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第三十九章 属州シリア

サルマタイの女たち

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 さてウォルムニアさん、出番ですよ。
 ガイウス・ペスケンニウス・ニゲルに、会いに行きましょう。

「総督、ウェヌス教団のシリアの責任者が、面会を申し出ています」
 側近の者が、ニゲルに声をかけました。
 
「ウェヌス教団の責任者?何用なのか?」
「多分閣下の心象を、良くしておきたいのではありませんか?」
「皇帝陛下のご加護がある教団だからな……会わぬわけにはいかぬだろう」
 
「ガイウス・ペスケンニウス・ニゲルだ」
「『ウェヌスの侍女、事務係、聖者』カエキリア・メテッラ・マイオルと申します」

「このたびアンティオケイア教区を任され、まずは総督閣下に、ご挨拶させていただこうと、面会を申し出ました」
「すぐにお会いいただき、有難く思います」

「皇帝陛下が肩入れされている、ウェヌス教団の責任者、会わなければならないだろう、で、何かあるのであろう?」

「私たちウェヌス教団は、女だけの集団、出来ましたら警護をお願いしたいのです」
「そして神殿内部の警備のために、女剣闘士を購入したいので、総督のご許可も併せていただきたいのですが」

「ウェヌスの神殿を警護せよと?」
「もちろん、必要経費はお支払いいたします」
「いかほどか?」

「警護の方々、一人当たり毎月400デナリウスではいかがでしょうか?」

「ケントゥリア――百人隊、定員80名が標準――で警護してやろう、ケントゥリオ――百人隊長――には毎月1600デナリウス、オプティオ――百人副長――が毎月800デナリウス、女を守るのに十分であろう?」

 えらく吹っかけてきましたね……ケントゥリアですか……コントゥベルニウム――十人隊、といっても定員八名――程度を考えていたのですが……

 私が沈黙していると、
「最精鋭部隊を当ててやる、心配することはない、婦人に不埒な事はしないと確約できる」
「したがって、それなりの報酬がいる」

「では……お願いします……」
「まぁ吹っかけたのは確かだ、だからもう一つの願いを聞いてやる、グラディアトリクス――女剣闘士――が必要なのか?」

 私が頷くと、
「先ごろ奴隷商人が、サルマタイ――南ウクライナを中心に活動していたイラン系遊牧民族、ウィキペディア参照――の女どもを売りに出している」

「なんでも馬に乗れるそうだ、気が強くて持て余しているそうな、殺すわけにもいかないしな
「この女どもを購入してはどうか?口利き料は格安だぞ」

 サルマタイの女?騎馬ね……
「安いのですか?」
「48名一括で、一人当たり600デナリウス、安いと思うが?」

「キズものでしょう?450デナリウスでなら買いましょうと、返事してください」

「どうだ、一度見てみるのは、そばにウォルムニアがいるのだし、実力は見させればいい」
「このアンティオケイアにいるのですか?」
「ここにいる、私が奴隷商人だ」

 さすがに笑いましたね。

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