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第八章 予言プログラム

暁の女神アウロラは踊る

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「クリちゃん、予言の話、知っている?」
 と、クラスメートが話しかけてきました。
「知っているわ、昨日もマチちゃんたちと、その話をしていたの」

「クリちゃんは信じるの?」
「信じるわ、信じて損はないでしょう?もしこの辺にもオーロラがでれば、それは神様事でしょう?」
「クリちゃんがそう言うなら……私も信じるわ……」

 マチちゃんが後で、
「皆、信じてくれれば……」
「皆、乗り越えて欲しい……」
 とミチちゃんも願っています。

 秋がやって来ました。
 五色の紅葉をまとい、錦繍の秋です。
 しかしある夜、北半球の空にオーロラが踊りました。
 オーロラ爆発です。

 その名はローマ神話の、暁の女神アウロラに由来するといわれています。
 古来から凶兆といわれ、神の怒り、災害の前触れと語り継がれるオーロラ……

 夜空といいましたが、秋が深まると共に、昼でも青空をあざ笑うように、暁の女神が踊っています。
 そして秋など関係ない南半球でも、暁の女神アウロラは踊っています。

 天空に暁の女神が踊る、美女は危険なのです。
 本来、赤道にオーロラなどは出現しないのに……
 ところかまわず、暁の女神は踊り狂っています。
 蓬莱の気象学者はパニックでしょうね。

 そして授業中に、女神の言葉が聞こえ始めたのです。
 それは体育の時間でした。

 体育の女教師が、
「皆さん、これは女神の予言かも知れません、祈るものはお祈りしなさい、授業中でも構わないでしょう」
 その様に云ってくれました。

 ……蓬莱の人々……私を信じて受け入れてください……来たる試練を乗り越える為に……
 私は皆様の争う心を、小さくしたいのです……さすれば……試練も難なく乗り越えられる……
 最後の審判なのです……選択を間違わないで……

 クリームヒルトには、その様に聞こえました。
 美子姉様の心が感じられます……

 美子姉様のお気持ちが、人々に届いているはずです。
 そして広まっていた予言の噂が、噂でないと実感しているはずです。

 この蓬莱に満ち満ちているナノマシンが、60億の人々の隅々まで浸透しているでしょう。
 利己特性の削除、言葉を変えれば人種改良です。

 美子姉様は最後まで、悩まれていたフシがありましたが、カリさんの言葉で、お気持ちが整理出来たのでしよう。

 見渡せば多くのクラスメートは、手を合わせ祈っています、中には涙している娘もいました。
 多分、受け入れたものは理解したと思います。
 天空のオーロラが微笑んだのを……

 その日から、世界はなんとなく変化して行きました……
 争いが沈静化してきたのです……
 人々は徐々に農耕に戻り始めました……収奪組織としての国家は、変貌していきます。
 ただ見る見る活力がなくなってきたのは確かです。
 のんびりとした世界が現れ始めています。

 あちこちで、アーミッシュのような考えが浸透し始めています。
 新しい蓬莱人のアイディンティティ、自然との共存、与えられたもので満足する気質……
 そしてクリスマスまでには、蓬莱世界は統一の機運が高まり始めました。

 勿論、裏でクリームヒルトが、宇賀一族と四つの組織をこき使って、画策した結果なのですが。
 でも見てくれの世界は、そんなに変わっていないのです。

 まだまだ多くの人が、予言を拒否し、心を解放しなかったのです。

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