上 下
17 / 156
第二章 シング・ア・ソング・シックスペンス

亡霊の具現化

しおりを挟む

 さて、どうしますか……

 と、その時……再び意識が私の部屋へ戻ります……
 まだ、時間は止まったままです……

 困ったわね……
 どうやら、この状態を解除するためには、あの方のお仕事をしなければならないようです……
 癪ですね……それに代価はどうするのでしょう?

 いままでの経験から、これは……
 またあの怖い女たちの、吊るし上げにあうことになりますし…… 

 紙が私の机の上に置いてあります……

 ……ヴァルナの娘よ……鏡の世界へ旅をせよ……

 これは完全に父と母の手紙ですね……
 なぜ、あの方は内緒というのか……

 思った瞬間に、認識しました……
 これは試練なのだ……
 父も母も含めての……

 介入をさせてはいけない……
 それは二人を危うくする……

 私が考え、私が何とかするしかないようです……
 危うくなると、両親の介入が起こる……

 なるほど……

「ご主人さま……ここは……」
 声がしました……
 なんと、クリスティン・ハワードさんが、ついてきています。

 彼女がここにいられるということは、この空間が切り離されているということです。
 そこにいるエステラさんとは、時空が違うのでしょう……

 まぁ、いいわ……
 どのみち、今見た世界に戻されるでしょう。
 あってはならない世界でした……

 私は多分あの世界でも、物を作り出すことができるはず……
 なら各種の通販カタログ、物品カタログを、今一度思い出せるか、確認しました。

「ご主人さま……」
 不安そうなクリスティンさんに、返事もしていないのに気が付きました。

「あっ、ごめんなさいね……」
 クリスティンさん、恥ずかしそうに立っています。
「貴女、こちらに来てください」

 やはり……幽子が……質量をもち始めている……
 この体……しかし亡霊と認識している記憶領域が、自身の具現化を阻止している……
 ただ具現化しても……陽炎のようなものですかね……

 しかし、間違いなしに質量をもつことになる……これは……私たちの三千世界に、確実に影響する……
 完全に物質化すればいいのですが……幽子が混ざるような世界があらわれると……

 残留思念、これが周りの思念に影響を与える……
 分かりやすくたとえれば、現れた残留思念の、基本的な思考が伝染する……

 残留思念の、無意識の中にある価値観が、伝染するのです……
 これは良き思考だったとしても、許容できません。
 やはり価値観とは、人が人であるための基本、自らが受け入れるものでなければなりません。

 とはいえ問題は、あの方がいけないと、云っているのですから、なにか問題があるのでしょう。

「亡霊といえど、服を着ていますね……すべて脱いでくれますか……」
 ビクッと体が震えました……
 亡霊といえど羞恥はあるみたいです。
 おずおずと脱いでくれました。

 私はまじまじと、クリスティンさんの裸を見ています……
 クリスティンさん、一瞬逡巡したようですが、意を決したような顔をして、
「どうぞ、ご覧ください」……

 そんな意味ではなかったのですが……
 でも体を再現するためには……結局、あのエラムでのパスポートキーの、登録まがいの事をしなくては……
 いや、よく考えると簡単ですね。

 別に肉体を実体化、つまり具現化するわけではないですからね。
 もとの世界で、住めるようにすればいいわけですよ。

 亡霊と認識している記憶領域に、これからは亡霊ではないと、書き込めばいいだけです。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

みんな大好き、中華料理

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:36

転生したら英雄のアレにコテンパンにされた

BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:30

【短編集】人間がロボットになるのも悪くないかも?

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:3

されたのは、異世界召喚のはずなのに、なぜか猫になっちゃった!?

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:67

使い魔を召喚したら魔王がきた

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:37

狐のお嫁さん

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

おぱんつ!ぱにっく!

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:11

処理中です...