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第六十三章 祝福は女苦労に微笑む
08 明星はエラムをいつも照らしますよ
しおりを挟む「皆さんの立場もよく理解しています。」
「でもこの際、私のお願いも聞いてください。」
「皆さんには、理解できないかもしれませんが、このエラムの天文学的な位置は、変えられませんし、変えればこのエラムが、人の住めない世界になります。」
「灼熱地獄か極寒地獄か、どちらにしろ、好ましくありません、奇跡といえる位置にあるから、人が住めるのです。」
「しかしこのエラムの位置と環境は、常に女性が多く生まれる環境にあります。」
「創造の神が、この地を選んだのは、それが理由の一つです。」
「したがって私といえど、一旦成立した、この世界が成り立つ上の、約束事は守らなくてはなりません。」
「本来私は、一夫一妻の世界に存在していたものです。」
「ですからどうしても、このエラムとの風習になじめず、皆さまには多大のご迷惑をかけています。」
「しかし幼き頃より、その制度の下で、疑うこともなく生きてきた考えは、おいそれとは変えられませんが、努力は続けます。」
「これからも、皆さまには、その辺を配慮していただき、私がエラムで生きるすべを、教えてください。」
シルビア女官長が、
「皆さん、巫女様もこう云われています。」
「巫女様の御心も考慮しながら、これからも何とか調整しながら、やっていきませんか?」
と、云ってくれました。
パリスのエリザベート女官長も、
「私たちは巫女様に仕える者として、巫女様がこのエラムに、末長くお住まい戴けるように、努力いたしますから、どうか私たちをお頼りください。」
「ありがとう、皆さん、では日取りの件、よろしくお願いします。」
皆さんが帰った後、一人残ったアンリエッタさんが、
「ヴィーナス様、いえ黒の巫女様、私たちは皆、巫女様の奴隷です。」
「巫女様の世界では、奴隷というものは、あってはならない者らしいとは、愛人の方から聞き及んでいました。」
「しかし私たちには、古来よりの風習制度、巫女様と同じく、おいそれとは変えられません。」
「宰相がたも同意とは思いますが、奴隷制度がなければ、奴隷が余り食糧不足になる。」
「人が奴隷を食べる、そんな家畜制度が復活しかねません。」
「それでは、このエラムは、人の世界とはいえなくなります。」
「この話は禁忌で、決して口にしてはいけない話です。」
「多くのエラムの人間は知りませんが、私とピエールが隠れ住んでいた教会の古文書に、書かれていたのを、読んだことがあります。」
私はアンリエッタさんの口に、指を添えました。
「その話は知っています、でも過ぎたこと、私が復活などさせません、でも危なかったのですよ、あの南部の状態は。」
「しかし今はにがり草があります、そんな飢饉は、よほどのことがなければおきません。」
「諮問会議と百合の会議がしっかりしている限り、エラムは何とかなりますし、何とかします、でしょう。」
「私は不安で、こんなエラムを、ヴィーナス様がお見限りにならないかと……」
「アンリエッタさん、幾度もいっていますが、私はエラムに嫁いだとおもっています。」
「私はだれかといわれたら、ヒロト・ヴィーナス・イシュタル・アフロディーテ・イナンナ・ウェヌス・アウシュリネ・アウセクリス・アッタル・シャレム・ヴァカリネ・アナーヒター・キッカワと名乗るしかありません。」
「ヴィーナスからアナーヒターまで、すべて愛と豊穣の女神の名です、すべては明星の意味を持ちます。」
「アンリエッタさん、本当にこれだけはお約束できます。」
「私は、エラムの人々が好きなのです。」
「私を愛してくれる、エラムの人々、この人々を私は愛します。」
「どうして愛したものを、見捨てることができましょう、貴女は愛しているジャンを、見捨てられますか?」
「私はエラムに転移する前は男でした、男は女を守るもの、この父の教えを、たがえることはありません。」
「皆さんが私を追い払うのなら、仕方ないでしょうが、エラムの黒の女神は、約束通り私を、エラムに送ったでしょう?」
「事実どうあろうとも、神話の約束は守られたのです。」
「もっとも黒の女神って私の姉、イシス姉さんではありますが……」
「だからアンリエッタさん、そんなに子供がする、不安そうな顔をしないでください。」
「私の女神の名に懸けて誓いましょう、明星はエラムをいつも照らしますよ。」
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