【本編完結】おかわりはいかが?〜偉大なる魔女たちの優雅なお茶会〜

上木 柚

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第二章

第二王子イヴァン

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 ◇


「それで?兄上と一緒にいた令嬢は誰なのか分かったのか?」

 ここは王族の生活スペースとなる金剛宮の一室。第二王子イヴァンの私室だ。
 先日異母兄と一緒に紅玉宮へ向かった令嬢について調べさせていたイヴァンは、結果を報告させる為に側近を私室へと呼び出していた。

「“ミリアム”という名前から、カパローニ侯爵家の末の姫君かと推測し、調べさせたところ、確かにここ最近エミリオ第一王子殿下がカパローニ侯爵家のご令嬢を邸まで馬車に同乗して送り届けていたとの証言が取れております」
「いや、それは中間報告でも聞いたがな。それなりに可愛らしい容姿はしていたが、あれはカパローニ家の令嬢という感じではなかったぞ」

 イヴァンは一瞬見たミリアムの容貌を思い出し、カパローニ家の面々と照らし合わせ「似ているか?いや違うだろう」と失礼な事を考える。
 側近の男はその場に居合わせなかった為、イヴァンの聞いた名前から貴族年鑑を調べ、カパローニ家の末娘と推測をし、聞き取り調査を行った上で報告にやってきた。

「あーしかし、実際に俺見てないっすからね」
「おい、言葉遣い」
「おっと。申し訳ございませんイヴァン殿下」
「全く、お前は気を抜くとすぐこれだ」

 イヴァンの側近の男、ディーノ・ヤニック・ヴァスコ・ズラタノフもやはりレオナルドと同じように幼少期から遊び相手として登城していた伯爵家の次男だ。
 仕事は出来るが、気を抜くとどうにも素が出る上にすぐに手を抜きたがる。
 しかし、イヴァンにとっては城内で唯一気を許せる相手でもあった。

「でもその年の頃で、第一王子殿下に拝謁できる身分で“ミリアム”って名前なのはカパローニ家の末の姫くらいなんすよね。聞き間違いじゃないっすか?それか、目ぇ悪くなった?」
「バカにするな。しかしだな。…だとしたら面倒なことになったぞ」
「は?」

 イヴァンはソワソワとしながら立ち上がると、室内をウロウロしだした。

「えーと、どうしたっすか?」
「……カパローニ家の令嬢だと聞いたからてっきり…」
「あん?よく聞こえないっす」
「だから!カパローニ家の令嬢と婚約が内定したと聞いたから!てっきり精霊姫の方かと思ったんだ!」

 突然取り乱したイヴァンに、ディーノは目を丸くし、問い詰める。

「てっきり精霊姫の方かと思って?で?どうしたんだ?」

 急に口調が変わったディーノに観念したのか、イヴァンは自分のした事を白状しだした。

「兄上に後ろ盾になりうる婚約者が出来そうだと、伯父上から聞いて……カパローニ侯爵家の令嬢だと」
「ああ、それで?」
「このままでは王位継承は兄上に決まってしまうと、…焦って、それでちょうど高貴な血筋の美しい令嬢を探している者たちがいてだな。カパローニの精霊姫ならば申し分ないと利害が一致したものだから、精霊姫の友人の伯爵令嬢にそれとなく珍しい茶葉が渡るようにして、親しい者でも集めて試してはどうか?と…」
「それで、侯爵家の令嬢を誘拐させたと。そしてそれがそもそも人違いだったと」

 明らかに怒気を放つ己の側近に顔を青くしたイヴァンはソファの上にあったクッションをディーノ目掛けて投げつけた。

「焦っていたんだ!このままではあいつが立太子してしまう!どれだけ努力しても何をしても敵わなくて、勝っているのは母親の血筋だけだ!お前に何がわかる!」
「わからんな!だからと言ってこんな悪手に打って出る大馬鹿の気持ちなんぞ全くわからん!」
「…クソッ!」

 片手で額を押さえながら「ハァ~」と態とらしく溜息をついたディーノは、イヴァンの頭をクシャクシャッと撫でる。

「それで?どこのどいつに頼んだんだ?」
「…最近勢力を増している新興宗教団体だ。白銀色の髪に金色の瞳の男が接触してきた。どうするつもりだ?」
「まずはあちらさんに詫び入れて、情報提供の上で連携だな。とにかく相手が悪すぎる。ったく、よりによってカパローニの娘に手を出すなんて…この大馬鹿め」

 ガシガシと頭を掻いたディーノは立ち上がると、踵を返してイヴァンから離れる。

「待て!どこに行くんだ!?」
「とりあえずレオナルドあたりを捕まえてくるっすよ」

 呼び止めるイヴァンに振り返ると、怒気を顰めていつもののらりくらりとした雰囲気に戻り、手をヒラヒラさせながら部屋を出ていった。


 ディーノは金剛宮の廊下を歩きながら深く溜息をつく。

「あーあ、どうしてくれんだあの馬鹿王子め。なんで側近の俺に話さずに勝手に動くんだ。カパローニ侯よりレオナルドの奴の方がまだマシとは言え、生きて帰れるかな…俺」

 レオナルドとディーノは寄宿学校時代の同級生であった。
 政治的に対立する第一王子と第二王子の遊び相手を経て、将来それぞれの側近となるべく教育されてきたが、親の目の届かない寄宿学校では、似た境遇からそれなりに気心の知れた仲だったのだ。しかし、その密かな友情も今日で終わりを告げるかもしれない。

 がっくりと肩を落としたディーノは、重い足取りで目的の相手がいるであろう翡翠宮へと向かった。
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