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第二十五章 黒の巫女の降臨

06 黒の巫女を戴く

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 ダフネさんが、
「誰も反対する者はいません。これでヴィーナス様は、名実ともに黒の巫女様です。」

 アポロさんが進み出てきました。
「少し良いでしょうか?」
 ダフネさんが、
「皆さん、ジャバ王国執政からお話があるそうです。」

「私はジャバ王国執政のアポロです。」
「我らの女王イシュタル様が、黒の巫女になられることになりましたが、この中には反対しなくても、一抹の不安をもっている方がいると思います。」

「教団をジャバ王国の影響下におかれると、そのことに対しては、私が断固違うと確約します。」
「むしろジャバ王国が、黒の巫女様の影響下に置かれるとお考えください。」

「我々は別にそれでも構いません、イシュタル様が黒の巫女様であられても、我らが女王であらせられます。」

「黒の巫女様は常々、この世界を、より良き世界にしたいとおっしゃられていました。」
「この世界の人間として、その願いを否定する者はいないと考えます。」

「我らにとっての神聖教は、国教と同じ扱いです。」
「ジャバ王国と教団領は同じ元首を戴く仲間、そして信仰を同じくする仲間、ともに黒の巫女様の願いを実現させようではありませんか。」

「この世界をより良き世界にするために、力を合わせようではありませんか!」

 大演説かもしれません、この場にいた者で、アポロさんの言葉に、心動かさない者はいないかもしれません。

「より良き世界を!」
 群衆から声が上がります、その声は次々と引き継がれ、皆が口ぐちに叫び出しました。
 興奮と熱気が支配していきます。

「黒の巫女様のもとに」、と誰かが叫びます。
 その後は、歓声で聞こえなくなってきました。

 誰かが扇動している気がしますが、詮索はやめましょう。
 私は立ちあがりました。

「ここに参集して下さった皆さん。」
 一瞬で静寂が支配しました。

「私は今、心の底より感謝いたします、皆さまのお力が私に勇気を与えてくれます。」
「どうぞ私の願いである、より良き世界の実現のため、皆さまの知恵と力をお貸しください。」

「黒の巫女様!」
 再び歓声に包まれました。

 私は対岸の島に建つ御座所を見つめました。
 そして、私は声高く御座所に向かって叫びました。

「我が住み家よ、汝の主人を迎えよ!」
 私はここで渾身の魔法を発動しました。
 この奉納舞台と御座所の間の水面を、両手の巾程度、氷結させるイメージです。

 急速に周囲の気温が下がったかと思ったら、音を立てて湖面に白銀の道が浮かび上がります。

 観衆はひれ伏しました。
「皆さま、私はこれより御座所に移ります。」
「あの島には私と私の供の者しか、足を踏み入れることはかなわないようです。」

「また私はこの神殿都市シビルの、中央神殿の黒の巫女の間にも、時間を決めているとしましょう。」
「しばらくは御座所にいることになるでしょうが、その間、大賢者は私の供の一人ですので、私に伝えたいことがあれば大賢者が伝えてくれるでしょう。」

「また時々は、ジャバ王国王宮のイシュタルの間と、キリーの町の、私の館にもいるでしょう。」

「では大賢者さん、私は御座所へ移ります。」

 そういうと、ダフネさん以外の私たちは、おもむろに氷の道を渡りだしました。
 氷の道を滑るように後ろ向きです。
 御座所を背に、観衆の方々を向いたままでです。
 勿論、魔法のスケートのイメージを発動しています。

 最後に私が渡りました。
 私が渡った端から、氷の道が消えていきます。

 私たちは御座所の中に入りました。
 こうして第二幕が終わりました、多分大成功でしょう。
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