ど天然田舎令嬢は都会で運命の恋がしたい!

上木 柚

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第一章

9 王宮舞踏会にて2

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 王族の入場が始まると、最初に王太子以外の王子と王女達がその婚約者と共に入場した。
 それから、王太子であるアーサーが婚約者のアリソンをエスコートしながら入場する。
 互いの瞳の色と同色の宝石を身に付け、同じ布地を随所に使用し、色味を合わせた夜会服とドレスを身に纏った二人は時折何か囁き合うとしばし見つめ合い、とても仲睦まじい姿を見せていた。
 ロザリンドはそんな二人の姿を見て、『素敵…、これが都会の恋の集大成…そう、恋の最終章なのね…』とエメラルドの瞳を輝かせながらよくわからないことを呟いていた。
 そんなロザリンドに気付いたアリソンが微笑みながら小さく手を振ると、ロザリンドは満面の笑みで大きく手を振りブラッドリーに注意された。

 最後に国王と王妃が入場すると、一同は貴族の礼で迎える。
 国王から社交シーズンの開始宣言と今年のデビュタントへの祝辞などを賜ると、王族を代表してアーサーとアリソンがホール中央に進む。

 会場がシンっと静まる中、隅に控えた楽団がゆったりとしたリズムのワルツを奏で、王太子とその婚約者によるファーストダンスが始まる。
 まるで滑るようになめらかな動きで円を描きながら舞う二人は、おとぎ話からそのまま飛び出てきたような美しさで、誰もが憧憬の眼差しを向けた。

「さっき手を振ってた子がこないだ言ってた子?」

 踊りながらアーサーが囁くと、アリソンは頭一つ分背の高い彼を見上げて微笑む。

「そう。とっても可愛らしい子なの。裏表がないから何時間でも話していられるわ」
「へえ、それは妬けるね」

 と言いつつ婚約者であるアリソン第一主義のアーサーは既にロザリンドについて影を使って調べ上げていた。
 建国より続く忠臣パスカリーノ辺境伯家の久方ぶりに誕生した令嬢。
 何を血迷ったのか辺境伯が淑女教育ではなく嫡男と同じ教育を施した為に、馬術や武術に長けた令嬢と報告されていた。

 ―――報告を見て、どんな屈強な令嬢なのかと思ってたけど、人は見かけによらずだね。あんなに華奢で虫も殺せない様な見た目なのに、辺境では辺境伯の騎士団に紛れて鉄砲やクロスボウ片手に害獣駆除ときた。なかなか興味深い人物だなぁ。

 一節が終わると、侍従の合図で今年のデビュタント達がパートナーと共にホールに入り、ファーストダンスに加わる。
 デビュタントの証である純白のドレスや夜会服に身を包んだ令嬢、令息達がやや緊張を含んだ表情で踊る姿は初々しい。その中にあって、妖精もかくやという可憐さのロザリンドは誰よりも人目を引いた。5歳で辺境の領地に引っ越してからは王都でのお茶会などにはほとんど出席したことのないロザリンドを知る者は少なく、誰もが口々に『あの一際美しい令嬢は誰だ!?』と会場をザワつかせたのだが、当の本人はというと、

 ―――この曲あとどれくらいで終わるのかしら?まず絶対にあのお肉はいただくでしょ、それからあのパイ包み!デザートもかなりの種類があったわ。あーもう!ルーシーったらコルセットをギチギチに締めるんだから!もう少し緩めてもらえばよかった!

 と、心は早くも食べ物へと向かっていた。
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