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第四章 アレクサンドラの物語 イーゼル騒動記
03 イーゼル公館は何事も無くはない
しおりを挟む神聖守護騎士団の、若い騎士に花嫁が来た……
ジャンとアンネローゼ……お人形が並んでいるような……可愛らしい若夫婦……
アレクサンドラは嬉しかった。
妹の此の様な、幸せそうな姿を見られるなんて……
奴隷市場での虚ろな顔はどこにもない……
アンネローゼのためにも、この館に永くいるわけにはいかない……
妹の婚家なのだから……アンリエッタ様にもご迷惑をかける……
そうよね……このままではいけないわ。
私とアマーリアは、ここをでなければ……
でも、どうすれば……私とアマーリアは生きていけるの?
そんな事を考えていると、時がズルズルと過ぎて行きます……
別にアンリエッタ様は、何とも思っていないのは明白で、夫であるピエール団長は、さらに何とも思っていないようですが……
お二人は私たち姉妹を、我が娘のように可愛がってくれる、それは私にも分かる……
アレクサンドラは、考え抜いた末にある事に気がついたのです。
私たち……女官なのよ……ヴィーナス様に購入されているじゃない……
ここで、のんびりしていることは許されないのでは……
「アマーリア、私たちは女官にならなくてはなりません。」
「私たちは、ヴィーナス様の所有物なのですよ。」
「アレクサンドラお姉さま、ならご一緒に、女官として働きましょう。」
十一歳とは思えぬ物言いでした。
二人して、アンリエッタに直訴しました。
「二人とも、遠慮は無用ですよ。」
「貴女たちは、私とピエールの娘、この家から嫁いで行っていいのですよ。」
「いえ……私たち、一度はヴィーナス様に購入された身の上、実質的には女官のはず。」
「私たちが女官にならなければ、周囲がなんといいましょう。」
此の様にいわれると、アンリエッタも何もいえない、確かにアレクサンドラが正しいのです。
アンネローゼはヴィーナスの女官、つまりは女奴隷を、ジャンに下賜するという形で実現しています。
ヴィーナスの所有物を頂いた事になるので、ピエールの家門としては名誉なことになります。
しかしアレクサンドラとアマーリアは女官なのに、仕事もせずにのんびりとしているのは、今ひとつ、おかしいことなのです。
こうして、アレクサンドラとアマーリアは女官になりました。
所属はイーゼル直轄領、女官長はバーバラ……
一人の側女がいるだけの小さなハレム……
しかし、ここは保養で有名……エラムでは有名なイーゼル温泉があり、ここの女官は、イーゼル公館を管理するのも仕事の一つ。
ファインという醸造酒の名産地でもあり、娼館も軒を連ねている、つまりは歓楽街なのです。
そんなイーゼルにやってきた、アレクサンドラとアマーリアですが、すぐに問題に気がつきました。
丼勘定のバーバラ女官長のお陰で、イーゼル直轄領の台所は火の車だったのです。
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