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第四章 真野静香の物語 ドルイダス
女神の美しい微笑みは、まことに冷酷で美しい
しおりを挟むドルイドが言葉を返します。
「エスス様をより怒らす?我らはエスス様をお静まりいただくために行っている、トリックオアトリート――ハロウィンで子供達がいう有名な言葉、でも作者としては、汚れ泣き処女をさしだせ、さもなければ皆殺しにする、との意味を込めたい――でいつも汚れなき処女を探し、十年に一度は最高の女を差し出している」
「貴女はこの世界の最高の女、エスス様より遣わされた方、その方を汚れなき処女とともに、御許に捧げるのが何が悪いのか!」
「エスス様は生きた女を好まれる、魂だけの捧げものではご満足されない、魂とともに、生きた入れ物である体も、共に捧げることをお喜びになる」
「死者は敬うものだが、それは『穢れ』なのだ、エスス様は魂を慈しみなされ、再び転生を約束なされるが、エスス様をお慰めすることにはならない」
「死者の再生に、エスス様はご苦労なされるが、汝らはそればかりを強要しているのではないか?」
「一度として、エスス様をお慰めしたことなど、ないのではないか?」
「それでは、我らの今までの行いは……」
「エスス様の御怒りを買うばかりの行為」
「私はエスス様より、このような行為を改め、汝らをエスス様の信徒として、エスス様の光輝く世界に導くようにと、遣わされたものである」
「さらに言えば、このことがかなわぬならば、この『穢れ』を量産するスカラ・ブレイを、滅するように申し付かっている」
「祭司長ドルイドよ、私はどちらでも構わぬ、エスス様のご命令を遂行するばかり、これ以上は、よく考えて行動するがよい」
静香さん、穏やかな微笑みを浮かべながらの言葉ですが、それがより一層、恐怖を増殖させたようです。
「一つ、エスス様より授かっている力を見せてあげよう、空よ、この地に恵みを授けることをやめよ、暗闇よ、来たれ」
静香さんの言葉に反応して、ナノマシンが行動を起こします。
見る見る雲が沸き起こり、日を遮り始めたのです、それは厚く大地を覆い、一切の光を通しません。
ナノマシンが固体化して結合、付近一帯をドーム状に覆い遮断したようです。
一寸先も見えぬ闇が覆いつくし、この地に参集したスカラ・ブレイの住民たちは、恐慌状態に陥ったのです。
「灯よ、あれ」
一つの灯が浮かび上がります。
「いまの汝たちの状態は、この一つの灯があるばかり、それも消えかけている、これを消すのか?祭司長ドルイドよ、しばし猶予を与える、心して返事、または行動をせよ」
……この世界に残された、ただ一つの灯に照らされた女神の美しい微笑みは、まことに冷酷で美しい……
こののち、スカラ・ブレイの余多の吟遊詩人が唱える有名な場面となったのです。
「エポナ様……おっしゃられる通り、生きた見目麗しい処女を捧げれば、エスス様の御怒りは解けるのですか?」
「エスス様は心優しきお方、身を捨てて従うものはお見捨てにはならない、ただし嘘偽り、偽善などは嫌われる」
「汝らは一度お怒りを買っている、次は警告なしに世界は滅ぶことになる」
「エポナ様に従う……」
「では神殿に、生きた見目麗しい女を献上せよ、その者たちを通じて、エスス様のご加護があろう」
「エスス様に召された女は、悪いが返すことはできないが、多くはひと時働けば、汝らの世界に返すこととなろう」
「召された女の数が多ければ、エスス様の光輝く世界での、スカラ・ブレイの存在が大きくなる」
「それはエスス様のご加護が、スカラ・ブレイに対して増えるということと考えてよい」
「エスス様の世界は、こうして召された女で成立しており、その世界の住民は召された女に敬意を払っている」
「この私も、貴方方が知らぬ世界の召された女の一人である」
「エスス様の世界はネットワークと呼ばれている、いまここでネットワークの掟を守り、エスス様の御手にすべてをゆだねるや?」
「ゆだねる、ネットワークの掟を守り、見目麗しい処女を献上する、だからご加護をお願いする、我らをお守りください」
「よろしい、スカラ・ブレイが盟約を守る限り、光は降り注ごう」
静香さんが手を一振りすると、闇が消えていき、光が降り注いだのです。
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