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第五章 ジャクリーヌの物語 懺悔

11 『にがり草パン酒』で乾杯

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 雨季が終わり、この間に、すごい勢いでお酒の評判が広まっている。

 お酒は、にがり草ジュースから作る醸造酒『ビイル』。
 黒の巫女の世界の、同名のお酒に味が似ているらしく、そのまま命名したと聞いた。

 もう一つが『にがり草パン酒』、これは蒸留酒なのである。
 エラムには、もともと蒸留酒はなかったのであるが、黒の巫女がエラムのファインという醸造酒を蒸留して、初めて蒸留酒をつくった。

 この『巫女の愛』と呼ばれる蒸留酒は高級品、度数がかなり高く、リッチな味がするが、量産はあまりしていない。
 本来は軍用の精製アルコールの為に、作られているもので、民生用に少し供給されているものである。
 一般民生用には、『少女の温もり』と呼ばれるものがある。

 蒸留酒の精製法は非公開である。
 そのような蒸留酒が、この度新しく出来るという。

 この清純女子会謹製のにがり草ジュースから作る醸造酒『ビイル』と、にがり草パンのお酒『乙女の愛』の試作品は、エラム全土にばら撒かれた。
 もちろん酒場に、であるが。

 乾パン料理法という、レシピ本も大量に配布した。
 『ビイル』には乾パンを油で上げて、塩を軽く振ったおつまみも好評であった。

「この『ビイル』という酒はいいね、苦味がいい、軽いね、この乾パンの揚げたものとよく合うね。」
「こちらの『乙女の愛』は……これは濃いね、すぐに酔えそうだ。」

「なに!『乙女の愛』の卸値は、『巫女の愛』の五分の一!『少女の温もり』でも三分の一だぞ、この風味でか!すぐに下ろしてくれ!」

 『乙女の愛』は、酒場用の度数の高い『濃厚仕様』と、一般販売用の『清純仕様』との二タイプとなっている。
 『清純仕様』は極めて安い。

 ここまで周到に準備されていたので、一期生というべき女たちは、エラム全土に散って、各々お店を開いた。
 そして二期生がやってきて、徐々にジャクリーヌとペネロペの、貧民救済事業は軌道に乗ったようだ。

 荒れた土地を開墾するコースと、農地を耕すコースも作られた。
 個人の体力を考慮する必要があるからだ。

 また少数の募集だが、『清純女子館』の中で、各種の軽作業をするコースも設立された。
 稼げる代金はコースで違うが、何とか開業資金を稼げる様に、考慮されている。
 開墾コースならば、一年で何とかなる。

「ミレーヌ姉さん、ひとついかがですか?」
 ジャイアールの清純女子館の一室で、清純女子会副総裁のジャクリーヌは、訪ねてきた最愛の姉に、『乙女の愛』を注いだのだ。

「一杯いただこう。」
 仲の良い姉妹は、言葉少なく微笑みあった。

    FIN
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