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第五十六章 ハレムはどうしてもできる

05 十一番目の女

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 黒髪が乱れています……

「エーデルガルトさん、お歳は?」
「恥ずかしながら二十九になりました、もうおばさんの部類です。」
「お綺麗ですから、いいではないですか?」
 そう、でも華奢な身体は丁寧にね……

 エーデルガルトさんに、チョーカーをつけて差し上げました。
 十一番目の女官長です。

「ヴァカリネ様、アンリエッタ様にもきつく云われましたが、ハレムを立派にしてみせます。」
「また全てのレムリアの女を、必ず幸せにして、ヴァカリネ様にご奉仕させてみせます。」
 レムリアの女性すべてですか、間違いなしに色事で死んでしまうのでは……
 すごいことを平然といいます、しかもやりかねない雰囲気もあります。

 ヒルダさんに、エーデルガルト女官長を紹介します。
 ヒルダさんは相変わらずのポーカーフェイスですが、私は見逃しません、一瞬、火花が飛びました。

 すこし、ヒルダさんの立場を明確にしましょう。
 ヒルダさんはダフネさんのように、とても長く生き抜いた方、愛人にする以外に選択肢はありません。

 私はヒルダさんを連れて、久しぶりに御座所へ戻りました。
 ここはリリータウンと同じような空気が流れています、なにかホットします。

 愛人さんたちがやってきます。
 そして皆さんに、正式にヒルダさんを紹介し、愛人にするつもりといいました。

 ヒルダさんは、ダフネさんやビクトリアさんと同じような存在、普通の夫人では収まりません。
 また私に絶対に忠誠を誓ってもらいます。

 サリーさんが、
「たしかにパスポートキー登録をしたら、絶対に安全でしょうが……」
「仕方ありません、ヒルダさん、皆と仲良くすることができるでしょうね。」
「誓います。」

「主席はまだ生存していますが、大丈夫ですか。」
「もし……敵対することになれば……私は自決します、ご迷惑はかけません。」

「辛いでしょうが、少なくとも正直な気持ちを、聞かせてもらいました。」
「私はヒルダさんを仲間と認めます。」

「私は嫌だ!」
 だれかと思えばアテネさんです。
「イシュタル様を、こんなにも苦しめた女を、なぜ認めなければならないのか!嫌だ!」
 皆さん、黙ってしまいました。

 その時、アリスさんが、
「アテネさん、お姉さまはエラムの人々のために苦しんだので、この人が苦しめたのではありません。」

「たしかにわだかまりはあります。」
「でもそれでは、お姉さまの望まれる、エラムの明日が来ません。」
「お姉さまにとって、エラムの人はすべて愛する対象です。」

「幸い、私たちは強い絆でつながっています。」
「その私たちが、お姉さまの気持ちを大事にしなければと思いませんか?」

「私たちはすべて吉川の妻です、夫であるお姉さまを立てましょう。」
 思ってもいない、アリスさんの大人の言葉で、アテネさんも承諾しました。

 ヒルダさんはただ黙っていました。
 するとダフネさんが、
「ヒルダさん、私とビクトリアは長くエラムを彷徨い、嫌になるほど長く生きてきました。」
「その辛さとむなしさは、よく分っています。」

「ここにいるのは皆、巫女様と時を同じにする立場のものです。」
「よく巫女様がおっしゃる言葉があります。」

「昨日は思い出の中、今日は明日を語ろう、まったくそのとおりです、共に明日を迎えましょう。」
「きっと姉上様も、貴女を妻と認めるでしょう。」

「もし主席と再び戦うことがあれば、貴女は戦う必要はありません。」
「このダフネが貴女の分まで、戦って見せましょう。」

 この時、ヒルダさんは声をあげて泣き出しました。
 久しぶりに、愛人さんが一人増えました。
 名前は吉川ヒルダさん、十一番目の妻です。
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