【本編完結】おかわりはいかが?〜偉大なる魔女たちの優雅なお茶会〜

上木 柚

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第二章

調査報告

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 王都の外れにある古めいた邸。
 かつて栄華を誇った一族が、病気がちな娘の療養の為に建てたと言われているその邸は、邸内のどの部屋からでも四季折々の花々が娘の心を慰める様にと、邸を取り囲むように花園が作られ、一年中花に囲まれた場所だ。

 そんな花に埋もれた邸の一室で、アレッシアは目が覚めた。

(……ここは?)

 目を開けた時の見慣れない天井、見慣れない風景に声を上げたいところを堪え、様子を窺う。

(拘束は……特にされていないようですわね)

 自分の手足を確認し、そっと上体を起こす。
 アレッシアが寝かされていたのはよく手入れのされた上等なベッドだった。シーツ類も上質のもので、貴賓を迎えるに相応しい仕様となっていた。
 灯りはなく、室内は薄暗い。

(わたくしは、誘拐されたのかしら?あとの三人は…、ここにはいませんのね。無事だと良いのだけれど)

(とにかく、ここがどこなのかわかるものはないかしら…)

 辺りを見回すと、薄暗い室内に月明かりを落とす大きな窓が目に入る。
 アレッシアは静かにベッドから降りると、外の様子を見ようと窓に向かって歩き出した。


「お目覚めかな?カパローニの精霊姫」

 後ろから突如声をかけられ恐怖で身が竦む。恐る恐る後ろを振り向くと、肩までの白銀の髪と金色の瞳をした男が部屋の隅に置かれた椅子に腰掛け、こちらを見ていた。年の頃はアレッシアとそう変わらないように見える。

「わたくし以外の者はどこです?」

 アレッシアは恐怖心を抑え、毅然とした態度で男に問いかける。すると、男は「へぇ」と少々瞠目した。

「なかなか気丈な女性だね」
「質問に答えなさい」

 男は立ち上がるとアレッシアに向かって一歩、一歩と近付いてくる。アレッシアは後ろ手に壁を押さえながら距離を詰められないように後退するが、遂に逃げ場がなくなり部屋の隅へと追い詰められる。
 アレッシアよりも頭一つ分程大きなその男は彼女の真っ直ぐな金色の髪を一房手に取ると、それにそっと口づけた。

「何を…!」

 咄嗟に出たアレッシアの右手を掴み、男は顔を近づけ、耳元で囁く。

「安心して。君の家の者は無事だ。ちゃんと馬車と一緒に元の場所に戻しておいたよ」

 男はアレッシアの顎を掴むと、自分の方を向かせる。無理に上を向かせられたアレッシアは苦痛に顔を歪めながらも男を睨みつけた。

「ここはどこなの!?この手を離しなさい」

 その様子に男は嬉しそうに顔を歪ませる。

「いいね、君。美しくて気が強くて、全く媚びない。まるで気高い竜の様だ!ハハハ」

 男はアレッシアを突き放すと踵を返して扉へむかって歩き出す。アレッシアは力なくその場に座り込んだ。

「僕の事はジルと呼ぶといい。君にはしばらくここにいてもらう。変な気さえ起こさなければ悪いようにはしないよ」

 そう言いながら部屋を出ていった。


 ◇


 ベアトリーチェの邸では三人の魔女が集まって最近の調査について報告し合っていた。

「渓谷に現れた黒龍に関して重要な報告がある」

 エレオノーラはローブから革袋を一つ出すと、テラスの円卓の上に置く。

「渓谷内を調査したところ、複数の箇所でこれを発見した」

 革袋の中から赤い石の入った小瓶をいくつか出すと、ベアトリーチェとヴァレリアに一つずつ渡していく。
 小瓶の蓋には封印の印が描かれたラベルが貼られている。

「これは?」
「ただの赤い石なわけないわよねぇ」

 二人は日に翳してみたり、振ってみたりしながら赤い石を観察している。

「恐らく黒龍の幼体の血液を固めたものだ。そしてここに籠められたその幼体の悲鳴が絶えず発せられている。封印は絶対に解かないでくれ」
「なんて酷いことを…」

 ベアトリーチェとヴァレリアは眉を顰める。

「この石を消音の魔法陣の上に置く事で、人間には聞こえず、魔境の黒龍にだけ届くようにしたんだろう。やつらは目が退化した代わりに耳が恐ろしくいいからな」
「そうやって渓谷に黒龍の若い個体をおびき出したわけね。下衆なやり方だわ。反吐が出る」
「でもぉ、一体何の為に?」

 ベアトリーチェが投げかけた疑問に、肩をすくめながらエレオノーラが答える。

「恐らく、私を狙ったのではないかと思う」
「エリーを?黒龍ごときじゃ無理でしょ。馬鹿じゃないの?」
「私の事を良く思わない連中はいつの時代も一定数はいるんだ。それこそ800年たった今でもな。それに200年毎の老体駆除の時には一応王家の騎士たちに気を使って、力を抑えて連携を取っている。私一人の時に若い個体をけし掛ければ仕留められると思ったんだろう」

 ダークエルフと人間のハーフであるエレオノーラは、当時どちらの種族にも受け入れられず、たった一人で生きていた。
 救国の魔女となった後も、自分たちと異なる存在は畏怖の対象となり、排除しようとする動きはいつの時代も少なからずあったのだ。
 そんな事もあり、エレオノーラは渓谷で一人生活することを選んだ。それは魔境との結界を張るためにも結果として都合が良かったのだ。

「もし、赤いローブの集団が黒龍の髭と漆黒の魔石を使っているとしたら、この幼体のものって事かしらねぇ」
「まあ、幼体なら複数人で挑めば何とかいけるか。ただ魔素はまだ少ないだろうから、効果は落ちるだろうけど」
「態々魔境に分け入って?ご苦労なお話ねぇ」

 エレオノーラは小瓶を回収すると再び革袋に入れてローブの中にしまう。

「あたしも分かった事があるわ。アレッシア嬢が拐われた森に行って魔法陣の痕跡を探ってみたの。やっぱ複数人で魔力をかけ合わせてた。ただ想定してたより人数は少なそうね。5~6人ってところかしら」
「するとやはり黒龍の髭と漆黒の魔石が使われた可能性が高いか」
「誘拐の件にしても、エリーの件にしてもやはり組織立った犯行かしらねぇ」
「エミルの言ってた【真・救国神教】って言うのも調べてみたほうが良さそうね」

 そう言うと、魔女たちは一度解散して、再び調査にむかった。
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