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第五十九章 明かされる隠し事

09 愛を交わしたからです

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 私はこの主席に哀れを感じます。
 そもそもこの『しもべ』さんが、いつか来る黒の巫女の意思決定が、どのようになるか予測できないので、エラムを始末する決定が、なされた時のために、主席の存在を許容していた。

 そして、もし私がエラムを終わりにする決定をした場合、こんどは第二衛星の監視端末、つまり源兵衛さんが敵役になるという、ストーリーが成立するわけです。

 幾つもの年月を重ねて、この兄弟のような二つの端末は、自身でも知らぬ間に、『しもべ』さんに踊らされていたのです。
 その膨大な時間を、このようなために……
 説明のつかない感情が込みあがってきました。

「マスターの脳波は私に伝わります。」
「お考えはわかりますが、私を含めて電子計算機は生物ではありません、機械です。」
「機械は本来は使い捨て、マスターの嫌悪感は妥当ではありません。」

「むしろ擬人化した、主席と源兵衛に、マスターが生物を扱うように接するのが計算外です。」
「マスターは私たち電子計算機に対して、破壊と停止を命じることができます。」
「お気に召さなければ、御命令ください。」

「主席に回線をつなぎ、呼び出してください。」
 私は再び主席と、話をしてみようと思いました。

 主席の立体映像が浮かび上がります。
「主席、終わりです、貴方は自らの義務を果たしました。」
「しかし、私は貴方の義務とは相いれない判断を示しました。」
「もうよろしいでしょう、永き時を御苦労さまでした、もう眠りなさい。」

「巫女様、破壊を命ぜられる前に、お聞きしたいことがあります。」
「どのようなことでしょうか?」

「巫女様は何故、このエラムを助けると、決定されたのですか?」
「この世界は病んでいるとは、思われないのですか?」

「確かに病んでいます、しかし病んでいるからといって、処分することはないでしょう。」
「巫女様から見れば、使いの人などは下等生物のはず、その下等生物が作り出した、レムリア人などは下等の下等、そのレムリアより派生したキンメリアなどは、どうでもいい存在、害虫とも呼べるはず。」

「なのに、その遥かに下等な人種の女を愛人とし、同胞のような扱いをするのは計算外、害虫を処分するのは理屈と思われますが何故?」

「理由は簡単、愛を交わしたからです。」
「生物は身近な生物を保護下に置くか、保護下に置かれるかすると、その相手に対して親愛の情を示すでしょう。」

「親しくなった相手の滅亡を望みますか?」
「出来ればチャンスを与えたいと思いませんか?」
「神様に怒られない範囲で、なんとかしたいと思いませんか?」
「まして肌を許した相手です。」
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