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第六章 ヒルダの物語 シュードラ島奇譚
01 フリードリッヒの苦悩
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【第六章 口上】
レムリア都市同盟は、ある問題を抱えていた。
大陸との交易で成り立っている、レムリア都市同盟ではあるが、エラムで起こった、最後の戦争の当事者であるレムリア人は、大陸にすむキンメリア人とは、どことなく仲が悪いのである。
レムリア都市同盟は孤立無援、何とか国土を広げ、国力をつけたい……
そこで宰相のフリードリッヒは、未知の世界に雄飛することにしたのだが……
* * * * *
黒い森の都と呼ばれるシュヴァルツヴァルト……
創建は大陸諸国のどの都市よりも古いといわれている。
古代のレムリアの遺物が幾つも、足元から発掘されているのだ。
大陸との戦争で敗北するも、黒の巫女同君連合体制の一員となり、何とか滅亡を逃れ、大陸諸国の交易に国の活路を求めたのだが、ある程度の交易は成立するも拡大がはかばかしくない……
大陸の人々、キンメリアと呼ばれるこの人々は、どこかでレムリアを嫌っている。
それが微妙に、貿易拡大の足枷になっている……そんな憶測がまことしやかに広がっている。
「このままでは、再びレムリア至上主義が息を吹き返す……、どうしたものか……」
珍しく、宰相であるフリードリッヒは執務室で考え込んでいた。
実際のところ、レムリア都市同盟は順調なのである。
人々の暮らしも、戦争前より豊かである。
軍備に入れ込んでいた、国家財政も今では健全化され、孤立し北方列島に限られていた経済活動も、その販路をささやかながら、広げているのだが……
「ようは誇りの問題なのだ……」
フリードリッヒの独り言が執務室に響く。
「宰相、ヒルダ様がお会いしたいと、来られています。」
秘書官が来客を告げに来た。
黒の巫女の愛人ヒルダ、先の戦争で軍参謀として大陸侵攻を計画し、アムリア帝国を完膚なきまでに、叩きのめした女である。
レムリア復興のために、黒の巫女に生命をたすけられ、短期間で敗戦のレムリアを、ここまで復興させた手腕は、この女に帰するだろう。
「お通ししろ、お茶の用意を頼む。」
黒の巫女の愛人たちは、揃ってお茶が好きである。
彼女たちの主、黒の巫女のお茶好きに、影響されているのである。
ヒルダは長い黒髪で、細い眉できつい顔をしている。
女としては、胸も尻も薄い。
どことなく、少女のような雰囲気を漂わせているが、約250歳を越していると噂されている。
掛け値なしの魔女であるが、そこは女好きの黒の巫女の事、御多分にもれず、このヒルダも美女である。
「これはヒルダ様、此の様なところへお越しになるとは、私になに用ですか?」
「ムリアスシティの返還問題ですが、教団領政府内では売却ということで話がつきました。」
「ただ支払いは、当方の希望金額よりはかなり高額です、それをお伝えに来ました。」
「教団領政府はいかほどいっているのですか?」
「三割ほど高い額です。」
「……次席賢者の思惑ですかね……」
「ジジ様の提案と聞いています。」
「多分これが、教団領内部を納得させる、最低限の額なのでしょう。」
「では交渉の余地は無いですね……風向きが変わらぬうちに、調印しましょう。」
「フリードリッヒ宰相、大丈夫なのですか?」
「購入代金のことですか?大丈夫では無いですよ。」
「しかしムリアスシティは、レムリアにとっては大事な国土、ここを返還してもらわねば、レムリア至上主義が息を吹き返す。」
「ナショナリズムは、国が貧しいと過激に姿を現す、そう思いませんか?『参謀殿』。」
そう呼ばれて、苦笑いしたヒルダであったが、フリードリッヒの言葉には同意するしかなかった。
レムリア都市同盟は、ある問題を抱えていた。
大陸との交易で成り立っている、レムリア都市同盟ではあるが、エラムで起こった、最後の戦争の当事者であるレムリア人は、大陸にすむキンメリア人とは、どことなく仲が悪いのである。
レムリア都市同盟は孤立無援、何とか国土を広げ、国力をつけたい……
そこで宰相のフリードリッヒは、未知の世界に雄飛することにしたのだが……
* * * * *
黒い森の都と呼ばれるシュヴァルツヴァルト……
創建は大陸諸国のどの都市よりも古いといわれている。
古代のレムリアの遺物が幾つも、足元から発掘されているのだ。
大陸との戦争で敗北するも、黒の巫女同君連合体制の一員となり、何とか滅亡を逃れ、大陸諸国の交易に国の活路を求めたのだが、ある程度の交易は成立するも拡大がはかばかしくない……
大陸の人々、キンメリアと呼ばれるこの人々は、どこかでレムリアを嫌っている。
それが微妙に、貿易拡大の足枷になっている……そんな憶測がまことしやかに広がっている。
「このままでは、再びレムリア至上主義が息を吹き返す……、どうしたものか……」
珍しく、宰相であるフリードリッヒは執務室で考え込んでいた。
実際のところ、レムリア都市同盟は順調なのである。
人々の暮らしも、戦争前より豊かである。
軍備に入れ込んでいた、国家財政も今では健全化され、孤立し北方列島に限られていた経済活動も、その販路をささやかながら、広げているのだが……
「ようは誇りの問題なのだ……」
フリードリッヒの独り言が執務室に響く。
「宰相、ヒルダ様がお会いしたいと、来られています。」
秘書官が来客を告げに来た。
黒の巫女の愛人ヒルダ、先の戦争で軍参謀として大陸侵攻を計画し、アムリア帝国を完膚なきまでに、叩きのめした女である。
レムリア復興のために、黒の巫女に生命をたすけられ、短期間で敗戦のレムリアを、ここまで復興させた手腕は、この女に帰するだろう。
「お通ししろ、お茶の用意を頼む。」
黒の巫女の愛人たちは、揃ってお茶が好きである。
彼女たちの主、黒の巫女のお茶好きに、影響されているのである。
ヒルダは長い黒髪で、細い眉できつい顔をしている。
女としては、胸も尻も薄い。
どことなく、少女のような雰囲気を漂わせているが、約250歳を越していると噂されている。
掛け値なしの魔女であるが、そこは女好きの黒の巫女の事、御多分にもれず、このヒルダも美女である。
「これはヒルダ様、此の様なところへお越しになるとは、私になに用ですか?」
「ムリアスシティの返還問題ですが、教団領政府内では売却ということで話がつきました。」
「ただ支払いは、当方の希望金額よりはかなり高額です、それをお伝えに来ました。」
「教団領政府はいかほどいっているのですか?」
「三割ほど高い額です。」
「……次席賢者の思惑ですかね……」
「ジジ様の提案と聞いています。」
「多分これが、教団領内部を納得させる、最低限の額なのでしょう。」
「では交渉の余地は無いですね……風向きが変わらぬうちに、調印しましょう。」
「フリードリッヒ宰相、大丈夫なのですか?」
「購入代金のことですか?大丈夫では無いですよ。」
「しかしムリアスシティは、レムリアにとっては大事な国土、ここを返還してもらわねば、レムリア至上主義が息を吹き返す。」
「ナショナリズムは、国が貧しいと過激に姿を現す、そう思いませんか?『参謀殿』。」
そう呼ばれて、苦笑いしたヒルダであったが、フリードリッヒの言葉には同意するしかなかった。
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