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第十六章 中央神殿
04 ピエール
しおりを挟むプリプリしながら、小鳥の餌もどきの食事をしていますと、
「奉納舞の踊り子さんはどちらですか?」
と声が聞こえます。
どこかで聞いた声ですね。
やはりアンリエッタさんでした。
かなり事務的な顔をしていますので、ポーカーフェイスに「私ですが」と答えましたら、
「いまから、奉納舞いの舞台を下見にいきます。内壁の内へ入るので、ついてきてください。」
サリーさんがついていこうとすると、
「内壁の内に入るには、許可された者しかはいれません。」
とアンリエッタさんがいいます。
アンリエッタさんの顔が、微妙に頷いたのを確認したらしく、サリーさんが、
「失礼しました、踊り子は全員呼ばれたのかと、思いましたので。」
と取り繕っています。
アンリエッタさんの後をついていきますと、神殿都市の内部の、迷路のようになっている通路を通り、小さい広場にでました。
騎士さん達がパラパラいます、どうも練兵場のようです。
すると、見たことのある熊男がいます。
アンリエッタさんが近くの騎士に、団長への取り次ぎをお願いしています。
しばらくすると、ピエールさんがのしのしとこちらへ歩いてきます、変わっていませんね。
アンリエッタさんが、
「ピエール団長、こちらは今度、奉納舞をされる踊り子さんです。」
と紹介します。
「ヴィーナス・セリムと申します、どうぞ、お見知りおきください。」
「神聖守護騎士団団長のピエールです。このたびはご苦労様です、良い舞いをお願いします。」
ここでピエールさんが振り返り、どなりました。
「ところでおまえら、稽古はどうした!」
「団長、その後ろ姿の綺麗な方はどなた?」
と大合唱が起こりました。
ピエールさんは苦笑いをしながら、とても小さな声で、
「ヴィーナス様、少し奴らに、挨拶などしてくださいませんか?」
あの熊男のような、ピエールさんの情けなさそうな顔を見て、吹き出しそうになりました。
私は振り返って、
「このたび、黒の巫女様への奉納舞いをすることになりました、ヴィーナス・セリムと申します。皆さま、どうぞよろしくお願いします。」
と頭を下げます。
あれ、突然、静かになってしまいました。
「アンリエッタさん、私、なにか変なことでもいいましたか?」
と聞きますと、アンリエッタさんがため息をつきながら、「破壊的ですね、団長」と云っています。
ピエールさんが、「どうやら訓練が足りないみたいだな、お前ら!」
「ピエール団長、たまには騎士の皆様にも息抜きが必要なのでは、よろしければ、歌なり踊りなりを、いたしましょうか?」
「いえ、お気持ちだけいただいておきます、この者たちが手柄を立てたとき、そのときにはお願いいたします。」
「どうも、ヴィーナスさんがここにおられると、鍛錬にならないですね。後日、訓練のないときに、いらしてください、きっとこの者たちも喜びます。」
「お約束いたします。」
と答えると、歓声があがりましたが……
やっと奉納舞いの舞台です、その場所は、湖畔にあり、真正面に小さい島がありました。
その島には、ポツンと小さな建物がみえます。
ここから見ても、可愛らしい瀟洒な建物です。
私がその建物を見つめていると、門の手前にある門灯のようなものが、一瞬輝きました。
アンリエッタさんが息をのみましたが、何事もないかのように「ここで踊っていただきます」といいます。
ここでもまだ事務的ということは、誰かが見ていると、いっているようなものですね。
「分かりました、その時は心をこめて踊ります。」
と言って、この場を後にすることにしました。
振り返らぬように……
振り返ると、玄関灯が呼びかけるように、思えますので。
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