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第十七章 内定

02 騎士団からのご招待

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 ここでアンリエッタさんは声を潜めて、
「クーデターで内政府が壊滅しアムリア帝国派も力を失い、これでヴィーナス様がジャバ王国のイシュタル女王と分かれば、当初の予定よりも簡単に、ヴィーナス様が黒の巫女と認められるでしょう。」

 トントン拍子というわけですか。

「問題は大賢者が空位ということです、こうなれば誰が大賢者になっても、ヴィーナス様が黒の巫女になるのは否定しないでしょうが……大賢者がいなければ、黒の巫女様とは正式に認められないし……」

「その問題は後にしましょう、で、女官さんたちの反応はどうでしたか?」

「それはもう舞いの間、食い入るように見ていました。」
「ため息をつくもの続出で、ハートを鷲掴みにしたように思えますが、皆、ヴィーナス様が黒の巫女様と、薄々感じています。」

「恋文は減るでしょうが、直接にアタックがあるやもしれません。」
 私はアンリエッタさんの手をとり、「助けてください」と懇願しておきました。

 なんといっても、私の愛人、いや、姉の言によれば妻ですが、この方たちは、結構なやきもち焼きと実感しています。
 寝首をかかれないためにも、ここは一つ、強くお願いしておきましょう。

 でもアンリエッタさんは、
「黒の巫女様ですから、女官たちを慰めていただきたいと思います……まぁサリーさんたちには、私がよく云っておきます……」

 そういう問題ではないでしょう……
 私は色魔になりたくないのです。

 アンリエッタさんはとことん冷たいです。
「イシュタル女王の女好きは、大陸中に鳴り響いています、いまさら泣き言は通じませんよ。」

 前途には暗雲が、というより土砂降りの雨が……
 帰って寝ましょうか。

「ところで私は、この後、帰ってもよいのでしょうか?」
「取りあえずは、ご自由にと、いいたいのですが、さきほど神聖守護騎士団団長より、お時間が空いたら騎士団へお出まし願いたいと嘆願がありました。それでアテネさんにお供として来てもらっています。」

 今日は忙しいですね、朝から奉納舞いをして、次は騎士団ですか、お昼はまだなのに……
 すきっ腹を抱えて、アンリエッタさんの後をついていきます。

「イシュタル様……」
 アテネさんは相変わらず、言葉が少ないですね、分かっていますよ。
 私はアテネさんの手を取って歩いています、可愛いですね。

 でも全身から闘争心というか、殺気というか、戦いのオーラを出すのは似合いませんよ。
「アテネさん、どうしました?」と聞くと、
「皆に、イシュタル様を狙う不埒な女がやって来るかも知れないので、その場合は叩きのめせと云われています。」

「また騎士団に呼ばれたとか、イシュタル様へ狼藉をする馬鹿者がいないとも限りません。」
「私はイシュタル様の剣奴、義務を果たします。」

「違います、貴女は私の妻でしょう、私が貴女を守るのです!」

 でも気になることがあります。
「アンリエッタさん、アテネさんが私をイシュタルと呼んでもいいのでしょうか?」

「かまいません、明日ヴィーナス様は、本当はイシュタル女王で、奉納舞いのためにお忍びでやってきた。」
「不測の事態を避けるために、偽名で通していたが、お蔭で無事に奉納舞いが終了した、と発表されます。」
「これは、あの下見のときにいた者の指示です。」
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