呼ばれていました」
「主さまたちは、今の日本列島に居を構え、トバ・カタストロフを生き残っていたホモ属の内、優秀と考えられたホモサピエンスに対して、召使いとするために遺伝子操作をして進化させました」

「私はイザナギが造り出した、監視端末と共にテラを守り育てていましたが、徐々に男性体と女性体は険悪な関係になり始め、ついに衝突を始めます」

「私は女性体の先兵として、男性体の監視端末を破壊したのですが、イザナギに打ち壊されて……」
「薄れ行く記憶の中にイザナミ、イザナギの二つの人工知能が戦っていたのを覚えています」

「再び目覚めた時、男性体は全滅、主さまたち女性体は、新たにやってきた女性体に拘束されていました」
「当時スーパーボルケーノ、トバ火山の噴火で、多くの類人猿が死滅していました」

「新しい女性体は、ヴァルナ評議会より派遣された、アスラ族の正規軍、このテラを平定の後、今までの武勲によりテラを供与されることになりました、それが四万年前です」

「私はこの時に、正規軍用監視端末として再生されたのです、新たに来た女性体は、古くからの女性体と一体となり、召使いのホモサピエンスに崇められていました」

「しかし古くからの女性体は、『まぐわい』を種族保存と信じていたので、当時かなり進化していた人類を、さらに遺伝子改良して、自らの『まぐあい』の相手としたのです」

「新しい女性体は当惑しましたが、それを許容しました、しかし自身は、子供を持ちたい希望者に対して、卵母細胞の細胞核を卵子に移植、二母性の子孫を残す事を選択します」
「つまり女性が、愛する女性の子供を身ごもる事が出来る手段です」

「その後、私は長い時をテラの人類、そして日本に住まう主さま達を守り続けました」
「主さま達は、その昔の輝ける叡智を失いましたが、幸せに日々を送られて、私はそれも良いかと思っていました」

「イシス様には、そのような時にお会いしました」
「イシス様は、主さま達をひと目みて、アスラ族の次期指導者、しかも伝説の完全体が、主さまたちの中より生まれると御考えになり、私にその守護をお命じになりました。
「それからしばらくして、イザナギが現れたのです」

「イザナギはテラの現状を見て、最早テラは存在理由を失ったと判断しました、あるじの男性体がいないのですから、それも当然かもしれません」

「しかし私はイシス様のご命令もあり、なんとか主さまたちを守ろうと必死に戦いました、正規の軍事用としての私は、イザナギと戦える力がありましたが、超えるほどではありません」

「イザナギは大量の機械体アンドロイドを作り、私に挑んできましたので、私も数多くの配下を作りました」

「なぜかアンドロイドの戦闘力は、イザナギの方が上回っていましたが、私は正規軍事用ですので戦略戦術で対抗、なんとかイザナギを破壊したのですが……」
「イザナギが復活するのです、それで調べましたら男性体が幾人かが、サイボーグ化状態で生き残っており、その力でイザナギが復活したのです」

「これではいつか必ず敗北する、そこで私は対男性体用の最終兵器である、ボルバキア・ウィルスを空間転移で使用、男性体の消滅を確認後、何とかイザナギを打ち壊したのです」

「しかし私もかなりの損傷を受けており、機能停止は目前、最後までつき従ってくれていた、私が再生した時よりの配下であるヴァルキュリヤを解放し、ボルバキア・ウィルスなどの、極秘軍事情報の記憶データーバンクなどを分離、日本に隠匿し、その後自分自身で、その記憶を消去して眠りに入りました」

 エールさんの長い話しが終わりました。

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