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第五十二章 キンメリアの夜は我が手に

05 アッタルの女官長

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 元気を出してちょっと寄り道です。
 私はまだアッタル騎士団領の、ドロシー女官長と親しくお話をしていません、
 大変キリッとした顔立ちの、とても肉感的な方です、もうここまでくれば勢いです。

「巫女様におかれましては、お元気そうで何よりです。」
 グレンフォード公爵が挨拶にやってきました。
 トレディアの町はかなり変貌しています、えらく活気づいています。

 ジャバの商人が大挙やってきて、店を開いています、買付けの支店らしいです。
 どうやら薬草を取り扱っているようですね。

 このアッタル騎士団領は、昔から薬草の名産地、いままで流通ルートと、治安状態が悪いために、現地でしか消費されなかったのです。
 平和と治安の向上のおかげで、外へ持ち出せるようになったとか、トレディアの繁栄の、さらなる起爆剤になるとといいのですが。

「町の繁栄を見て安心しました、貴方の手腕の賜物でしょう、今日は私の女官長である、ドロシーさんに会いに来ました、だれかドロシーさんを、呼んできてくれませんか。」

 近くで控えていた方が、「かしこまりました」、といって走って行きました。
 思い出しました、たしかキャサリンさん、ブレイスフォード伯爵の娘さんです。

 ドロシー女官長が走ってきました。
 グレンフォード公爵が、「はしたない、巫女様の前だぞ」と、妹を叱っています。

「申し訳ありません、繕い物をしていたものですから、気が付きませんでした。」
 私は笑いました、だって繕い物を一生縣命にしていたのですよ。
 天下の公爵の妹であり、この私の女官長さんが。

「面白い方ですね、公爵。」
 苦虫をかみつぶしても、こんなには渋い顔はない、というほどの顔をして、
「申し訳ありません、すぐに罷免しましょう。」

「いえいえ、気に入りました、繕い物ですか、どんな物を繕っていたのですか?」
 恥ずかしそうに、「雑巾です」。
 グレンフォード公爵の、この時の顔は忘れられません。

「うまく繕えましたか?」
「それが私、うまくなくて……」
「私に見せてくれませんか、教えて差し上げられるかも知れません。」
 その後、丁寧に教えて差し上げました。

「ドロシー女官長、私の女官長になった以上、覚悟しているでしょうね。」
「はい、お側にはべり、奴隷になることです、了承しています。」

「私は貴女が気に入りましたが、貴女はどうですか?」
「できましたら、長くお仕えいたしたく思っています。」
「兄はこの通り口うるさく堅物で、息がつまりますから。」

 久しぶりに声を出して笑いました。
「そうですか、でもそれでは、兄上の支配をのがれるために、私の支配に入ることになりますよ、それでは少しさびしいですね。」

「私はすでに一回、人妻になっています、肌を合わせれば愛せるものです。」
「もっとも、私は巫女様をひと目見て、主人のことは忘れてしまいました、だって、先に死んだ者が悪いのですから。」

「それにこの西部辺境は、やっと立ち直りつつあります。」
「私の見る所、有能な方は南部へ行ってしまいました。」
「兄は有能でしょうが、人には好かれません、だれかがその不満を解消させてあげなければ、再び巫女様のいう『馬鹿』が出てきます。」

「巫女様がいつも、このトレディアにいらっしゃるなら、何事もないでしょうが。」
「せめて私が、皆さんの不満の緩衝材になれればと思います。」
「そのための女官長に、させていただいたと思っています。」

「また巫女様の女官長になったのですから、私の様な立場の女も、何とか守れるのではとも思います。」
「この西部は私の故郷です、故郷に住まう方は家族なのですから。」

 人は語らすものです、この人はこの人なりに、考えがあるのです。

「お考えはよく分かりましたが、今の言葉は、宰相の言葉に近いですね。」
「貴女が補佐官なら良いでしょうが、女官長は女官長の立場があり、女をまとめて管理するのが第一の仕事です。」

「私の知るところでは、巫女様のハレムでは、女性の学校があります。」
「ハレムを大規模にすれば、当然トレディアにもできると考えます。」

「ここに、身寄りのない少女たちを集めて、生きていく知識を教えたいとおもいます。」
「勿論女官になるのが前提ではありますが、私のように繕い物一つ出来ないようでは、未来は娼婦しかありません。」

「女官になって、自身を買い取り、知識を身につけた女性を、この西部に送りだせば、少しは西部の未来も良きものになりませんか?」
「さすれば巫女様のハレムには、有能な女官が増え、当然美女も多くなり、巫女様の夜も楽しくなる。」
「女官長としては、第一の仕事の範疇とかんがえます。」

 感心しましたね……
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