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第一章 転入生

吉川姉妹

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 その後、クリームヒルトは偏った天才ぶりを発揮することになりました。
 臨時ホームルーム、体育、と続き三限目、数学の時間。

 先生が黒板に連立方程式を書き、クリームヒルトを指名し答えを書かせますと、黒板の前に歩いていったクリームヒルトは、無造作にチョークをとって、黒板に答えを書いてしまいました。
 途中の式は無し、暗算で十分だったみたいです。

「吉川さん、数学は得意なのですか?」と、聞かれて、「美子姉様みたいに好きではありません」と、言いいます。

「お姉様に教えていただいたの?」
 と、聞かれたので、胸を張って答えます……
「美子姉様はリーマン予想を解かれていました、私はその解法を教えていただきました」

 ほ・ほ・ほ・と笑った教師に、カチンと来たクリームヒルト、その解法を長々と黒板に書いてしまって……

 何気なしに、その女性数学教師は、この解法をメモったのです。
 これが後々、とんでもないことを引き起こしてしまいました。

「吉川さん、貴女は中学数学を物にしているようですが、授業は受けてね」
 とか云われて、簡単にご機嫌が直ってしまったクリームヒルト。

 でも、次の授業はクラスメートと変わりません。
 というより、むしろ出来が悪いみたい……旗色が悪いのです。
 家庭科……お裁縫だったのです。

 雑巾を縫うということで、二人の姉が用意してくれたボロ布を縫ったのですが……
「痛い!」
 針などを指に突き刺して、大騒動をしながら、やっと縫い上げました。

「吉川さんって面白い!」
 と、佐田さんに云われて、すこし膨れたクリームヒルトでした。
 お昼を知らせるチャイムがなります。

 クリームヒルトは、早く姉たちとお弁当を開きたくて、食堂に走っていきます。
「お姉さまぁぁぁ!」
「こっちよ!」

 お二人は食堂の隅のテーブルに座っていました。
 そのテーブルには、お二人以外誰も座っていません。

 やはり……近寄れないわよね……なんといっても、お二人は女神というべき方、そこら辺の女が馴れ馴れしく喋(しゃべ)っちゃいけないのよ!

 息を切らせて走ってきたクリームヒルトに、二人は微笑みます。
「そんなに走らなくても、私たちは逃げませんよ」
「とにかくお弁当を食べましょう、今日は腕によりをかけて作ったのよ」

 吉川美子がドーンと重箱を出します、五段重ねです。
 ご飯はおにぎりが色とりどり、海苔などでパンダなどが作ってあります。
 さらに豪華な海鮮ちらしが、ドンと一段を占領しています。

 おかずが三段にわたって、ぎゅうぎゅう詰めに詰まっていますので、三人で食べるには十分……いや五人でも十分……

「でも私たちに、可愛いお弁当を渡してくれたのでは?」
 と、茜がいいました……

「美子姉様、作り過ぎでは……」
「いや、誰かと出来れば、一緒にと思ったのですが、誰も来なくて……クリームヒルトはお友達できそう?」

「なんとか出来ましたけど……姉様たちは出来なかったの?」
「出来なかったわね、誰も寄ってこないのよ、姉さんはどうなの?」
 美子が聞くと、茜が「似たり寄ったりでした」と答えます。

 お二人は多分作らなかったのだと、クリームヒルトは思っています。
 お二人ともご休憩に来られたのだから、変に関わりを持つことを避けられている……

 可哀想な蓬莱……テラは……お二人とも逃げられなくなった最大の理由は……寵妃さんたちに身を差し出された事なのですが……

 そうよね……特に美子姉様は、ボロボロになられるほど戦われたとか聞いているわ。
 蓬莱がどうなろうとも、大勢に影響はないし……
 やはり美子姉様のお体が大事なのよ!

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