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第六十二章 夜明けの明星
08 八芒星(オクタグラム)は輝く
しおりを挟むある時、アンリエッタさんがやってきて、
「ヴィーナス様、エラムは収まりました、これからどうされますか?」
と、聞いてきました。
「不安ですか?」
「はい、ヴィーナス様はどこにも行かないと、約束されました、それは聞いています。」
「しかし新しい方については、愛人の方々もお口は固く、どなたも目上の方なのでといわれます。」
「女官長一同というより、女官のすべては、近頃のヴィーナス様の行動について、不安を感じています。」
「私も皆の不安を、抑えることができません。」
アンリエッタさんは信用がおけます。
私がまだサリーさんと二人で、エラムを彷徨っていた頃からの仲ですし、戦友とも呼べる中です。
私はこの人にだけは、本当のことを伝えたかったのが本音です。
「アンリエッタさん、貴女にだけは、本当のことをいいましょう。」
「本心は、貴女に黙っているのは辛かったのです。」
「しかし女官長さんたちの口は、少々軽いと思われることがあります。」
「だからこれからいうことを、皆さんに伝えるかどうかは、首席女官長としての貴女と、後で相談いたしましょう。」
「伝えると決めた今、本当に心が軽くなります。」
「でもいえないこともあります、そのことは愛人さんたちにもいってません、それについては勘弁してください。」
「まず私の姉ですが、血はつながっていません。」
「私の愛人でもありますし、本当は黒の女神です。」
「イシス姉さん、出て来てくださいな。」
「アンリエッタ女官長は口は堅いです。」
「ただ一人、私の紋章を授けた相手ですから。」
イシス女神として、姉が浮かび上がりました。
「黙っていて、ごめんなさいね。」
アンリエッタさん、驚愕の表情をしています。
「黒の女神様が、このエラムにご降臨なされておられるとは……大変失礼いたしました。」
イシスさんが、
「アンリエッタ、貴女には私の本来の姿を見せましょう。」
というと、全身が光輝きだして、有翼の女神、イシスの神々しい姿になりました。
だれもがひれ伏すでしょう、圧倒的な迫力です。
「アナーヒター、貴女も本来の姿を見せなさい、今ならできるでしょう」
私はイメージしました。
本来この御座所では、魔法が効きませんが、本来の姿になるのに、魔法は必要ありません。
ただ思えば良いだけと、心のどこかで思えました。
私の全身が、イシス姉さんのように光輝き始めました。
光り輝き、すらりとした背の高き、美しき女神、力強い色白の腕を持ち、四角い黄金の耳飾りと、百の星をちりばめた黄金の冠をかぶり、黄金のマントを羽織り、首には黄金の首飾りを身に付け、帯を高く締めた美しい乙女……
古代に書かれた、賛美の通りの姿になっていました。
「アンリエッタさん、この私は、アナーヒターと太古の昔より、呼ばれていたそうです。」
「私はその生まれ変わりだそうです。」
ますます驚愕の表情のアンリエッタさんです。
「後の二人、薫とマレーネも紹介しましょう。」
そう言うと、待っていたように、二人が浮かび上がってきます。
「マレーネは、遥か古代からこの私に仕えた者、私の『しもべ』です。」
「そして薫は、その代理としてこのエラムを守り育てていた者、この二人については、今いえるのはこれだけです。」
「アンリエッタさん、皆が口に出さなかったのを理解してください。」
「そして女官長さんたちに、いえなかったのも理解してください。」
「一つお聞きしていいでしょうか?」
「答えられることなら。」
「神話によれば、黒の巫女様は、慈悲の乙女と英断の乙女の、どちらかであると伝えられています。巫女様はどちらなのでしょうか?」
イシス姉さんが、
「どちらも共に身に纏っている、しかし貴方たちの努力の結果、アナーヒターは慈悲の乙女たらんと決めた、そうでなければ、今頃このエラムは存在しない。」
「まだまだ定まらぬのが、エラムではあるが、しかし明日は開けた、その代価が三つの戦いで流された血である。」
「本来エラムは、このまま緩慢な死の迎えるはずと思われたが、アナーヒターがこの世界の愛人たちと愛をかわし、その思いやりにふれ、エラムの運命に、明日を開くべき奮闘し、貴方達もそれに答えた。」
「したがって慈悲の乙女である、しかし本来のエラムの運命を、決断を持って変えたのだから、英断の乙女ともいえる。」
「ヴィーナス様……」
「アンリエッタさん、そういうことですので、皆の不安をどうして取り除くか、考えましょう。」
この時、エラムという女の頭上に、八芒星(オクタグラム)が光輝くイメージが見えました。
そしてその女を見つめる、三柱の神をはっきり知覚しました。
どうやら、エラムにおける私の行動は、御心にかなったようです。
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