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第四章 アレクサンドラの物語 イーゼル騒動記

02 購入者

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 競売が始まりました。
 メルケル三姉妹は目玉商品なので、当然一番最後となっています。
 競売会場の外で、何やら騒々しい声が聞こえる、と……

 男たちが、メルケル三姉妹を檻から引き出して、
「お前らは売れた、競売は中止だ、」
 と怒鳴ります。
 中止……私たち、誰か買ったの?

 手枷と足枷をつけたまま、三人は連れて行かれます。
 そこには一人の女が待っていました。

 氷の魔女って、この人の事ね……
 アレクサンドラには、そのように思えましたが、その女が、
「アレクサンドラ、アンネローゼ、アマーリアの三人で間違いありませんね。」
 と、云いました。

「はい……あの……お聞きしてもいいですか?」
「いまは質問はなしです、聞かれたことだけ答えなさい。」
「はい。」
「ついて来なさい。」
「はい。」

 その女について競売会場を出ると、戦争でもあったのかと思うほど、累々と男たちが倒れています。
「サリーさん、三姉妹を連れてきました。」

 氷の魔女は、栗毛色の髪をポニーテールにした、プロポーション抜群で、知的な印象の女性に声をかけました。

「お嬢様が、三姉妹を送って行くようにとの仰せです、小雪さん、お願い出来るでしょうか?」
 氷の魔女は小雪というようです。
「勿論、マスターのご命令ですから。」

「では行きましょう、アテネさん、その辺で納めなさい。」
 その女性は、もう一人の、真っ白の肌で赤い瞳のスレンダーな、アレクサンドラと同じ年格好の美少女に、声をかけています。
 アテネと呼ばれたその女性は、血刀を手にしていました。

 震え上がった三姉妹……

 サリーと呼ばれた女が、
「色々聞きたいでしょうが、この後で説明してくれる方に会いにいきます、それまで黙ってついてくるように。」
「分かりました。」

 こうして三名は転移したのです。
 アレクサンドラとアマーリアにとっては、噂には聞いていた魔法を、初めて目にしたのですが、この転移と呼ばれる魔法は、アレクサンドラの理解を超えています。

 これがどれほどのものかは、いくらのアレクサンドラでもわかります。
 いま、アレクサンドラは大魔法の渦中にいるのです。

 転移した場所は、どこかのお屋敷の、中庭らしき場所でした。
 アレクサンドラはどこかで、この景色を見た記憶があります。

 ここは……でも……あの場所は……ジャイアールからはあまりに離れている……

 しかし、アンネローゼが、
「ジャン!ジャンなのね!」
 悲鳴のように叫び、名を呼んだ男に駆け寄りました。

 手枷と足枷をつけたアンネローゼを、ジャンと呼ばれた男は抱きしめます。

 ジャンがいる……やはり、ここはシビルの神聖守護騎士団長の館の中庭……
 そして一人の婦人が立っていました。

「サリー様……これは……」
「お嬢様がアンリエッタ様の為に、合法的に譲歩させて手に入れられました、後は任せるとのご伝言です。」
 アンリエッタとは、エラムの主権者、黒の巫女ヴィーナスの首席女官長の名です。

「ヴィーナス様の……」
「こうもおっしゃっていました、ジャンの為ですから、とね。」
 そしてサリーは、三姉妹の売買証書をアンリエッタに手渡したのです。
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