上 下
81 / 83
第九章 陽は昇る

蓬莱世界

しおりを挟む

 利己特性を恐怖で消し去れば、残るのは受け身の心……
 ある意味、成長の目を摘むことになる……人としての尊厳を踏みにじる……

 しかしカリの言葉で、ささやかに平和に日々を過ごしたい、その様な想いに比べれば、何ほどのこともない……そう美子は決断したのです。

 蓬莱は幾つかの都市部と、多くの田園地帯に分かれ始めました……
 多くの人々は、都市を捨て自然に帰り始めています。
 しかし学問や経済の必要性も認めています。
 その為に都市が残っていますが、都市部の人口は減少を続けています。

 そんな中でも、徐々に活力を失い始めているのは、クリームヒルトにもわかります。
 十年もすれば……百年ほど前に戻りそう……

「美子姉様……現代は残りそうもありませんが……」
「いいえ、よくやりましたね、貴女のお陰で蓬莱はこのあたりで止まるでしょう」
「私と姉には思い出深い世界……うまくいけばこのままで何とかなるかも……ありがとう」

 そして聖ブリジッタ女子学園山陽校での一年は終わり、二人の姉は転校して行きました。
 マチちゃん、シズちゃん、ミチちゃんの三人も転校します。
 転校先は惑星ヴィーンゴールヴのモンスター地域の籠目(かごめ)高等女学校です。

「夏休みには遊びましょうね」
 とクリームヒルトが言うと、三人が、
「クリちゃん、いつまでも友達でいてね!」
 と抱きついてきます。
 稲田先生が、
「週末には蓬莱ステーションに戻ってくるのでしょう、毎週会えるじゃないですか?」

「マチちゃんたら慌てものね」
 とシズちゃんが笑いました。
 シズちゃんたら、相変わらずうまいわね……自分が一番、慌てていたのに……

「クリームヒルト、蓬莱を頼みましたよ、貴女の計画通りにね」
「宇賀さん、クリームヒルトを頼みましたよ」

「それからスピンクス、後一年、この蓬莱で執政官見習いをするように、クリームヒルトとヴァランティーヌを守ってくださいね」

 美子姉様はその様に言われました。
 クリームヒルトはなぜか元気が出たのでした。

 クリームヒルトは考えていた。
 蓬莱の文明、その価値観の違いによる衝突、つまりは民族間の争いはなくなった。
 根深い利己特性が恐怖により枯れ、ナショナリズムもあまり見受けられない。

 蓬莱本来の文明は、ここに途絶えたのでしょう……
 一つの文明を破壊したのですね……だから美子姉様は行き着くところまで、様子見をしようとしたのでしょうが……

 でもしたかない……生命と平和と……縁ある女の訴えを是とされた……
 正しいか正しくないかは、この後次第……導く者の力量次第……

「私……頑張らなくては……」

しおりを挟む

処理中です...