20 / 90
第十六章 中央神殿
05 神殿の女官
しおりを挟むアンリエッタさんが、どうやらセリム一座の担当になったようで、度々やってきます。
私たちは慎重に接しています、誰が見ているか分からないからです。
ある日、アンリエッタさんに、
「奉納舞いの練習をしたいのですが?」と申し出ると、
「では公開練習という形で、お願いできますか?」
「便利使いで心苦しいのですが、セリム一座の踊り子は女性だけなので、中央神殿の女官たちにも、楽しみを教えて上げたいと思いまして。」
「そうですか……」
「申し訳ありませんが、今日は疲れました、また明日にさせていただきます。」
「ヴィーナスさんも、今夜はお風呂にでも入って、ゆっくりしてください。」
仔細は今夜の浴室会談で、ですか……
ただいま入浴中です。
それにしても、アンリエッタさんは見事なプロポーションです。とても一児の母とは思えません。
「ヴィーナス様、どうしました?」
「いえ、アンリエッタさんはお綺麗ですね。」
「ヴィーナス様に云われると、恥ずかしさだけが残りますね。」
「こんな私でもよければ差し上げますよ……」
「別にエラムでは、自分の妻が、女の愛人を持つ分には、とやかくいわれませんので……」
私が俯いてしまうと、
「ヴィーナス様は本当にうぶですね、これでは中央神殿の女官たちを、取り扱うのは大変ですよ。」
私はこの際、疑問に思っていることを、聞いて見ました。
「なぜ、女性が多いのですか、神事をするにしても、多すぎませんか?」
「まして、黒の巫女のハレムのためとしても、そもそも、このキンメリアの時代に、一度として現れなかった黒の巫女ですよ。」
「大半の女たちは、帰る家がないのです。」
「ヴィーナス様もご存知のように、エラムでは女性が多く、言葉は適切ではないかも知れませんが、余っているのです。だから奴隷も、女性が圧倒的に多いのです。」
「貧しい家庭が多いエラムでは、娘が多いと幾人かは奴隷として売られるのです。本来、奴隷として生涯を送るべき娘ですが、親としてはせめて、ましな生涯を過ごさせたいと思うのは人情というもの。」
「少しでも見目麗しい娘ならば、中央神殿女官としての可能性に、賭けて見るのは当然の結果、教団側としても、そのあたりの事情が分かっているために、できるだけ受け入れるように、努力をしているということです。」
「もしもヴィーナス様が、この女官たちを解雇したら、殆どのものは奴隷になるか娼婦になるか、下手をすると餓死の可能性もあります。」
「重い話ですね。」
「私はいざとなれば、ピエールのもとに帰れます、しかし彼女らは帰れないのです。」
「もし黒の巫女様が現れれば、いままで代わりを勤めていた仕事は必要なくなります。必要なのは黒の巫女様の愛人、多分、彼女らは生きるために、この地位を欲するはずです。」
「ヴィーナス様には、その時、彼女らの苦しい立場をご理解していただき、嫌わないように、できれば慈愛をもって、接していただきたいのです。」
「私の知るヴィーナス様は、心から優しい方、また類まれなる叡智の持ち主、まさに万人が女神と認めてしまう方、一度、この女官たちをそれと無く、見ていただきたいのです。」
「差し出がましいとは思いましたが、なにとぞご賢察ください。」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる