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第二十章 黒の巫女略奪される
01 囁き
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帝都リゲルの空は低く垂れ込めていた。
小雨が朝方より降っていたが昼時には止んだ、なのにそのまま雲は居座っている。
アムリア皇帝ジョージ三世と呼ばれる若者は、優柔不断の先帝ジョージ二世を暗殺して帝位に就くや、古代レムリア復興を国是としている帝国のため、いや自身の野望と重なる国是のために、大陸の制覇に向かって精力的に国力の充実に取り組んでいる。
父親を暗殺した上、返す刀で帝国を私物化していた母親も暗殺した。
帝国の国是を自分の代で実現させるためには、両親さえも邪魔者と判断しての行動である。
ジョージ三世は冷酷非情ではあるが有能である。
しかし父親に似ている所もある、異常な女好きなのである。
その彼がこのところ、参謀と呼ばれている男を、側近に迎えたということが、帝都の貴族たちの間で話題になっている。
その参謀は正体不明であるが、その手腕は誰もが認めざる得ないところ。
皇帝に逆らう者は、誰であろうと血祭りにし、皇帝が欲する女は、どのような女も調達した。
たとえ公爵の娘や、伯爵の妻だとしても、逆らう者は容赦なく一族を抹殺しても、望みの女を皇帝のもとへ連れてきた。
帝都リゲルで、参謀と呼ばれる者は、存在を確実に大きくしていった。
皇帝の矛、恐怖の代名詞として、いまやその名を帝都で知らぬ者はない。
その日、ジョージ三世は参謀に、このように云った。
「参謀、余は大賢者推戴の儀式に先日出席したおり、類まれなる美女に出くわした。」
「余の姉である、アナスタシア皇女も美女中の美女であるが、その姉さえ足元に及ばぬ美貌であった。」
「あのような美女を、余の後宮に入れたいと思ったものだが、何とかならぬものだろうか?」
「陛下、その者は多分、黒の巫女様でしょう、またの名をイシュタル、ジャバ王国の女王です。」
「なかなかおいそれとは行かぬ相手です。」
「イシュタル女王か……」
その夜、ジョージ三世は後宮で荒れていた。
出会う女官たちを、二三人手打ちにした。
「陛下、この者たちが、何かしでかしたのですか?」
女官長が一人を庇うようにして、こう云うと、
「余を慰めることができぬ女である、お前も余に逆らうか!」
そこに参謀がやってきた。
参謀は皇帝の後宮にさえも、出入りできる許可を得ているのであるが……
前代未聞の信任であることは確かである。
「陛下、そのような振る舞いはお控えください。」
そういうと女官長に、
「その方たちは今夜限りで追放とする、明日までにここを立ち去れ。」
女官長は女官を引き連れ、その場を立ち去った。
「陛下、そんなに黒の巫女様をご所望ですか?」
「……」
「確かに美女中の美女、後宮に容れて寵愛されれば男冥利でしょう。」
「が、男としては大変な覚悟が必要です。どうされますか?」
「どうするとは?」
「人知れず略奪して、幽閉するということです。表には出せませんが、ご寵愛する分には、不都合もありますまい。」
「それにイシュタル女王の愛人は、陛下のお姉君、陛下が姉上様に懐いているお気持ちを、知らぬ訳ではありません。」
「ついでに幽閉するなら、お二人をともに略奪して、お気のすむままに、奉仕させるのもいいかもしれません。」
「誰にも知られぬように物にして、陛下を待ち望む美女。」
「一人は神の代理、黒の巫女、一人は実の姉たるアムリア皇女、しかも二人は愛人同士、二人を並べて陛下に伽をさせるのも、男冥利というものでしょう。」
「略奪は可能か?」
「私の知り合いの傭兵集団なら、可能かもしれません。」
「もし不首尾になろうとも、この者たちならアムリア帝国の名も出ません。」
ジョージ三世の表情に、少しばかりの狂気が漂った。
「そうか、では命じる。黒の巫女の略奪を!」
小雨が朝方より降っていたが昼時には止んだ、なのにそのまま雲は居座っている。
アムリア皇帝ジョージ三世と呼ばれる若者は、優柔不断の先帝ジョージ二世を暗殺して帝位に就くや、古代レムリア復興を国是としている帝国のため、いや自身の野望と重なる国是のために、大陸の制覇に向かって精力的に国力の充実に取り組んでいる。
父親を暗殺した上、返す刀で帝国を私物化していた母親も暗殺した。
帝国の国是を自分の代で実現させるためには、両親さえも邪魔者と判断しての行動である。
ジョージ三世は冷酷非情ではあるが有能である。
しかし父親に似ている所もある、異常な女好きなのである。
その彼がこのところ、参謀と呼ばれている男を、側近に迎えたということが、帝都の貴族たちの間で話題になっている。
その参謀は正体不明であるが、その手腕は誰もが認めざる得ないところ。
皇帝に逆らう者は、誰であろうと血祭りにし、皇帝が欲する女は、どのような女も調達した。
たとえ公爵の娘や、伯爵の妻だとしても、逆らう者は容赦なく一族を抹殺しても、望みの女を皇帝のもとへ連れてきた。
帝都リゲルで、参謀と呼ばれる者は、存在を確実に大きくしていった。
皇帝の矛、恐怖の代名詞として、いまやその名を帝都で知らぬ者はない。
その日、ジョージ三世は参謀に、このように云った。
「参謀、余は大賢者推戴の儀式に先日出席したおり、類まれなる美女に出くわした。」
「余の姉である、アナスタシア皇女も美女中の美女であるが、その姉さえ足元に及ばぬ美貌であった。」
「あのような美女を、余の後宮に入れたいと思ったものだが、何とかならぬものだろうか?」
「陛下、その者は多分、黒の巫女様でしょう、またの名をイシュタル、ジャバ王国の女王です。」
「なかなかおいそれとは行かぬ相手です。」
「イシュタル女王か……」
その夜、ジョージ三世は後宮で荒れていた。
出会う女官たちを、二三人手打ちにした。
「陛下、この者たちが、何かしでかしたのですか?」
女官長が一人を庇うようにして、こう云うと、
「余を慰めることができぬ女である、お前も余に逆らうか!」
そこに参謀がやってきた。
参謀は皇帝の後宮にさえも、出入りできる許可を得ているのであるが……
前代未聞の信任であることは確かである。
「陛下、そのような振る舞いはお控えください。」
そういうと女官長に、
「その方たちは今夜限りで追放とする、明日までにここを立ち去れ。」
女官長は女官を引き連れ、その場を立ち去った。
「陛下、そんなに黒の巫女様をご所望ですか?」
「……」
「確かに美女中の美女、後宮に容れて寵愛されれば男冥利でしょう。」
「が、男としては大変な覚悟が必要です。どうされますか?」
「どうするとは?」
「人知れず略奪して、幽閉するということです。表には出せませんが、ご寵愛する分には、不都合もありますまい。」
「それにイシュタル女王の愛人は、陛下のお姉君、陛下が姉上様に懐いているお気持ちを、知らぬ訳ではありません。」
「ついでに幽閉するなら、お二人をともに略奪して、お気のすむままに、奉仕させるのもいいかもしれません。」
「誰にも知られぬように物にして、陛下を待ち望む美女。」
「一人は神の代理、黒の巫女、一人は実の姉たるアムリア皇女、しかも二人は愛人同士、二人を並べて陛下に伽をさせるのも、男冥利というものでしょう。」
「略奪は可能か?」
「私の知り合いの傭兵集団なら、可能かもしれません。」
「もし不首尾になろうとも、この者たちならアムリア帝国の名も出ません。」
ジョージ三世の表情に、少しばかりの狂気が漂った。
「そうか、では命じる。黒の巫女の略奪を!」
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