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第十九章 大賢者

05 ダフネさんの昔

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「いよいよ大賢者ですね。」
「ここまで来ましたね。」

 いま私は、ダフネさんと二人きりで、大賢者の部屋でお話しています。

 さて、これからです、私はどうすればこの世界がより良くできるのか、その方法を考えようとしています。
 私なりに考えはありますが、このエラムの実情にあった方法でなければ意味をなしません。

「アポロ執政が私に云ったことがあります。ジャバ王国の国民は考えることが苦手だと、これでは自発的な改革は無理となりますが?」

 ダフネさんも、
「同じ思いです、だから巫女様が必要なのでしょう。」

「しかし、私が何もかも指示しては、その時良くても、長い目で見ると、衰退に手を貸すようなものですし……これでは主席の云う通りとなってしまいます。」
「なにが人々から考える力を奪ったのか、でも今、それを考えることはやめましょう。」

「私は思うのです、学校を作ろうと。」

「あのリリータウンで行われたような、知識と考える力を学べる場所を提供しようと思います。」
「そのための知識は私が持っています。私はこの世界とは違う世界の人間であるのは、ご存知でしょう?」

「自分で言うのもなんですが、数学と化学においては天才と呼ばれていました。」
「またこの世界に来るときに、当時の私の世界の知識を詰めるだけ、頭の中に詰め込んだと聞いています、その知識を提供できます。」

「私は貧困こそが悲劇の根幹と思います、しかし、繁栄に酔うと腐敗が始まるのを、ダフネさんもホラズム王国で見たはずです。」

「私はこの貧困と繁栄が、是か非か判断できません、この世界では、そのことが必要なのかも知れないからです。」
「少なくとも当時の私の世界の知識は、この世界よりは豊富と考えますが、それもまた、安易に提供することの是非の判断も難しいものがあります。」

「ジャバ王国を見てください、風車と製塩の技術で繁栄し始めています。その繁栄のおかげで、奴隷さんの待遇も良い方向へ向かい出しています、この風車の技術もアイデアを出しただけです。」

「作ったのはこの世界の住人、これなら徐々に工夫を通して、自発的に考えるようになります。」
「学校を通して、このようなことを教えて行くことが、この世界を良い方向へ導くことになるのではと考えるのです。勿論モラルをないがしろにすることは許されませんが。」

「巫女様、私は幼少時より神聖教神官として育ちました。両親は熱烈な信者で、娘の私を教団に捧げたのです。」
「私はいわれるままに大賢者を目指しました。陰謀渦巻く教団の中で、大賢者に上り詰めるのは大変なことでした。」

「内部抗争のとばっちりで、両親を失い、愛し合った愛人には裏切られ、幾度も殺されかける始末。」
「友人を裏切り、自殺に追いやり、大賢者になるも、そうまでしてついた地位で、教団を眺めると、その腐敗、その偽善、無能ぶりに嫌気がさしました。」

「その後、大賢者の権限で、教団の古文書から古代レムリアの神話を知り、キンメリアに引き継がれている神話の全体を知りました。」

「黒の巫女の存在を確信し、エラムの世界が徐々に悪くなっている以上、いつか黒の巫女が来ると信じられるようになり、その黒の巫女が、世界をどうするのかを見たくなったのです。」

「私は自己の命を延ばすため、魔法を極め、禁呪と呼ばれるものに手をだし、生殖能力を代償に払い、500年の寿命を得て、黒の巫女様を待ち続けました。」

「その間、大賢者は三代に亘り、その後大賢者は200年以上空位が続いているのを横目に、黒の巫女様を待っていたのです。」
「そしてやっと437歳の時に、巫女様に出会うこととなりました、一目みて、黒の巫女様と分かりました。」

 ダフネさん、あの時、437歳だったのですか?どおりでビクトリアさんを小娘と云ったわけです。

「先ほどの学校のお話、さすがは巫女様、良い考えと思います。最初に出会った時に、強引についてきて良かったと心底思います。」

 ダフネさんの昔を始めて聞きました……

 その後、空腹を覚えたので、二人でまずい食堂へいくとジジさんがいます。
 この人とはよく食堂であいますね。

 ジジさんが、
「ヴィーナス様、アンリエッタの了承を得ました。はやく私も愛人にしてほしいものです。」

 ダフネさんが、
「愛人になるのに、私は400年以上かかりました。妻になるにはさらに試練が必要です。まだジジは修業が足りません。」
 なんか半分嘘のような気がしますが……

 ジジさんが、
「次席賢者といえども、その道は仁義なき戦い。素早く妻の一員になる方法を考えましょう。」
 と笑います。

 余裕綽々のダフネさんが、
「妻の座は定員一杯、私が返り討ちにしてくれましょう。」
 と大笑いをしました。
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