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第五章 ゾンビ

傭兵隊長の思い

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 ゾンビの襲撃はかなり局地的、どうやら私を狙ったようですが……

「マレーネさん、広範囲に記憶を消去できますか?」
「それは可能ですが、傭兵隊長はどうします?」
「私としては消去したいのですが?」
「そうですね、私としてもそのほうがいいとは思いますが……」
「歯切れが悪いですね」

「あまりに思いが強いと、幽子にその思いが刻まれてしまい、消去するにはかなり人格が傷つくかもしれません」
「では、普通に消去しようとしても、消せない人もいるということですか?」

「そうなります」

 でも大多数は消せるのですから……
 取りあえずは、それを実行しましょう。

「消せない可能性がある者は、傭兵隊長だけですか?」
「いえ、かなり恐怖を受けた者も消しにくいかと……」

「今回のように、幽子に刻まれるような記憶と体験は、女性に多いのです」
「男は基本的には鈍感、それにある意味、精神がタフな事もあります、でも近頃は繊細な男が多いので……」

「でも人格損傷をおこさない程度に、強めに記憶消去をすれば……今回の様な事は……本人も消したいと思う記憶でしょうから、でも……」

「でも……?」

「愛は消しにくいということです」
「私も人工知能、このような人の感情は計算出来ないのですが、イレギュラー持ちになって、マスターに官能をいただき支配されてからは、この愛と云うものが、少しは理解できるのです」

「一度掴んだ、もしくは捧げた愛は、どのような手段を使っても離さない」
「その強固な感情が、その者を構成するには不可欠の要素となります」
「愛とは醜悪です、執念の中でも、もっとも強力な思いです」
「それゆえに、幽子にまで刻まれてしまうのです」

「わかりました、では人格損傷をおこさない程度に、強めに記憶消去を実行してください」
「もし消せないならいたし方ありません」
「約束通り私の物になってもらいましょう」

 マレーネさんが、今回の惨劇の記憶を、消しにかかります。
 私はゾンビの死体を始末し、今回のゾンビによる死者は、心筋梗塞などの突発性の死因に偽装しました。

 概ねうまく云ったようですが……やはり……

 傭兵隊長はウリカ・ベックマンさんといいました、三十歳だそうです。
 かなり精悍な顔で、全身引き締まった身体、がっしりとした体格をしています。

 口の大きな女性です、アマゾネスといった雰囲気がします。
 金髪碧眼、見るからに北欧の女、聞くとスウェーデン生まれとの事、よくよく見るとかなりの美人さんです。

 元スウェーデン陸軍を中尉で退役、その後、ブラックウォーターUSA、いまはXEサービシズLLC社ですか、その民間警備会社へ、ヘッドハンティングされたとのこと。

 この会社、あまりに非人道的な行いが批判されて、社名を変更したいわくつきの会社です。
 多分ジョン・デヴィッドソンさんに買われたのでしょうね、なんせ軍事が好きですからね。
 あのアリシアさんの親父は、力の信奉者ですから。

「ウリカ、脱ぎなさい」
 ウリカさん、しずしずと脱ぎますが、傷だらけですね、銃創、刀創、火傷のあとや、手術跡などオンパレードです。
 骨折の跡もいくつもあります。

 ここまで傷だらけには、意味があるのでしょう。
 命がいらないようですね、どうしてここまで……
 まぁ聞かぬ事にしましょう、私を愛していてくれるのですから……

 でも、この身体は徐々に直るでしょうが、エッチの前には少しね、治しちゃいましょう。
 さすがに三十歳、ディアヌさんなど、比べ物にならないほどの床上手、というより筋金入りのマゾさん、バラ鞭などでピシピシ、パシパシ……

 私の物にするのに、罪悪感はなくなり、なんかやる気になりました、征服してあげます。
 その身体が、私を求めて仕方ないように……

 ウリカさん、多分、なにも考えられないでしょうね、陶酔した顔です。
 ここでもバラ鞭などでピシピシ、パシパシ……
 官能に悶えていますね。

「さて、終わりです」と唐突にいいますと、ウリカさん、涙目になりました。
 恨めしげに私を見ています、と……
「して下さい!」と、突然叫びます。
 あとはあまりに卑猥な言葉が続きます。
 またもバラ鞭などでピシピシ、パシパシ……

 すこし落ち着きましたので、ウリカさんを引き寄せて、今度は濃厚な女同士の愛を……
 ウリカさんの首には、側女のチョーカーが輝いています、私はこの元軍人さんの保護者となりました。

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