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第四十四章 五皇帝の年 思惑の錯綜
ユリアヌス逃亡
しおりを挟むユリアヌスは、史実ではまがりなりにも皇帝になった男、私がインドラならば、禍根は削除するでしょうから。
ユリアヌスは、コンモドゥス暗殺の計画を知っていた。
そしてあわよくば皇帝たらんと欲した。
セウェルスはそのことを知っている。
……ディディア・クララ、
皇帝位に野心を見せた男を、皇帝になろうとしている男が見逃すと思うか?
総督をやめれば身を守れない、といっても、総督であっても身を守れないだろう……
女神様……どうすればいいのですか?
……難しい、が、助かるかも知れない手段がある、その手段を教えよう、ユリアヌスと相談するがよい……
汝は私がその身を守る、それが私に身を差し出した事への、私の義務でもある……
そして私は、一つの手段を伝えました。
ユリアヌスは娘であるディディア・クララから、その手段を聞き、それしかないと判断したようです。
「いちかばちかやるしかないようだ」
彼はらしくない行動をとります。
「元老院はローマを離れてはならない」
そう宣言し、元老院議員を拘束、夜陰に乗じてガレー船を動員、元老院議員をローマへ強制送還したのです。
同時に数少ない軍を商船にのせ、カルタゴを脱出、レプティス・マグナ沖合を迂回して、キュレナイカのアポロニア――リビア東部にあった港湾都市、キュレネという都市の外港――に逃げ込みました。
アポロニアを制圧、ここを根拠地に、ヘスペリデス――現在リビア東部のベンガジ――をも制圧、セウェルスに対して抵抗の姿勢を示したのです。
ディディア・クララもサブラタを引き払って、アポロニアに移ってきました。
「ウェテリス軍事護民官殿、アフリカ属州総督ユリアヌス殿より使者です」
セウェルスの監視を逃れるために、シチリアをかなり迂回、ガリア沿岸からオスティアに入港した、アフリカ属州総督のガレー船からの使者です。
「ほう、元老院議員を送り返す?元老院はローマにあるべき……」
「たしかにその通り、セウェルスに皇帝即位を打診した?」
「どうするかは、ローマ市民の代表としての元老院が決めるべき事……」
「なになに、勝手に元老院属州たるアフリカ属州を皇帝属州とすることを承認?なるほど、これが原因か」
首都ローマでは、戻ってきた元老院議員は批判の真っただ中、市民は石を投げつけ、売国奴とののしっています。
シチリアの穀物が滞り、イタリア本土、特に首都ローマでは、徐々に食糧が不足し始めていますので、その元凶であるセウェルスに対しては評判が悪いのです。
そこへいち早く逃亡し、あろうことか、セウェルスを皇帝にしようとした元老院に対して、断罪せよとの声が広まり始めました。
慌てて元老院は、セウェルスを国家の敵とし、人気が高いウェテリスを、執政官に選出します。
そしてユリアヌスを、アフリカ属州総督のまま、クレタ・キュレナイカ総督を兼務させることを承認しました。
「なんだと!」
元老院議員逃亡の報告を聞き、セウェルスは激怒しました。
「いったい何処へ……」
参謀長でもあるプラウティヌスは、こう進言します。
「すぐにカルタゴを占領しましょう、アフリカ属州を占領すべきです」
そんな中、ウェヌス教団から、ヌミディアの女騎兵隊の姿がひっそりと見えなくなります。
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