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第十五章 教団領へ

07 浴室での密談

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 私はアンリエッタさん会談中です。

「あれから私たちは昔のつてを頼って、ピエールは神聖守護騎士団に、私は中央神殿女官になり、ヴィーナス様をお待ちしていました。」

「しかし、昔の一件がありますので、嫌でも反アムリア帝国派に組するしかなく、その結果、危うい立場になっています。」

「どうしようかと思っていたところ、ダフネさんとアナスタシア様がやってきて、ヴィーナス様がいらっしゃると聞き、二人して喜んでいたところです。」
「しかもヴィーナス様は、ジャバ王国女王に即位されているとのこと、おめでたいことと存じます。」

「アンリエッタさん、ピエールさんはお元気ですか?」
「お蔭様で、とくに今回のヴィーナス様がいらっしゃると聞き、勇気百倍と申しておりました。」
「本当は直にお目通りしたいところですが、何分場所が場所、いたしかたないと云っていました。」

「今後のことですが、ピエールさんは今回のことを、資金援助だけで乗り切れますか?」
「当面ジャバ王国としては、表立っての援助はできないのですが?」

「聖戦騎士隊はピエールの下、一枚岩ではありますが、今回、兵糧攻めにあっている状態、これ以上支援してくれる人には迷惑を掛けられません。」
「しかしヴィーナス様の資金援助あれば、衣食事足りるので、この苦難も乗り切れます。」

「またダフネさんが、アポロ執政の反転攻勢の案を持ってきてくれましたので、近々、ピエールを神聖守護騎士団団長に、据えることができるかと思います。」

「反転攻勢案とは、教えていただけますか?」
「ヴィーナス様には内緒と云われていますが、ヴィーナス様は知っておられたほうがよい、と思いますのでいいますが、一言でいうと脅迫です。」

「神聖守護騎士団行政府に所属する面々は、本来の騎士ではありません、騎士になるためには、武術試練に打ち勝つか、同等の技量があると認定された者がなれます。」
「行政府の方々は、認定された方たちが大半で、行政官になるために便宜上、認定されているのです。」

「しかしアポロ執政の調査によれば、軍事力の中核をなす聖戦騎士隊隊長には、武術試練を実行する権限が与えられていたのです。」
「この権限は、かなり昔に形骸化され、忘れられていました。」

「もともと教団領の内政は内政府が行うこと、このような規定があっても、問題はなかったのです。」

「で、それを武器に脅迫ですか?」
「たしかにアポロ執政の案ですね、有効でしょう、しかし一つ追加してもいいですか。」
「なんなりとどうぞ。」

「脅迫される方々ですが、このままでは優秀な行政官がいなくなります。」
「もともと内政府が、無能だったのが原因なので、ここで優秀な行政官を、手放すわけにはいかないでしょう。」
「そこで、脅迫に懐柔を混ぜていただけませんか。」

 ?

「つまり、行政官にこのようにいうわけです。」
「貴方たちは優秀である、貴方たちの能力には、教団領の運営がかかっている、いまここで、このような手段で、貴方たちを卑屈にさせるのは忍びない、そこで中立を護ってくれないかと。」

「なるほど、たしかに中立を護ってくれればいいわけで、後々を考えれば懐柔も必要でしょうね。」

 この後、私は持ってきた小粒の金塊をアンリエッタさんに手渡して、大事なお話は終了しました。
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