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第四十四章 五皇帝の年 思惑の錯綜
聖者へ愛の告白を
しおりを挟むシリアでは、サルマタイ婦人騎兵隊が噂になりかけています。
ウェヌス教団の、ヌミディアの女騎兵隊が、第2軍団アウグスタ相手に、善戦したらしいという事が、ここシリアまで伝わってきたのです。
当然、シリア駐屯の、ウェヌス教団アンティオケイア教区の、サルマタイ婦人騎兵隊も強いのではないか?
この地のローマの軍団に、太刀打ちできるのでは、などというものです。
アンティオケイア教区の、サルマタイ族の選りすぐりの美女騎兵隊は、ヌミディアの女騎兵隊に対して、かなりのライバル意識を持っているようですが、どうも忠誠を尽くす相手が違うような……
「『ウェヌスの侍女、事務係、聖者』カエキリア・メテッラ・マイオル様、我等にも同じような装備を頂けるように、女神様におっしゃってくださいませんか!」
隊長に任命した、アキリアさんからの願いです。
アキリアさん、いつの間にか猛訓練したようで、サルマタイ婦人騎兵隊に馴染んでいます。
同じような装備って、弩と毒のことでしょうね……
「かまいませんが、装備が支給されたら、ヌミディアの女騎兵隊以上に活躍出来ますか?」
「当然です、我等はアフリカの女どもには負けません」
「あの者どもの馬術は、我等から見れば素人、我等は必要なら、一人で二頭の馬を扱えます」
「交代で寝ながら、馬がもつ限り進撃できます」
「我等は馬に乗ったまま食事もできれば、排泄もできます」
「排泄?」
アキリアさんが説明してくれました。
つまり下半身はいわゆる腰巻なので、片足で鐙に体重をかけ、腰を浮かしてお尻をからげて用を足し、さらに片手でお尻を拭く……
そんな事が出来るのですかね、器用ですね。
「こうするのですよ」
アキリアさんが実演しようとします。
「分かりました、信じます、だから見せていただかなくてもいいです!」
アキリアさんが残念そうに、
「私は『ウェヌスの侍女、事務係、聖者』カエキリア・メテッラ・マイオル様に、全てをお見せしたいのですが」
「えっ……」
「私を抱きませんか?」
「女神様に叱られますよ」
「……」
しばし沈黙していたアキリアさんでしたが、覚悟を固めたのか口を開きました。
「私には、カエキリア・メテッラ・マイオル様が女神様です」
「……」
困りました……
返事に窮しているところに、別の女の声がしました。
「アキリア!抜け駆けはいかんな!」
誰かと思えばウォルムニアさん……
「『ウェヌスの侍女、事務係、聖者』カエキリア・メテッラ・マイオル様、『修女』ウォルムニアもお慕いしております」
アキリアさんが、
「『修女』アキリアもお慕いしております」
「私に如何せよと、おっしゃるのですか?」
「当分はこのままで結構です、『ウェヌスの侍女、事務係、聖者』カエキリア・メテッラ・マイオル様とともに、女神様にお仕え致します」
「しかし教団を離れ、一般信者になったならば、『信女』カエキリア・メテッラ・マイオル様は、このウォルムニアの愛を、真剣にお考えいただきたい……」
真っ赤な顔をしていったウォルムニアさん、勿論、アキリアさんも以下同文の状態です。
「……」
さらに困った事になりました。
「隊長!抜け駆けはいけません、我等も同じ思いです!」
いつのまにか、サルマタイ婦人騎兵隊の面々が集まっています。
「『ウェヌスの侍女、事務係、聖者』カエキリア・メテッラ・マイオル様、我等も愛を捧げます、たとえ受け入れられないとおっしゃられても、我等は愛を捧げます」
「皆様は女神様に捧げられたのですよ!」
「カエキリア・メテッラ・マイオル様もそうではありませんか!」
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