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第六十二章 ミリタリーの諸問題

人々の飢えは恥ずべきもの 其の二

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「貧困対策とはなるが、食料を支給された者は、それなりの労働をしてもらうしかないだろう」
「それでは安易に指定の労働を行い、食事を得るものが出てくるのでは?」

「自ら考え働き、結果を得られなければ、人とは呼べないのでは、それをしない人は、奴隷と呼ぶべきではないのか?」

「たしかにそうだが、しかしネットワーク世界は、ほとんど奴隷制ではないか」
「マルスや蓬莱といえど、実質的には奴隷制へ移行し始めていると、ささやかれている」

「事実、婚姻は売買婚の形式をとっており、ウイッチは奴隷と定義されている」
「社会はそれを認めており、ヴィーナス様に対しては、妻をささげることは、名誉と認識されている」
「複数のレポートによれば、エラムの社会に似てきている」

「いまネットワーク世界における、非奴隷制惑星世界といえども、奴隷階級を内在させている、そんな状態で奴隷となる危険があるからといって、飢餓を放置していいものだろうか?」

「それよりも、食料を保証される以上は、自由と尊厳を制限される奴隷として、甘んじていただく」
「生存権付の奴隷制度を、容認しても良いのではなかろうか、確かに名称は考慮する必要があるが」

 この議論の結果、ネットワーク世界においては、基本的には奴隷制を認めることになりました。
 ただ実施するかの判断、および方法は現地政府にゆだねられるようです。

 ヴィーナスさんは、ものすごく反対したのですが、最低限の貧困対策として、押し切られたのです。 

 明日は惑星エラムの新年という日、リリータウンのささやかなお風呂で、
「多分あまり変わらないのではありませんか!」
 ヴィーナスさん、ちょっとばかり批判的で、マレーネさんに愚痴っています。

「しかし最終的には、これがベストではありませんか?世界は女性だけになるのですから」
「ユーベルメッシュとナチュラルに分かれるという、アドルフの予言は正しかったということでしょう、ナチュラルって、結局は奴隷でしょう?」

「ただこれからの課題として、マスターが支配される側の女たちが、デーヴィーのようにならない、そう気をつければいいのでは?」
 
 ……そう、ですね……よく練り上げられたシナリオ……
 
「まぁ決まった事ですから、小型の栽培コンテナと、それに連動する加工装置を、管理官府などに常備することにしましょうか」

「膨大な数になりますけど、マレーネさん、よろしくね」
「エラムで新年の行事を終えたら、臨時のグランドツァー、もうすぐですから」

「えっ、私がですか?」
「いいじゃないの、製造はマイクロ・インフェニティ・カーゴで行うのですから」
「ミリタリー関係は三軍統合司令部に丸投げ、ハレム関係はハウスキーパー事務局に丸投げでしょう?」

「アマテラスさんをこき使えば、何とかなるはずよ、調整だけすればいいのですから」
 
 でも結局は、新年の行事が終わっても、決裁がだらだらと待っていたヴィーナスさんではありました。

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