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第十九章 大賢者

01 お菓子の作り方

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 またたくまに休暇は終わり、私はすこぶる元気になりました。
 恥ずかしい話ですが、夜ごとストレス発散運動をし、昼間は熟睡していた結果です。

 お蔭様で頭脳明晰、やる気満々です。
 皆さんもすっきりした顔で、中央神殿の奥の私の居室に戻りました。

 ドアを開けると女官さんたちが、襷掛けで手には危ないものを持って、私の部屋を警護していました。

「ヴィーナス様!」
 皆さん、私に抱きついてきます。
「お元気になられましたか?」と皆さん、口々に云います。
 中には涙目の方もいて、「いかがしたのですか?」と聞きますが、「よかった」という声ばかりが響きました。

 アンリエッタさんが駆けつけてきて、
「皆さん、お静かに、またヴィーナス様がいなくなったらどうするのですか!」
 一喝して下さったので、やっと静かになりました。

「いったい何事ですか?この騒ぎは。」
「申し訳ありません、皆ヴィーナス様が帰ってこないと心配していたのです。」
「でも良かったです、もうお加減はよろしいですか。」

「ご心配をかけました、なんかすっきりとしました。」
「たまにはお休みも必要と実感しましたが、このような騒動になるとは思いませんでした。」

「とにかくここではなんですから、どこか大きな部屋へ行きましょう。」
「ささやかながら、皆さんへのお土産に、お菓子を持って来ましたから、皆さんそろってお茶会としませんか?」

「飲み物も用意いたしますから、お湯とカップだけ用意してください。」
「経費請求はだめですよ、ピーターさんはとても怖いですから。」

 私はお茶会が好きです。
 皆で楽しくお喋りをするのですが、なぜ男のときは、この楽しさが分からなかったのでしょう。
 男ってほとほと無粋ですね。

 皆さんに手伝ってもらって、広い部屋へ荷物を運び、女官さんに集まっていただきました。
 400人あまりの方々ですので、交代制ではありますが。

 女官さんたちに並んでいただき、インスタントコーヒーの粉末をカップにいれ、お菓子を配ります。
 これはよかったです、初めて皆さんに直接接しました。
 皆さんのお顔を見させていただきましたが、本当に美女ばかりですね。

 私は果報者かもしれませんが、なにごとも過ぎたるはなんとやら、このまま行くと大変です。
 なんとか良い方法を、ひねりださなければいけません。

「このたびは、大変ご心配をかけましたが、この通り元気になりました。」
「ささやかですが、私の感謝の気持ちです、皆さん、一緒に食べましょう。」

「一人に一袋ですが、種類は色々です。大きい小さいがありますが、近くの人と分け合って食べてください。」
「また飲み物の粉は幾らでもあります、お代わり歓迎です。では皆さん、いただきましょう。」

 わいわいとお菓子を食べていますと、近くにいた女官さんが、
「ヴィーナス様、これは何と言うお菓子ですか?」
 見るとその方が持っていたのは、小さいお饅頭の袋です。

「饅頭とよばれるもので、小豆といわれる豆を茹で砂糖と一緒に練り固めて蒸したものです。」
「ヴィーナス様、これはなんです?」
 質問の山です、そのたびに、キャラメルです、チョコレートです、煎餅です、クッキーです、飴です、ETC、ETC

 そばにいたオルガさんに、
「お菓子ってあまりないのですか?」と聞きますと、非常に高価で滅多に口に入らない、まず庶民は食べないそうです。
 しかもいま、皆さんが食べているようなお菓子は見たこともないもので、非常に美味であるらしいのです。

 それで前回のお茶会で、絞られた理由がわかりました。
 あの経費は非常に高額だったのです、ごめんなさい、ピーターさん。

 そういえばアンリエッタさんも、食べたことがないでしょうね。
「アンリエッタさん、お口に合いますか?」
 アンリエッタさんは、口に何かを入れていましたので、モゴモゴと云っています、どうやら美味しかったようです。

 サリーさんも楽しそうですね、ビクトリアさんも、小雪さんも、私の愛人さんたちも皆、楽しそうにお喋りしています。
 どうやらお付きの女官さんたちと、語らっているようで、皆仲良くしてくれています。

 私はオルガさんに、
「皆さんに、お菓子の作り方を伝授いたしましょうか、そうすればこれから先の、皆さまの独り立ちの手助けにはなると思いますが。」

「教えて下さるのですか?」
「喜んで。」

「中央神殿の女官さんたちだけの、秘密のレシピと名付ければ、値打ちも出るのではないでしょうか、希望する方がいればですが。」

「多分、たくさんいると思います。」
「じゃあ、段取りをお願いしますね。」
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