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第七十四章 深層風景

神とはどこまで底知れぬのか

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 私は完全体……ルシファー……神が待ち望まれた存在……
 完全体は遥かな昔に、実現可能だったのです……

 キュベレーの分裂した、男らしい男と……もう一人……女となったであろう、女々しい心……
 しかし女とみれば、これは女らしい女……この女にキュベレーの男の心を融合できれば……

 ある意味、完全体は実現できたはず……軍事称号ルシファーを持つ女、キュベレーが……

 神は理解していたはず、進化の果てに、高等生物は男が衰微する……
 キュベレーが云ったように、闘争こそが男の存在理由。

 世界が進化すると平和が訪れる……すると男は衰微する。
 ならばと、戦いを許容して進化を導くと、戦いの果てに自滅する……

 神はこの問題にたいして、女だけの二母性単性生殖で対応しようとしたが失敗した……
 そこで女の中に、男っぽい女をつくり、求め合う相手をつくり上げることで、問題を解決しようとした……

 男性体の中に、女の心を作り、それを分離させて、そしてその中に男の心を融合、女が優位の完全体を作ろうとした……

 慈悲と冷酷、創造と破壊、矛盾する二重スタンダードを、ケースバイケースで何事も無くやってのける力……完全体……

 しかし男のキュベレーは拒否した……
 そうでしょうね、男としては、仲間にも心を分けることを強要した手前、絶対に受諾は出来ないはず……

 神に融合を囁かれ、イシスを勧められた……
 拒否した結果、やって来たのは私……ルシファー……

「だからイシスではなく……貴女なのか……」
 キュベレーの言葉は、これで説明がつくが……

 神が望まれた完全体はキュベレーだった……
 この時点で、アスラ族女性体は衰退を始めていた。
 多分急速に、生きる力を失い始めていたのでしょう。
 生殖に興味も情熱も、失っていたからでしょう……

 女のキュベレーはどうなったのか……こちらは男を求めたのでは……

 アスラ族女性体は力を失い、男性体は凶暴化しだして、神の手に負えなくなった……

 使えるコマは、男と仲良く生活していた、辺境の星のアスラ族女性体……しかし力を失い始めている……アンドロイドたちを制御できなくなっている……

 神の望まれたのは、三千世界といわれるこの世界の持続……

 そのためには、膨大なアスラ族遺物であるアンドロイドたちを制御出来る力。
 そして生物たちを指導し、世界を存続させる力。
 進化の果てに残る女たちを魅了する力。

 神はそこに、男の力を認めていたのでしょう……

 そこで目をつけたのが、アスラ族女性体としての女のキュベレー……
 男を求める心ゆえに、欲望が残っている。
 そして力はアスラ族女性体よりも、強大なものを持っている……

 この女を使うしかないはず……
 神は目的のために、無慈悲な行為に出た……

 女のキュベレーの記憶を消し、新しい人格を作り、さらに全ての事実を捏造して、正しき歴史とした……
 そしてその女のキュベレーの名前を、イシスとした……

 イシスには完全体を見つけ、守り育てる使命感を刷り込んだ……
 そしてイシスは行動を起こした……

 神……『天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)』と呼ばれるものよ……
 姉の為に、私は涙し貴方を罵倒しよう……本当は殴ってやりたい……
 仕方ないこととは理解するが、あまりでしょう……

 しかもイシス姉さんは、私が世界を投げ出さないためにハレムを増殖させている……
 貴方は私をこの世界に繋ぎ止めるために、姉に此の様なことをさせ、女たちの自由を拘束させる……

 私はいい、なるほど私は色魔とも呼べる存在……しかし……世界を存続させるために、サリーさんたちを犠牲にするのか!

 ……

 いや、そうではない……サリーさんたちは……
 私が寵妃にしなければ……惨めな末路だった人が大半……
 代価は正当に支払われている……

 ……神とは……どこまで……底知れぬのか……

 神は云ったのでしたね。

 なぜ何もないのではなく、何かがあるのか、なぜいま汝があるのか?
 夢で聞かれた命題です……
 あの時、私は間違っていたのでしょう。

 今こそ答えましょう……
 『すべては必然、あるゆえにあるのだ』と……

 このような命題の答えはないのです、答える者の思うことが、全て正しいともいえるのです。

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