上 下
21 / 131
第十五章 オディール女学館

五年二組

しおりを挟む

「吉川さんはプリンストン大学の博士号をもっていると聞きましたが、皆にいいますか?」
「お任せします、私は別に隠すつもりもありませんし……」

 景山先生はクスと笑って、「男の様な喋り方ですね」といいます。
「アメリカで暮らしていましたから、自ずとそうなるのでしょう」

 クラスの前に来ますと景山先生が、「少し待っていてください」、といい教室へはいっていきます。

「皆さん、今日はこの五年二組に、転入生が来ます、日本人ではありますが、アメリカ国籍の方です」
「別の五年のクラスにもお二人、三年にお一人、転入されています」

「このクラスへの転入生は、外で待ってもらっています、級長さん、呼んできて下さい」
「それからびっくりしないで下さいね、この世の人ではないのではと思えるほど美しい方ですから」

 私は廊下で窓の外を眺めていました。
 「あの……」と誰かが声をかけますので、振り向くと髪を三つ編みにした女生徒が、こちらを見ています。
「はい」と返事をしますと、
「どうぞ、お入りください、皆待っています」
 なんかおどおどしているように、見受けられます。

 教室へはいっていくと、いままでざわざわしていたのが嘘のように静かになります。
「自己紹介をして下さい」
 景山先生に促されます。

「吉川ミコと申します、アメリカに住んでいましたが、すこし思うことがあり、一年日本に住むことに決めました」
「一年の特別留学先を探していたところ、法王領からの紹介で、このオディール女学館高等女学校に、転入することになりました」
「どうぞ一年間宜しくお願いします」

 景山先生が、
「吉川さんは本当のところ、学校なんか必要ないのですよ」
「プリンストン大学を知っているでしょう?彼女はその大学の博士号を所持しているのよ」
 ますますシーンとしています。

 困りましたね……
 助け舟がでました、先程の方で、級長と呼ばれていました。
「質問してもいいですか?」
 景山先生が、
「そうですね、吉川さん、いいでしょう?」

「吉川さんは好きな方がいますか?」
 ハイドリッヒが頭を過ります……
「多分いたと思います、少なくとも好ましいと感じました、十年前のおませな頃の話しです」

「嫌いな物は?」
「……」
 なんか嫌いな物があったかしら……
「思いつかないですね」

「吉川さんは、何の博士号を取られたのですか?」
「数学です、でも論文を出したわけではなく、アメリカ数学会の推薦です」
「数学は好きなのですか?」
「数学と云わず、物理、化学など理系は全般的にすきです」

「体育はどうですか?」
「杖道と薙刀は得意です、武道は好きです」
 なんか、オーと云う声が聞こえます。どういう意味でしょうね。

「はいはい、そこまで、ホームルームを始めます」
「取りあえず吉川さんは、後ろから三番目の窓際の席が空いてますので、そこに座ってください」
 ホームルームでは、五年生になったので進学についての説明がありました。

 なんでも女子専門学校、女専というのだそうですが、このオディール女学館では、そのまま六年生となりますが、理系、文系、教育系とわかれるそうです。
 正式にはオディール女学館女子専門課程の一年生、でもだれもそのようには呼ばないそうで、六年生だそうです。

 その選考は、学力順の希望によるとのことです、そのほか修学旅行がやはりあるそうで、どうやらドイツあたりに行くようですよ。

「今日はこれから新入生のオリエンテーション、恒例のクラブの勧誘タイムでしょう」
「本日は少し早いですがここまでとします、吉川さんも何かクラブでもどうですか」
 チャイムがなり午前の最後、四限目が終わりこの後フリーになりました。

 さて、お食事にでも行きましょうか?
「ミーコーおーねーさーま!」
 アリスさんがアテネさんを引き連れて、ズカズカと教室にはいって来ます。

 傍若無人(ぼうじゃくぶじん)……驚いたような顔のクラスメートを横目に、「お昼ごはん!」と云っています。
「そうですね、聡子さんの手作りのお弁当ですから一緒にいただきましょう……でもここでは……貴女たちの教室でもないし……」

 窓から、芝生をはった園庭が見えました。
 パラパラと女学生さんが、お弁当を広げています。
「あそこでいただきましょう」

 ざわつくクラスメートさんたちに、
「お騒がせしました、ご免あそばせ」
 会釈などをしながら、教室を出ていきます。

 と、級長さんが恥ずかしそうに声をかけてきます。
「ご一緒に……お弁当を……その……ひろげていいでしょうか?」
「ぜひご一緒に、歓迎しますよ、私たちは来たばかり、お友達がいないのですから」
 
しおりを挟む

処理中です...