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第十四章 踊り子

04 ジゼルの第二幕

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 さて、私たちの踊り子一座の名前をつけなければなりません。

 教団領に入るにあたり、名前にあるメッセージを込めました。
 この名前を聞けば、少なくともこの人はコンタクトを取ってくるはずです。

 一座の名前は『踊り子セリム一座』、コンタクトを取ってくる人はピエールとアンリエッタ。
 私の信用する騎士とその妻です。

 踊り子セリム一座は次のメンバーです。

 座長はニコル

 踊り子は

 アテネ
 サリー
 小雪
 私

 警備担当と黒子 ビクトリア
 経理担当と照明 ダフネ
 総務担当 アナスタシア

 雑務 マリー、アリス

 ニコルさんを団長にしましたので、一座の運営、交渉は大丈夫と思います。
 なんたってジャバ王国のアポロ執政を、お尻の下に敷きかけている影の実力者、力量に疑う余地はありません。
 また唯一私に、秋波を送らない貴重な人材です。

「ニコルさん、このたびは団長を引き受けていただいて、ありがとうございます。」
「私ともども皆をよろしくお願いします。」
 と、頭を下げて感謝を表します。

 すると、
「イシュタル様も大変ですね、皆さんを伴っての今回のお仕事、色々とありましょう。」
「夜のことは、イシュタル様にご負担がかからぬように、私が上手く捌けと、アポロにも云われております。」

「なにせ皆様、イシュタル様命ではありますが、夜のこととなると狼ですから、まぁお気持ちは痛いほど分かります。」

「私もアポロに慰めてもらっていますが、イシュタル様の御前にこうしていると、初めて出会ったときのときめきを思い出しますもの。」

「ところでマリーさんはどうされますか、マリーさんもサリーさんの妹、イシュタル様にあこがれているのは、はっきりしています。」

「マリーさんは、平凡で幸せな生活を、送って欲しいと考えています。」
「可哀そうなマリー……」
 ニコルさん、そんな云い方は止めてください、私が人でなしに聞こえて仕方がありません。

 私たちはジャバ王国の出身、イシュタル女王の贔屓に預かっている一座で、身分手形はイシュタル女王の御璽が押してあります。
 自分で自分の御璽を、バンバンと押しました、一座の馬車はアポロさんが用意しました。

 出し物は色々紛糾しましたが、最初にアテネさんの剣舞、ついでサリーさんがエラムの踊り、小雪さんのバレエのジゼル、最後に私がベリーダンスを踊ることになりました。

 小雪さん、なぜ貴女がジゼルで、私がベリーダンスなのですか?
 ジゼルって、死装束で踊るバレエでしたっけ?

「小雪さん、ジゼルの第一幕を踊るのですか?」
「いいえ、第二幕ですわ、第一幕の小娘の踊りは好きではありませんし、狂乱の踊りは私には理解できません。」

「大体、男に裏切られて錯乱して死ぬなんて、そんな愚かなことは、私の矜持がゆるしません。」
「でもマスターに裏切られたら、錯乱するかも……」
 小雪さん、顔が怖いです……。

「で、なんで第二幕なのですか、それに第二幕は一人では踊れないかもしれませんが?」
 そう、ジゼルの第二幕は、夜の森の沼のほとりの墓場で踊られます。
 その時、ふわっと浮き上がり、亡霊のように踊る有名な踊りは、ソロで踊れないのではと思うのですが?

「マスター、ここは惑星エラム、ジゼルをその通り踊る必要はありません、それにエラムには魔法があります。」

 魔法?

 浮遊の魔法のイメージが湧きません。
 風をイメージすれば可能でしょうが、舞台で踊る時に、風が渦巻いては問題がありましょう。

 私が首を傾けていると、小雪さんが、「ビクトリアという魔法ですよ。」
 なるほど、ビクトリアさんが黒子として、小雪さんを持ちあげるのですか。

 小雪さんはビクトリアさんの師匠、嫌とは云いにくいですね、可愛そうなビクトリアさん!
 それで、アテネさんが最初なのか分かりました。
 ビクトリアさんが黒子をしている間、アテネさんが警備をする訳ですか。
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