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第四章 アレクサンドラの物語 イーゼル騒動記

04 私のお家

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「バーバラ様!これではイーゼル公館が維持できません!」
 アレクサンドラが指摘すると、バーバラ女官長が、
「いいじゃないですか、直轄領は繁栄しているのですから。」
 そう、一番の問題は税率と税金逃れ……

「高額な税率は論外ですが、ここは安すぎませんか!」
「そうなの?でも皆、喜んでいるわ?」

「そりゃあそうでしょ、しかしこれでは行政府の方々のお給料も支払えませんよ。」
「そんなに人がいないし、それに揉め事は町々で処理しているし……」

「それでは、治安や消防などはどうなっているのですか!」
「なにも……問題は表に出ませんから。」

「……」

 どうやら町々の自治組織が、イーゼルを維持しているようです。
 イーゼル行政府はお飾りなのでしょうか……

 ここでバーバラ女官長が、
「アレクサンドラ、若いわね、まぁ、しばらくはゆっくりしていなさい、これでも手を打っていますから……」
 と、ニヤッとわらいました。

 平和でのどかで貧乏で、イーゼル公館は傾くばかり……
 このイーゼル公館にも、五名ほど一般の女官補さんがいます。
 この女官補さんたちは良く働きます。
 どうやらほとんどが、イーゼルの貧しい家の出身らしく、力仕事なども嫌がりません。
 ただ知識が無いというのか、誰かが指示をしなければなりません。

 今日もアレクサンドラとアマーリアは、この女官補さんたちとともに、なれぬ大工や左官の仕事などをして、日々を過ごしていたのです。
「ねえ、アレクサンドラお姉さま、女官って汗まみれになるのね。」

「ほんと……アマーリア、この後、床をふいておいてね、私、外壁のひび割れを、取り敢えず埋めてくるわ。」
 アレクサンドラは土と干した草と水を混ぜ、ドロドロになったものを塗りたくっています。

 女官補さんたちも、泥まみれで手伝ってくれています。

「私も手伝うわ」と、声がします、オリヴィアというイーゼルただ一人の側女さんです。

 長い綺麗な足、結構な豊乳、迫力の肉体美の上に、大きな目、キリッとして、締まった口、知的な雰囲気を漂わせてはいますが、これがバーバラ女官長と同様、雑なのです。

 内心、アレクサンドラは舌打ちしたのですが、一般の女官が側女に逆らうのは憚れます。
「お手が汚れますから、どうぞ、お部屋にお戻りください。」

「貴女、邪魔と思っているでしょう?」
「いえ、とんでもない!」
「いいのよ、私、貴女の考えは分かるわ。」

 ?

「魔法じゃないのよ、あまりに酷い境遇に出会うと、人の顔色を眺(なが)めるようになるの……」
「……」

「貴女、奴隷市場にかけられたのね、私もどんなところかは知っているわ……」
「もっとも、私は落ちるところまでおちたけど……」
「……」

「とにかく貴女が赴任してくれて助かるわ、いってくれれば何でもするわ。」
「別に位なんか関係ないのよ、このイーゼル公館は私のお家、ここだけが私の帰れる場所なの。」

 帰る場所……お家……私もお家ができたの?この家に所属しているのよね……
 そうよ、私の居場所なのよ、もう根無し草ではないのよ。

「オリヴィア様……私も帰る場所など無いですから……このイーゼル公館を居場所に致します……手伝って頂けますか?」
「一緒に泥をこねましょうね。」
 と、オリヴィアが言いました。
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