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第三章 鈴木駒子の物語 秘め事

アジア情勢

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 上杉忍が、鈴木聡子に内密に会いたいと申し入れをしてきたのは、長谷川倫子が管理官として就任してから、一年後でした。
 テラでのヨーロッパ情勢が、マルスでも噂に上り始めています。

「忍さん、久しぶりですね、テラでの近頃のお活躍、私の耳にも聞こえています、技芸学校ですか、考えたものですね」  
「ありがとう、聡子さんに云われると、恥ずかしい限りです、なんせ毒薬料理の件で、恥をさらしましたから」

 くすくす笑う聡子。
「なかなかの策士、うまくやったともっぱらの評判ですよ、私もそう思います、ミコ様との夜は、満足できるものでしたでしょう?」
「間違いなく癖になります、官能に身を任せるのは」
 
「ところで私に、何の用なのでしょう?」
「東南アジア情勢はご存知ですか?」
「少しは聞いています、ヨーロッパほどではないけれど、別の意味で危機とか」

「そうです、抗ボルバキア薬を拒否したインドネシア、さらにいえばアメリカ・ナーキッド戦争の時、アメリカについたフィリピン、このあたりには、援助など一切入っていません」

「援助の入っているインドシナの三国は、フランスとの独立戦争、その後の化学兵器の大量使用で、死産する妊婦の比率が高まっているところです」

「マレーでは、抗ボルバキア薬が配布されていましたが、華僑系が大陸中国に転売するという暴挙にで、マレー系に対して不足するということが起こり、内乱の結果、ジュノサイドが起こっています」

「ボルネオは放棄され、マレーには援助が入っていますが、ナーキッド上層部では、援助を停止する話が進んでいます」
「援助を受けているのに、悪しざまにナーキッドをののしっている勢力が、力を持ちつつあるのが理由です」

「……その事が私に何の関係が?」

「鈴木商会はその昔、東南アジアにネットワークを張り巡らしていました」
「いまタイには、ナーキッドの援助が入っています、ミコ様がタイには好意的なのです」

「私としてはタイを拠点に、何とか援助を差し伸べたいと、考えているのです」
「……」
「そこで鈴木順五郎氏の奥様であられた、お母様にお手伝い願いたいのです」

「……ナーキッド領域管理官になれと……」
「危険はないと思いますよ、それに関係を正式公認されるチャンスでしょう?」
「セレスティア・デヴィッドソンとアリシア・デヴィッドソンさんのように?」

「そう、私が思うにミコ様に抱かれればね、聡子さんも経験されているでしょう」
「抱かれる回数、チャンスが増える、そうですね」

「名誉付が外れるわけですし、ミコ様もサリー様もこの状況を解消できるのですから、チョーカーもすぐそこと思います、方法論は前任者二人で確立されています」

 駒子は受けた。
 そして東南アジア情勢を分析するために、小笠原シティステーションに降り立ちます。

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