ど天然田舎令嬢は都会で運命の恋がしたい!

上木 柚

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第三章

47 すれ違う心

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「ロザリンド嬢って…なんだか他人みたい。どうしていつもみたいにローザって呼んでくれないの?」

 いつもの愛称ではなく、他人行儀に『』と呼ばれ、ロザリンドは眉をひそめた。
 その様子を見ていたトマスは大きくため息をつく。

「他人みたいもなにも、他人だからだよ。から聞いたよ。いろいろと」
「え?どういうこと?」

 ロザリンドの問には答えずに、トマスは立ち上がると、窓辺に向かった。
 そして、ロザリンドに背を向けてこう告げた。

「ジュリアと婚約したんだ。これからは前みたいに馴れ馴れしくするのは止めてくれ」

 思ってもみなかったトマスの言葉に、ロザリンドは一瞬意味をとらえられず固まったが、パッと立ち上がるとトマスのもとへ駆け寄った。

「え?ま、待って?今何て言ったの…?」
「聞こえなかったか?俺はジュリア・レベッカ・ノース伯爵令嬢と婚約したんだ」

 トマスは振り返り、ロザリンドの目を見てハッキリと答えた。その瞳には悲しみと怒りが混ざって、揺らめいていた。

「どういう事なの?あの丘での約束は…?う、嘘だったの?」

 ロザリンドは、大きなエメラルドの瞳に涙を浮かべて彼に縋ろうと手を伸ばしたが、その手は無情にも冷たく払われてしまう。他でもない彼の手によって。

「嘘?嘘をついていたのは君だろう?彼女から聞いたよ。君、王都には婚姻前の火遊びの為に来たんだって?辺境の地でそんな事をすればたちまち噂になってしまうからって、彼女に話していたそうじゃないか。騙されたよ…俺は、俺は君の事が本当に好きだったのに…」

 辛そうに顔を歪めるトマスの言っていることが理解できない。ロザリンドには全く身に覚えのない事だったからだ。

「何なのそれ!?何か誤解しているわ!それに、なんでこんなにすぐにあの子と婚約を?なんで、わたくしに直接聞いてくれなかったの?」
「聞こうにも君は辺境の領地に帰っていたじゃないか!領地にも恋人がいるとも聞いた!」
「恋人?恋人なんていないわ!何かの誤解よ!」
「だいたい、おかしいと思ったんだ!領地に帰った途端に、手紙の一つも寄越さない!ジュリアの言っていることも、最初は信じられなくて、何通も手紙を送ったのに、返事すらない!」
「嘘よ!わたくしは毎日手紙を送ってたし、トマス様から手紙なんて来なかった!それに、領地に恋人なんて本当にいない!」

 ロザリンドが詰め寄るとトマスは歪めた表情のまま目を逸らし、絞り出すように話始める。

「エドワード…だったか?幼い頃からずっと傍にいて、とても愛していると、彼女に言ったそうじゃないか!それを聞いた時の、俺の絶望感がわかるか?」
「はあ?エドワード?なんでエドワード?」

 思わぬ名前が出て、混乱しているロザリンドを気にすることなく、トマスは続ける。

「そんな時、彼女の家から婚約の打診が来た。彼女は、悲しみに暮れる俺を懸命に慰めてくれたんだ!だから俺は…「もういいわ!」」

 トマスの言葉を遮り、ロザリンドは駆け出し、彼女のもとへ向かった。エドワードの話を彼女は何か勘違いしてるのかもしれない。きちんと話せばわかってもらえるはずだと。

「エドワードを恋人と間違えるなんて!有り得ないわ!だって、エドワードは私の!」

 すでに結ばれてしまった彼と彼女の婚約は、きっともうどうにもならないかもしれないが、この酷い誤解だけは解いておかなければと、ロザリンドはノース伯爵家へと急いだ。

 邸から急いで出て、馬車に向かって走るロザリンド、その後ろ姿を、動かずじっと見つめるトマス。
 その瞳は涙に濡れ、頬には幾筋もの雫が溢れていた。
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