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第三十六章 招待状
ゲームをしないか?
しおりを挟む時は止まったままですが、景色はガーデンライトの灯りに浮かび上がっています。
姉の顔が、険しく眉をひそめています。
ポニーの乗馬もできる芝生のお庭で、姉と私は胡坐などかいて座っていました……
しかしこの後どうするのか……
罠を利用すべし……『来たれ』……とあるが、わざわざ私が大汗かいて行くのだろうか……
質量が虚数、速度が光速を超えている世界……虚数空間に浮かんでいると思われる人工宇宙?
『デーヴァ』たちが、自らの本拠地に私を呼び寄せるのだろうか……
そうなら手っ取り早いのでは……『メギドの火』はマレーネさんの努力で完成し、その効果は確かめられている……
今の私はこれを瞬時に複製できる……膨大なエネルギーがいるだろうが、それは集めることが出来る……
推測だが、精神エネルギーをかき集めれば、虚数空間の中で『メギドの火』を作れるだろう……
乗算して負数になればいいのだから……それが成り立つ世界に当てはめて、複製を作ればいい……
デーヴァの指導者は馬鹿ではないはず、そんな危険を冒すはずがない……
『来たれ』という以上、待っていればいいはず……
それはすぐにやって来た。
ブリタニカの時のように、魂が転移したのだ……
いま私は知性体幽子なのだろう……
「ゲームをしないか?」
暗闇の中から声がします。
「まずは挨拶をしてもらいたいものですね」
「汝ごときに何の挨拶か……まあ、いいだろう……」
空間がねじ曲がり、穴が開いたようになり、その中より何かが湧き出でてきました。
そしてそれは人の形を取りました。
「我が名は帝釈天インドラ、善見城天の主にして、デーヴァがプリンケプス」
プリンケプス……第一市民ですか……
「インペラトルではないのね」
「上手いな、さすがはルシファー、情報を貪欲に集める」
「私は知りたがりな者でね」
「我は寡黙なのさ」
「で、私をかっさらってゲームですか?高くつくわよ」
「そうでもないだろ、我がゲームに勝てば、汝は我の物だ」
「私をかけるの?私が勝ったらどうする?」
「一つの惑星の未来ではどうか?」
「どんな?」
「詳しく見せてやろう、我らは時を操れる」
それは見るも無残な、惑星テラの未来……
放牧場にいるのは女……
アンドロイドが女を捕まえ屠殺場へ、生きたまま血抜きをし、そのまま解体していた……
先に見せられていたから、なんとか冷静をたもてましたが……
「汝の惑星ではない、しかし惑星テラのパラレルワールドの一つ、真実だ」
確かにパラレルワールドではありますね……ただ惑星テラではありません……大きさが少し小さいですし……
でも、ホモサピエンスが食料になっていました……
「それは認めましょう、しかし私の惑星ではない、どうなろうと知ったことではない」
「もし私が、この惑星の惨状に心揺るがせたとしても、私はいまある世界に対して責任がある、私自身を危険にはさらせない」
「たしかに汝の惑星ではないかもしれない、ではどうするか?見捨てるのか?卑怯とは思わないか?」
「卑怯?デーヴァから聞く言葉ではないと思いますが?」
「確かにな、それに対しては認めよう」
「しかしゲームはしても良い、私を賭ける以上、私の世界を賭けることになる、なら貴方を賭けなさい、デーヴァの世界の半分を、賭けることになるのでしょう、まだそちらに分があるのですよ」
「五分だろう、汝にはイシスが残っている」
「イシスは次席、そちらは貴方が次席、違いますか?」
「知恵が回る事よ……そこまで見透かした上のゲームか、さぞや自信があるようだな」
「私は負ける事は考えない」
「そうか、気に入った、女にしておくのはもったいない、デーヴァになれるぞ」
「男は好きじゃない、特にデーヴァは」
「気の強い女だ、弄ぶにはちょうどよい、面白い、面白いぞ、世界を賭けたゲームをしようぞ、汝と我で」
「我が勝ったら、永遠に陵辱を繰り返し、汝の哀願と屈服を楽しんでくれる……」
デーヴァは全てがゲームなのか……そもそもいつでもリセットできる力がある……
軽い……いいでしょう、リセットできない『時』という物を思い知らせてくれる……
デーヴァではない、『天之御中主(あめのみなかぬし)』様の掌で踊ってあげましょう。
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