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第五十七章 碑文騒動
05 にがり草 其の一
しおりを挟む派手なお祝いが、シュヴァルツヴァルトで繰り広げられました。
王宮前には黒山の人だかり、皆さん、口々に祝いを述べてくれます。
幾ら理解していても、異和感だらけのヴァカリネさんです。
レムリアの人々が、こんなにも私を迎え入れてくれるに、いけないとは思っても、何故と考えてしまうのです。
レムリア人は、大陸のキンメリア人よりも、はるかに黒の巫女を崇めてくれます。
そんなレムリア人が、私に敵対した理由を、フリードリッヒ宰相が教えてくれました。
つまり、
黒の巫女様は本来、レムリアに降臨するはずであった。
が、たまたまキンメリアの土地に降臨された。
キンメリア人の大賢者の策謀により、間違った情報を教えられた。
心優しい巫女様は、このキンメリア人の嘘により、馬車馬のように働かされている。
このままでは、せっかく女神様が遣わされた、黒の巫女様がお倒れになる、
その様なことになれば、女神様のお怒りはすさまじく、エラムは瞬時に滅亡するだろう。
レムリアは、黒の巫女様に目を覚ましていただくために、無礼なキンメリア人を皆殺しにし、目覚められた黒の巫女様に、このエラムのいく末を決めていただく。
主席はレムリアの人々に、このような説明をしたそうです。
かなりの所、主席はこのように思っていたと、私も思います。
確かに、もし、レムリアに最初に降り立ったら……
もし、サリーさんでなく、ヒルダさんだったら……
もし、源兵衛さんの代わりに、主席だったら……
主席の望みが、実現しないとはいいきれません。
とにかく、レムリアとキンメリアが、争わないようにしなければなりません。
私の挙動で民族紛争が起こりかねない、ということが分かりました。
レムリア女王になったのは、本当にベストな選択です。
またレムリア人を、寵妃にしたことも正解でした、その結果がこの奉祝なのでしょう。
私はレムリアも愛している、このことを象徴的に示したようです。
能天気なこの騒動の裏には、このレムリアの人々の想いがあるのです。
黒の巫女はレムリアも愛している。
いつもレムリアのことも考え、努力している。
そのことを示すためにも、ヒルダさんを愛人にする以外にも、人々の生活を向上させる必要があります。
そのための切り札として、私は植物波農業を大規模に導入することに決めました。
古代レムリアの農事書には、色々な植物の調理法が記載されていました。
いままで見向きもされなかった、食べ物がたくさんあることが分かりました。
これは速効で効果があります。
とくにある種の穀物は、寒冷地の痩せた土地でも、どんどん育つ雑草の様な穀物で、それまではだれも、これが食べ物とは考えていませんでした。
この農事書によると、荒く粉にして、それを水に入れ沈殿させ、沈殿物を取り出し、練り上げ再び流水で晒します。
お団子のようになりますので、再び天日で乾かし細かく粉にして、再び水をいれて練り上げ、薄いパン生地、つまりピザのように広げ、薄く油を引いた薄い鉄板で、焼きあげるとあります。
ちょっと面倒ですが、実行してみました、意外においしいのです。
執務の後の会議も終わり、私は試食会をしてみました。
フリードリッヒ宰相以下の、都市同盟の幹部の方々が犠牲者です。
「ヴァカリネ女王陛下、これは意外です、本当にあの雑草からできるのですか?」
私は幼いころ、これを口に入れたことがありますが、とても苦くて、食べれたものではなかったことを覚えています。」
「もし本当に、あの『にがり草』からできるのでしたら、これは大変なことです、少なくとも食糧自給が可能です。」
『にがり草』というようですね、雑草だけあって生命力があるのか、かなりの高カロリーのようです。
「後はうまくやってくださいね、本日はこの辺で、ご苦労様です。」
私は部屋に戻ろうとすると、突然、背中で、
「ヴァカリネ女王陛下、しばしお待ちください。」
と、皆さまから声がかかります。
振り返ると、皆さん、頭(こうべ)を垂れています。
「どうしたのですか?」
「陛下、我らレムリアのためにありがとうございます。」
「食糧問題は、この北の地における一番の懸案事項、それがいま、ここに解決されました。」
「子孫のために、弱い者たちのために、感謝を述べさせてください。」
「大げさですね、たいしたことではありません、それに私はレムリア女王ですよ。」
「民が苦しむのは、見過ごせないではないですか、ただそれだけですよ、じゃあ、おやすみなさい。」
にがり草ですか、古代レムリアの知識は、すこしは子孫のために役に立ったようです。
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