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第六十三章 祝福は女苦労に微笑む

03 下賜はだめよ

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 私がエラムに転移してから、ずいぶん経ちました。
 あの時、可愛かったジャン君などは、騎士見習いですよ。
 もう十分女を知っても、良い年頃です。

 そしてウィルヘルム君も、立派な物がついています。
 ジャン君はアンリエッタさんに任せて、まずはウィルヘルムを男にしなくては……

 母として、保護者として、ハイドリッヒに顔向けできません。
 このごろアリアドーネ女官長と、ウィルヘルムの『童貞』問題で議論しています。

「アウシュリネ様、そんなに早く女を知ったら、教育に悪くありませんか?」
「何を戯言を、女じゃあるまいし、早く筆おろしをさせたらどうですか、亡きハイドリッヒは女好きが、欠点でしたが立派な王でした、その息子のウィルヘルムも、当然女好きの立派な王になるはず!!」

「アウシュリネ様、それは極論というものです。」
「王にも、意中の女がいるかもしれません!」
 意中?
 どこの女?
 私の可愛いウィルヘルムに、悪い虫がついているというのですか?

「いったい、どこのあばずれですか!」
「いや、いるかもしれないということです。」
 アリアドーネさん、あまりの私の剣幕に驚いています。

「騒々しい、どうしたのですか?」
「イシス様、アウシュリネ様が無茶をいうのです。」

「またウィルヘルムのことですか、アナーヒター、貴女、ウィルヘルムのことになると、人格が変わりませんか、いっそ貴女が、筆おろしの相手をしたら!」
「……それは……」

「冷静になりましたか、幾ら好きだった男の息子で、頼まれたとしても、ウィルヘルムはウィルヘルムの考えがあるでしょう、彼の想いも大事にしなくてはなりません。」

「しかし、そろそろでしょう、アリアドーネ女官長、どこかに似合いの姫はいないのですか?」
「アナーヒターがうるさくてかないません。」

「それが……意中の方が一人、おられるみたいなのですが……その……レムリアの女官なので……」
 レムリアの女官、ひょっとして私が手をつけて……

「私が手をつけているのですか?」
「いえ、幸いまだですが……」
「歳は?」
「十三歳」
 若いというより幼いですね。

「エーデルガルトさんは知っているのですか?」
「いえ、まだ……」
「その女官さんは、ウィルヘルムのことをどう思っているのですか?」

「それがまだ、王の胸の中で……」
「告白はまだなのですか?」
 アリアドーネさん、黙ってしまいました。

 どうやらウィルヘルム君は、ハイドリッヒと違い、おく手というか、ヘタレというか……

「さっさと押し倒せば……いえ、女官でしたね。」
 そんなことをすれば、モルダウ国王でも大変なことになります。
 黒の巫女の女に手をだせば……このエラムでは極刑が待っています。

 道は二つ、本人が女官をやめて、自らウィルヘルムの元へ来るか、私が抱いて、ウィルヘルムへ下賜するかです。
 アリアドーネ女官長が、何をいいたいかわかりますが、私としては、ウィルヘルムの想い女を、抱くわけにはいきません。

「アリアドーネ女官長、貴女の望みは却下ですよ。」
「何とか二人の出会いの場を作り、娘さん自ら女官を退官してもらわなければ……」

「ところで、クルトさんはレムリア人の血が、モルダウ王家に入るのを認めそうですか?」
「それも難しいかと……」

「でしょうね、でもそのことなら、考えがあります。」
「そのことは任せなさい、この際、古典的な手段に訴えれば良いことです。」

 いまロンディウムの、モルダウ居館は空いています。
 ここはキリーの亡霊の館と、異空間倉庫で繋がっています。

 そしてキリーの亡霊の館は、シュヴァルツヴァルトの私の王宮へ繋がっています。
 このモルダウ居館を、ウィルヘルムのハレムの女官長に、管理を任せたら……

 レムリアからモルダウへ、貴重品なら運べますね。
 モルダウは貴金属、レムリアはガラス、そして海と山の産物の物々交換……
 一人ぐらいレムリアの女を、モルダウ王家にねじ込んでも文句はないでしょう。

 いま、私はクルト宰相に、この案を提案しています。
「モルダウ王国としては、異存はないでしょう。」
「ハイドリッヒ連合王国としては、モルダウだけが利害を得ますので、すこし分配の調整が必要でしょうが、モルダウとしては、王国のため仕方ないかと考えます。」

「まぁ、王妃ではないのでしょうから、良いかと考えます。」
「しかし王のお気持ちしだいということです、ただ王妃は、モルダウの女としていただきたい。」
 まぁそれはいいでしょう、本当はモルダウ王妃に、ねじ込みたかったのですが……
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