【本編完結】おかわりはいかが?〜偉大なる魔女たちの優雅なお茶会〜

上木 柚

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第二章

動き出す

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 侍女の案内とエミリオのエスコートで王城の紅玉宮にある客室へとやってきたミリアムは、拐われたアレッシアを思うと未だに身体が震え、不安に襲われていた。
 エミリオはミリアムを落ち着かせる為に、侍女に気分が休まるハーブティーを淹れるように指示すると、ミリアムをソファに座らせ、自身もその隣に腰掛けた。

「今ハーブティーを持ってこさせる。飲んで少し落ち着くといいんだが…」
「ありがとうございます。エミリオ様…」

 青い顔をして震えているミリアムを見て、エミリオは思わず腰に手を回し抱き寄せた。
 小柄なミリアムはエミリオの腕の中にすっぽりと収まり、その柔らかく華奢な身体にエミリオは思わず目眩を覚えた。

(お、思わず抱きしめてしまったが…どうしたものか!なんて小さくて、か、可愛いんだ…!)

 一瞬邪な考えが頭をよぎったが、現在の状況を思い出しエミリオは煩悩を消すために勢いよく頭を振る。

「安心しろ、君の姉君は必ず無事に助ける」

 抱き寄せる腕に力を込めると、ミリアムはそっとエミリオの腕に手を添え、顔を上げる。

「ありがとうございます。だいぶ落ち着いてまいりましたわ…。お姉様の方がお辛い状況ですもの。わたくしがこんな事ではいけませんわね。エミリオ様にも気を使わせてしまって、申し訳ございません」

 そう言って頼り投げな笑顔を作るミリアムを見て、エミリオは思わず肩を掴んで正面から向き直す。

「あ、あのエミリオ様…?」
「全く、君は!無理に笑わなくてもいいんだ!恐ろしくて、不安だと泣いたっていいんだ。私が全部受け止める。君に頼ってほしいんだ」

 そう言うと戸惑うミリアムを強く抱きしめた。
 ふわりと花のような薫りが鼻をくすぐる。腕の中の小さな身体に、その体温に、愛おしさが募っていく。守ってやりたいとそう強く思った。

「く、苦しいですわ。エミリオ様」

 ミリアムに背中をトントンと叩かれ、エミリオはハッと我にかえる。

(私は今何をして何を言った!?)

 途端に赤面したエミリオが立ち上がると、ハーブティーを載せたワゴンを押した侍女が戻ってきた。

「すまない、と、とにかく少し落ち着くといい。ゆっくり休め」

 赤い顔をしたまま部屋を出ていくエミリオを見送るミリアムもまた、赤く染まった自身の頬を両手でおさえた。


 ◇


「間違いないわ。ロビンの記憶に出てきた赤いローブの奴らね」

 アレッシアに同行していた御者と護衛の証言に“赤いローブの者たち”というものがあった為、もしやと思い、ちょうどお茶会でベアトリーチェの邸に来ていたヴァレリアに記憶を覗いて確認してもらう。

「ロビンを異世界から転移させた者たちと同じという事でしょうか?」
「可能性は高いわね」
「目的が見えませんね」

 エミリオが執務室に戻ると、レオナルドとヴァレリアがたった今覗いた記憶について話していた。

「何か進展はあったか?」
「今ヴァレリア様に御者の記憶を覗いていただいた。ロビンの記憶に出てきた赤いローブの者たちが関係している可能性が高い」
「赤いローブの…。一体何が目的なんだ…?」

 執務机に座るとペンを取り、情報を整理する。

 赤いローブの集団、異世界転移、妙齢の女性…?

「ところでミリィの様子はどうだった?」

 レオナルドの問いにエミリオは先程の事を思い出し頬を染める。
 その様子にレオナルドは眉を顰める。

「おい、なんでそこで赤面するんだ。こんな状況で良からぬ事でもしてきたんじゃないだろうな!」
「断じてそれはない!」

 凍りつくような殺気を込めた瞳で睨まれたエミリオは全力で否定する。
 そして、ミリアムを部屋まで送る途中であった異母弟の事を思い出す。

「関連はないのかもしれないが、イヴァンの動向が少し気になる」
「イヴァン殿下か?何かあったのか?」
「先程、紅玉宮への道中で会ったんだが、アレッシア嬢の件をなぜか知っていた。未婚の令嬢の誘拐故に、まだどこにも公表していないのにだ。侍従に調べさせたと言っていたが、関係者以外への箝口令も敷かれる中、あんな短時間で探るのは難しいだろう」
「確かにそうだな、しかし目的は?」

 裏でイヴァンが糸を引いているかもしれないと仮定すると、今回の誘拐に関しては意図が見えてくる。しかし、その事に気付いたエミリオはこれまでの自身の行動を深く後悔した。

「イヴァンが関係しているとすれば、アレッシア嬢は恐らくミリアム嬢と間違えられて拐われた可能性が高い」
「どういうことだ?」
「イヴァンは俺にこう言ったんだ。『が拐われたそうですね』と。だが実際には婚約者に内定していた令嬢などいない。ただの噂だ。私が、毎回ミリアムを馬車でカパローニ邸まで態々同乗して送ったりしていた為に出てきた噂話だ!あいつは一緒にいたミリアム嬢がカパローニ家の人間とはわかっていなかった。ただ単に『カパローニ侯爵家の令嬢と婚約が内定したらしい』と言う噂を聞いてアレッシア嬢だと思い込んだのかもしれない!」

 王位継承を巡る第二王子派との事で充分に注意しなければと分かっていたはずなのに、婚約している訳でもないのに近付きすぎてしまった。もし、自分の考えが正しかったとしたら、無自覚だったとは言え、軽率すぎたとエミリオは悔やんでも悔やみきれない。

「すまないレオ、私の軽率な行動で結局お前の大切な妹を危険に晒してしまったかもしれない…!」

 執務机から立ち上がり、遂に床に膝をついたエミリオにレオナルドは慌てて駆け寄る。

「よせ!まだそうと決まった訳ではないだろう!犯人は赤いローブの奴らだ。イヴァン殿下と何か繋がりがあるのかどうかもまだ分かっていない!謝るなら全てが分かって、シアを、妹を無事に助けてからにしろ!」

 エミリオの胸ぐらを乱暴に掴み、立たせるとレオナルドはハッと思い立つ。

「ヴァレリア様!空間転移でミリィをベアトリーチェ様の邸に召喚する時の様に、シアをする事は出来ないのですか!?」

 レオナルドの問いかけにヴァレリアは目を伏せ首を横に振る。

「時空転移と違って、空間転移の魔法で遠隔地から召喚する場合、一度会ったことがないと無理なのよ。悪いわね」

 ヴァレリアの答えにエミリオとレオナルドは肩を落とす。

「イヴァン殿下の件はミリィには?」
「知らせていない。言えるわけがない」
「賢明な判断ね」
「ひとまず、私はイヴァンの周囲から探りを入れてみる。レオは赤いローブの集団から当たってみてくれ」
「わかった」
「乗りかかった船だから、あたしも手を貸すわよ。まずは現場から魔法陣の痕跡を辿ってみる」

 ヴァレリアからの願ってもない申し出に、エミリオとレオナルドは瞠目する。

「手を貸していただけるんですか!?」
「赤いローブの奴らはあたしも追ってるからね。それに、思った以上に気に入ってたみたい。あの子、ミリィの事。もちろんリーチェとエリーも巻き込んでやるわ」

 怒りの炎を瑠璃色の瞳の奥で揺らしながら、ヴァレリアは艶然と微笑んだ。
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