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第一章
ファッション談義
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◇
「と言う訳で、明るい色のドレスにトライするんでいいわね。ミリィ!」
ビシッとヴァレリアから指を刺されたミリアム。
あれからまたドレスの色の論争が巻き起こり、ドレスで表現する季節感や、肌の色から分析する似合う色の系統の話などを三人から熱弁されたミリアムは、もうどうでも良くなってきていた。
「もう、何でも構いません。おまかせ致しますわ」
「よし!じゃあ早速!」
ヴァレリアはローブから色とりどりの魔石で美しくも繊細な装飾が施された白銀色の杖を取り出すと、それをミリアムの頭の上を目掛けてクルクルと回した。
するとミリアムの頭上に瑠璃色の魔法陣が現れ、ゆっくりと足の先まで下降すると、淡い光がミリアムを包み込んだ。
眩しさに目を瞑ったミリアムが、再び目を開けると、見下ろした自分のドレスがモスグリーンのそれから変化していた。
爽やかなミントグリーンを基調としたプリンセスラインのそのドレスは、ふんわりとしたレースの裾が幾重にも重なって動く度にフワリと揺れる。
袖も肘から下の部分が腕先にかけて広がる様になっていて、こちらも幾重にも重ねたレースがちょっとした腕の動きに軽やかな表情を与える。
スクエアにカットされた襟ぐりはデコルテ部分を美しく魅せ、胸元はフリルを何段にも重ねてボリュームを出し、ウエストをさらに細く見せている。
背中も開きすぎないよう絶妙なラインでカットされ、腰の部分で大きくリボンを結ぶ。
リボンの端が短めのトレーンに重なり、華やかな印象を与えていた。
「素敵なドレス…。こんな色、初めて着ました」
姿見を見ながらミリアムはクルリと回って自分の姿を確認する。
「金持ちなのに侯爵家ではこういうドレス作ってくれないわけ?ケチなの?」
家族に大切にされている割には地味なドレスを身に着けるミリアムに疑問を持ち、ヴァレリアが尋ねると、ミリアムは首を横に振った。
「いえ、仕立てる時にお母様もお兄様もこういった明るい色味のものをいつも勧めてくださいますわ。ただ、わたくしが固辞しておりましたの。似合わないと、相応しくないと思って…」
「それでいつも地味なドレスを着ていたのねぇ」
「はい。その度にお母様もお兄様も寂しそうなお顔をされていましたわ。お姉様にもいつも侯爵家の令嬢として相応しくない装いだと窘められておりました。でも、最終的にはわたくしの気持ちを尊重してくださっていました」
ベアトリーチェはカップにお茶を注ぐと、ミリアムを自分の隣の席に手招きする。
「思いきって着てみたら、なんてことないでしょう?よく似合っているわぁ。さ、お茶をどうぞ」
ミリアムは渡されたカップを再び手に取り、ゆっくりと口をつける。
また、淹れたてのような温かさと薫りのお茶だ。
「あの、先程から疑問に思っていたのですが、なぜいつもお茶が淹れたてのようなのでしょうか?見たところ、ここには給仕もメイドも侍女もいないようですが、いつポットが交換されたのです?」
ミリアムは再び頭によぎった疑問を口にした。
三人の魔女たちは一瞬キョトンとしたあと、顔を見合わせて「あー」と納得したような表情をした。
「当たり前の事になりすぎて、すっかり忘れていたな。確かに普通は疑問に思うだろう」
エレオノーラがポットをコンコンと指で叩いた。
「なんてことはない。繰り返しの魔法だ」
「繰り返しの魔法?」
「そーよ。ポットにお湯を注いで、丁度良く蒸らした【飲み頃の瞬間】を繰り返してるの。だからこのポットからいくらお茶を注いでも、常に飲み頃の瞬間を繰り返してるから、ポットの中のお茶は冷めないし減らないってわけ」
同じ瞬間を繰り返す魔法…。なんとも不思議だったが、ミリアムはハッと気がつく。
この邸宅に来る前に足を踏み入れた不思議な庭園。冬の花と夏の終わりの果実が同時に存在していた。まさかあれも?
「あの、もしかしてこちらの邸宅の庭園にも繰り返しの魔法が?」
「あらぁ、よくわかったわねぇ!」
「いえ、季節の違う植物が植わっておりましたので、不思議に思っておりました」
この邸の庭園に入った時に一番最初に気になっていた事、季節の違う草花、この時間に咲いているはずのない花など…。
ある瞬間を繰り返すことが出来る魔法があるのであれば説明がつく。そうミリアムは考えた。
ベアトリーチェは少々瞠目すると、再び華のような笑顔を浮かべる。
「驚いたわ。ミリィは植物に詳しいのねぇ。それに洞察力もある」
そう言うとベアトリーチェはテラスから庭園を一瞥した。
「ここに植わっているのは全て薬になる植物なのよぉ。全ての植物に薬効が1番高い瞬間を繰り返す様に魔法がかけられているの。言わば王宮の薬箱ってところねぇ」
「王宮の薬箱ですか」
「ええそうよぉ。何かと謀の多い場所だものねぇ。王族の口にする薬は全て、ここで私が作っているのよぉ」
ミリアムは以前、第一王子の側近を務める兄と父侯爵が話していることを偶然聞いてしまった事がある。第二王子との確執や貴族同士の水面下でのいざこざ、怪しい動きを見せる新興宗教の事など、最近の王宮は王族にとって必ずしも安全とは言えない環境となっていると。
「なるほど王族の方々のお薬ですのね。確かに必要ですわね」
「ふふふ、結構皆もらいに来るのよぉ。噂をすれば、ほら」
ベアトリーチェが扉に視線を向けると、トントンっと誰かが扉を叩いた。
「と言う訳で、明るい色のドレスにトライするんでいいわね。ミリィ!」
ビシッとヴァレリアから指を刺されたミリアム。
あれからまたドレスの色の論争が巻き起こり、ドレスで表現する季節感や、肌の色から分析する似合う色の系統の話などを三人から熱弁されたミリアムは、もうどうでも良くなってきていた。
「もう、何でも構いません。おまかせ致しますわ」
「よし!じゃあ早速!」
ヴァレリアはローブから色とりどりの魔石で美しくも繊細な装飾が施された白銀色の杖を取り出すと、それをミリアムの頭の上を目掛けてクルクルと回した。
するとミリアムの頭上に瑠璃色の魔法陣が現れ、ゆっくりと足の先まで下降すると、淡い光がミリアムを包み込んだ。
眩しさに目を瞑ったミリアムが、再び目を開けると、見下ろした自分のドレスがモスグリーンのそれから変化していた。
爽やかなミントグリーンを基調としたプリンセスラインのそのドレスは、ふんわりとしたレースの裾が幾重にも重なって動く度にフワリと揺れる。
袖も肘から下の部分が腕先にかけて広がる様になっていて、こちらも幾重にも重ねたレースがちょっとした腕の動きに軽やかな表情を与える。
スクエアにカットされた襟ぐりはデコルテ部分を美しく魅せ、胸元はフリルを何段にも重ねてボリュームを出し、ウエストをさらに細く見せている。
背中も開きすぎないよう絶妙なラインでカットされ、腰の部分で大きくリボンを結ぶ。
リボンの端が短めのトレーンに重なり、華やかな印象を与えていた。
「素敵なドレス…。こんな色、初めて着ました」
姿見を見ながらミリアムはクルリと回って自分の姿を確認する。
「金持ちなのに侯爵家ではこういうドレス作ってくれないわけ?ケチなの?」
家族に大切にされている割には地味なドレスを身に着けるミリアムに疑問を持ち、ヴァレリアが尋ねると、ミリアムは首を横に振った。
「いえ、仕立てる時にお母様もお兄様もこういった明るい色味のものをいつも勧めてくださいますわ。ただ、わたくしが固辞しておりましたの。似合わないと、相応しくないと思って…」
「それでいつも地味なドレスを着ていたのねぇ」
「はい。その度にお母様もお兄様も寂しそうなお顔をされていましたわ。お姉様にもいつも侯爵家の令嬢として相応しくない装いだと窘められておりました。でも、最終的にはわたくしの気持ちを尊重してくださっていました」
ベアトリーチェはカップにお茶を注ぐと、ミリアムを自分の隣の席に手招きする。
「思いきって着てみたら、なんてことないでしょう?よく似合っているわぁ。さ、お茶をどうぞ」
ミリアムは渡されたカップを再び手に取り、ゆっくりと口をつける。
また、淹れたてのような温かさと薫りのお茶だ。
「あの、先程から疑問に思っていたのですが、なぜいつもお茶が淹れたてのようなのでしょうか?見たところ、ここには給仕もメイドも侍女もいないようですが、いつポットが交換されたのです?」
ミリアムは再び頭によぎった疑問を口にした。
三人の魔女たちは一瞬キョトンとしたあと、顔を見合わせて「あー」と納得したような表情をした。
「当たり前の事になりすぎて、すっかり忘れていたな。確かに普通は疑問に思うだろう」
エレオノーラがポットをコンコンと指で叩いた。
「なんてことはない。繰り返しの魔法だ」
「繰り返しの魔法?」
「そーよ。ポットにお湯を注いで、丁度良く蒸らした【飲み頃の瞬間】を繰り返してるの。だからこのポットからいくらお茶を注いでも、常に飲み頃の瞬間を繰り返してるから、ポットの中のお茶は冷めないし減らないってわけ」
同じ瞬間を繰り返す魔法…。なんとも不思議だったが、ミリアムはハッと気がつく。
この邸宅に来る前に足を踏み入れた不思議な庭園。冬の花と夏の終わりの果実が同時に存在していた。まさかあれも?
「あの、もしかしてこちらの邸宅の庭園にも繰り返しの魔法が?」
「あらぁ、よくわかったわねぇ!」
「いえ、季節の違う植物が植わっておりましたので、不思議に思っておりました」
この邸の庭園に入った時に一番最初に気になっていた事、季節の違う草花、この時間に咲いているはずのない花など…。
ある瞬間を繰り返すことが出来る魔法があるのであれば説明がつく。そうミリアムは考えた。
ベアトリーチェは少々瞠目すると、再び華のような笑顔を浮かべる。
「驚いたわ。ミリィは植物に詳しいのねぇ。それに洞察力もある」
そう言うとベアトリーチェはテラスから庭園を一瞥した。
「ここに植わっているのは全て薬になる植物なのよぉ。全ての植物に薬効が1番高い瞬間を繰り返す様に魔法がかけられているの。言わば王宮の薬箱ってところねぇ」
「王宮の薬箱ですか」
「ええそうよぉ。何かと謀の多い場所だものねぇ。王族の口にする薬は全て、ここで私が作っているのよぉ」
ミリアムは以前、第一王子の側近を務める兄と父侯爵が話していることを偶然聞いてしまった事がある。第二王子との確執や貴族同士の水面下でのいざこざ、怪しい動きを見せる新興宗教の事など、最近の王宮は王族にとって必ずしも安全とは言えない環境となっていると。
「なるほど王族の方々のお薬ですのね。確かに必要ですわね」
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