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第九章 陽は昇る
蓬莱世界
しおりを挟む利己特性を恐怖で消し去れば、残るのは受け身の心……
ある意味、成長の目を摘むことになる……人としての尊厳を踏みにじる……
しかしカリの言葉で、ささやかに平和に日々を過ごしたい、その様な想いに比べれば、何ほどのこともない……そう美子は決断したのです。
蓬莱は幾つかの都市部と、多くの田園地帯に分かれ始めました……
多くの人々は、都市を捨て自然に帰り始めています。
しかし学問や経済の必要性も認めています。
その為に都市が残っていますが、都市部の人口は減少を続けています。
そんな中でも、徐々に活力を失い始めているのは、クリームヒルトにもわかります。
十年もすれば……百年ほど前に戻りそう……
「美子姉様……現代は残りそうもありませんが……」
「いいえ、よくやりましたね、貴女のお陰で蓬莱はこのあたりで止まるでしょう」
「私と姉には思い出深い世界……うまくいけばこのままで何とかなるかも……ありがとう」
そして聖ブリジッタ女子学園山陽校での一年は終わり、二人の姉は転校して行きました。
マチちゃん、シズちゃん、ミチちゃんの三人も転校します。
転校先は惑星ヴィーンゴールヴのモンスター地域の籠目(かごめ)高等女学校です。
「夏休みには遊びましょうね」
とクリームヒルトが言うと、三人が、
「クリちゃん、いつまでも友達でいてね!」
と抱きついてきます。
稲田先生が、
「週末には蓬莱ステーションに戻ってくるのでしょう、毎週会えるじゃないですか?」
「マチちゃんたら慌てものね」
とシズちゃんが笑いました。
シズちゃんたら、相変わらずうまいわね……自分が一番、慌てていたのに……
「クリームヒルト、蓬莱を頼みましたよ、貴女の計画通りにね」
「宇賀さん、クリームヒルトを頼みましたよ」
「それからスピンクス、後一年、この蓬莱で執政官見習いをするように、クリームヒルトとヴァランティーヌを守ってくださいね」
美子姉様はその様に言われました。
クリームヒルトはなぜか元気が出たのでした。
クリームヒルトは考えていた。
蓬莱の文明、その価値観の違いによる衝突、つまりは民族間の争いはなくなった。
根深い利己特性が恐怖により枯れ、ナショナリズムもあまり見受けられない。
蓬莱本来の文明は、ここに途絶えたのでしょう……
一つの文明を破壊したのですね……だから美子姉様は行き着くところまで、様子見をしようとしたのでしょうが……
でもしたかない……生命と平和と……縁ある女の訴えを是とされた……
正しいか正しくないかは、この後次第……導く者の力量次第……
「私……頑張らなくては……」
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