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第九章 陽は昇る
大寒波
しおりを挟む新年がやって来ました。
蓬莱にとって、正念場の年です。
一月の中頃、太陽を観測していたSOHO――欧州とアメリカの共同開発の太陽観測衛星――が、黒点の異常を感知したのです。
この衛星は、先頃オーロラを起こした、太陽フレアの被害に会わずに済んだ、数少ない衛星の一つでした。
もっともクリームヒルトは、美子姉様がわざと残したと思っています。
「黒点が一つもない……これは大変なことになる……」
世界の天文学者は青ざめましたが、頭をよぎったことがありました。
気候変動……小氷期……そして巷で囁かれている予言……
それを思った瞬間、恐怖が全身を駆け抜けました。
急速に太陽からの熱が減少していきます。
大寒波がやってきたのです。
ロンドンのテムズ川は凍りつきます。
クリームヒルトに、ネパールのカリさんから、立体ホログラム通信が入って来ました。
「そちらの寒波はどうですか?」
クリームヒルトは先に問いかけました。
「ものすごい寒波ですが、美子様のお言葉を受け入れたものは、不思議に寒さを感じません」
「でも外へはでられません、いま私に従ってくれている女たちと共に、ムスタン――2008年まで存続していたネパール内の自治王国――近くの村にいます
「ここの廃墟となっていた尼僧院を購入し、そこに住んでいます」
「食料は、美子さまの通信カタログシステムのお陰で、困りませんが一つお願いがあります」
「どのようなことですか?」
「この近くに、ボランティアの診療所があるのですが、吹雪で倒壊してしまい、その診療所をこちらに引き取ろうと思うのですが……」
「貴女は美子姉様の女、殿方と同じ屋根の下は……」
「仕切りを作りますので、それに診療所の方は男の医師が一人、後は看護婦が二人と女性医師が一人……日本人とドイツ人です」
「このままでは良からぬことが起こります、人のために尽くして来た人々です、何とかしたいとおもうのですが……」
「……いいでしょう、執政官として許可します……貴女は、私たちのことは知っていますのでいいのですが、まだ一般の方には知らせる訳にはいきません」
「その所はよくよく上手く対処してください、なにか必要な物はありますか?」
「私たちはいいのですが、診療所の方々にはある程度の衣食住が……」
「とりあえず私が、そちらに行きましょう」
といいます。
「稲田先生、私は今日風邪を引きました、明日も風邪です」
強い口調でいいました。
「わかりました……」
と、稲田先生はうなずきましたが、クリームヒルトにも一抹の不安がよぎります。
「スピンクスさん、ついて来て頂けませんか?」
「どうして?」
「私はまだ魔力の使い方に慣れていません」
「いいですよ、協力しないと、ハウスキーパーに怒られますから……」
話を聞いて美子姉様が、
「クリームヒルト、大丈夫、私が行くわよ?」
「大丈夫です、これでも執政官ですから!」
美子姉様が、
「スピンクス、新任の蓬莱の執政官、必ず守るのよ、私の可愛い妹なのだから」
と、言って下さりました♪。
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