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第三章
ジルとアレッシア 前編
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――――――――――――――
僕は百合の花が好きだ
君は花に例えると薔薇というより百合だと思うんだけどどうかな?
G
――――――――――――――
聞いてくれる?
父上はいつも勝手に部屋に入ってくるんだ!
ノックもなしだよ?
信じられない!
G
――――――――――――――
何もすることがない日
君は何をしてる?
僕は誰にも邪魔されない場所で昼寝が最高さ
誰も知らない秘密の場所
いつか君も連れて行ってあげるよ
G
――――――――――――――
なぜ人のものってよく見えるんだろうね?
既に手に余るほどのものを持っているのに
それでも羨み、嫉妬する
手に入ったら色褪せて見えるのかな
G
――――――――――――――
たまに想像するんだ
別の人間として生きられたらって
どうしたらいいんだろうね
G
――――――――――――――
君に会いたいな
G
――――――――――――――
いくつもの短い手紙を引き出しの中の美しい小箱にしまっている。あの日から時折届くこの手紙にアレッシアは返事を書いたことはない。
いつも一方的に、いつの間にか自室の窓に挟まっているのだ。
差出人はいつも“G”とだけ。何故か頭から離れないあの男だろうか。
自らを誘拐した犯人だと言うのに、気が付くと考えてしまう。
あの日無理やり奪われた口づけを、あの白銀の髪から覗く金色の情熱を。
「はぁ」
アレッシアはため息をつくと窓を開け、自室のバルコニーに出る。
夏のカパローニ家の庭園は色とりどりの花だけでなく、青々と繁った木々などが風に揺れている。
目を閉じるとあの花に埋もれた邸を思い出す。
(なんだか何もする気になれないわね。わたくしらしくない…)
「わたくしらしいって何かしらね…」
「何かお悩みかな?」
ここにいるはずのない人物の声に驚き、弾かれたように声のした方に視線を向ける。
バルコニーのすぐ近くにある木にいた金色の瞳と目があった。
「な、んで…?」
姿は見せないものだと思っていた。時折手紙だけ置いて、去っていくだけだと。思い返せばそんな約束はしていないし、きちんと名乗ってさえいない手紙だった。
「うん、手紙を持ってきたんだけど。君がバルコニーに一人でいるから。声が聞きたくなってしまってね。そっちへ行っても?」
アレッシアが何の返事もしないうちにバルコニーへ飛び移ると、少し距離を開けて手すりにもたれ掛かった。
「ジル…。どういうつもりですの?見つかったら捕まりますわよ」
「心配してくれるんだ?うれしいよ」
また何かされるのではないかと、アレッシアは身構えたが、意外にもジルは一定の距離を保ったまま、近付いてこなかった。
バルコニーで二人、並んで庭を眺める。
「元気だった?」
「そちらこそ」
どちらからともなく、ポツリポツリと話し始める。
なんてことのない日々の話や、ジルの父親への愚痴、バルコニーから見える草花の話、王都で聞いた噂話など、とりとめのない会話を交わし、ジルは帰っていった。
その日から、度々ジルはアレッシアの元を訪れ、同じ様に少し話してはまた帰っていく。
アレッシアはいつの間にかジルが訪ねて来る事を心待ちにしている自分に気付いたが、今置かれている自分たちの立場が頭をよぎる。いくつもの短い手紙をそうしたように、その気持ちもそっと心にしまいこんだ。
◇
「やあ、今日は少し散歩に付き合ってくれないかな?」
「え?」
出かけようと言うジルの提案にアレッシアは訝しげな視線を向ける。
現在は夜半過ぎな上に一度誘拐された相手なので当然の反応だ。
その反応にジルは苦笑する。
「安心して、今回は僕個人のお誘いだから、ちゃんとこの部屋まで返すよ。さ、誰にも見つからないうちに行こう」
ジルはアレッシアの肩を抱き寄せると空間転移の魔法陣を展開する。
金色の光がアレッシアの部屋を照らすと、二人は姿を消した。
アレッシアが目を開けると、そこは自室ではなく吸い込まれそうな程に広がった満天の星々を望む、どこかの塔の屋上だった。
「さ、ここに座って」
言葉も出ずにただただ星空を見上げていたアレッシアを微笑みながら見つめていたジルは用意していた敷物を広げて、声をかけた。
「ここは?すごい星空ですのね」
「僕の秘密の場所。約束したでしょ?いつか君を連れて行ってあげるって」
アレッシアの横に人一人分空けて座ると、そのままゴロッと仰向けになる。
「こうしてここで空を眺めるのが好きなんだ。この世に僕一人だけみたいな気持ちになる」
そう言って星空を見上げたまま何も喋らなくなったジルを横目に、アレッシアも仰向けになってみる。
視界を遮るものが何もない空間。眼前に広がる果てのない星空。塔の周りには何もないのだろうか、周囲の喧騒も、虫の声も、木々が揺れる音さえも聞こえない。
「この世に自分一人…」
アレッシアがポツリと零した呟きに、ジルは何気なく伸ばされていたアレッシアの手をそっと握った。
「今は二人だよ。手を握るくらいは許して」
何も言わずジルの方に視線を向けると、ジルもアレッシアを見ていた。しばらく無言で見つめ合い、どちらからともなくまた空を見上げた。
「ここはどこだと思う?」
「周りに何もないから、郊外のどこかかしら?」
「残念ながら、ハズレだ」
ジルは「クックックッ」と笑いを噛み締めた。
「ここはかつてここにあった国から棄てられた塔。魔境だよ」
「え!?」
予想外の答えにアレッシアは驚き、起き上がる。
「ここが魔境だと言うなら、なぜ無事でいられるのです?魔境は瘴気に覆われていて、何の装備もなしでは活動すること自体難しいはずでしょう?」
アレッシアの問いかけにジルはゆっくりと起き上がると、話し始める。
僕は百合の花が好きだ
君は花に例えると薔薇というより百合だと思うんだけどどうかな?
G
――――――――――――――
聞いてくれる?
父上はいつも勝手に部屋に入ってくるんだ!
ノックもなしだよ?
信じられない!
G
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何もすることがない日
君は何をしてる?
僕は誰にも邪魔されない場所で昼寝が最高さ
誰も知らない秘密の場所
いつか君も連れて行ってあげるよ
G
――――――――――――――
なぜ人のものってよく見えるんだろうね?
既に手に余るほどのものを持っているのに
それでも羨み、嫉妬する
手に入ったら色褪せて見えるのかな
G
――――――――――――――
たまに想像するんだ
別の人間として生きられたらって
どうしたらいいんだろうね
G
――――――――――――――
君に会いたいな
G
――――――――――――――
いくつもの短い手紙を引き出しの中の美しい小箱にしまっている。あの日から時折届くこの手紙にアレッシアは返事を書いたことはない。
いつも一方的に、いつの間にか自室の窓に挟まっているのだ。
差出人はいつも“G”とだけ。何故か頭から離れないあの男だろうか。
自らを誘拐した犯人だと言うのに、気が付くと考えてしまう。
あの日無理やり奪われた口づけを、あの白銀の髪から覗く金色の情熱を。
「はぁ」
アレッシアはため息をつくと窓を開け、自室のバルコニーに出る。
夏のカパローニ家の庭園は色とりどりの花だけでなく、青々と繁った木々などが風に揺れている。
目を閉じるとあの花に埋もれた邸を思い出す。
(なんだか何もする気になれないわね。わたくしらしくない…)
「わたくしらしいって何かしらね…」
「何かお悩みかな?」
ここにいるはずのない人物の声に驚き、弾かれたように声のした方に視線を向ける。
バルコニーのすぐ近くにある木にいた金色の瞳と目があった。
「な、んで…?」
姿は見せないものだと思っていた。時折手紙だけ置いて、去っていくだけだと。思い返せばそんな約束はしていないし、きちんと名乗ってさえいない手紙だった。
「うん、手紙を持ってきたんだけど。君がバルコニーに一人でいるから。声が聞きたくなってしまってね。そっちへ行っても?」
アレッシアが何の返事もしないうちにバルコニーへ飛び移ると、少し距離を開けて手すりにもたれ掛かった。
「ジル…。どういうつもりですの?見つかったら捕まりますわよ」
「心配してくれるんだ?うれしいよ」
また何かされるのではないかと、アレッシアは身構えたが、意外にもジルは一定の距離を保ったまま、近付いてこなかった。
バルコニーで二人、並んで庭を眺める。
「元気だった?」
「そちらこそ」
どちらからともなく、ポツリポツリと話し始める。
なんてことのない日々の話や、ジルの父親への愚痴、バルコニーから見える草花の話、王都で聞いた噂話など、とりとめのない会話を交わし、ジルは帰っていった。
その日から、度々ジルはアレッシアの元を訪れ、同じ様に少し話してはまた帰っていく。
アレッシアはいつの間にかジルが訪ねて来る事を心待ちにしている自分に気付いたが、今置かれている自分たちの立場が頭をよぎる。いくつもの短い手紙をそうしたように、その気持ちもそっと心にしまいこんだ。
◇
「やあ、今日は少し散歩に付き合ってくれないかな?」
「え?」
出かけようと言うジルの提案にアレッシアは訝しげな視線を向ける。
現在は夜半過ぎな上に一度誘拐された相手なので当然の反応だ。
その反応にジルは苦笑する。
「安心して、今回は僕個人のお誘いだから、ちゃんとこの部屋まで返すよ。さ、誰にも見つからないうちに行こう」
ジルはアレッシアの肩を抱き寄せると空間転移の魔法陣を展開する。
金色の光がアレッシアの部屋を照らすと、二人は姿を消した。
アレッシアが目を開けると、そこは自室ではなく吸い込まれそうな程に広がった満天の星々を望む、どこかの塔の屋上だった。
「さ、ここに座って」
言葉も出ずにただただ星空を見上げていたアレッシアを微笑みながら見つめていたジルは用意していた敷物を広げて、声をかけた。
「ここは?すごい星空ですのね」
「僕の秘密の場所。約束したでしょ?いつか君を連れて行ってあげるって」
アレッシアの横に人一人分空けて座ると、そのままゴロッと仰向けになる。
「こうしてここで空を眺めるのが好きなんだ。この世に僕一人だけみたいな気持ちになる」
そう言って星空を見上げたまま何も喋らなくなったジルを横目に、アレッシアも仰向けになってみる。
視界を遮るものが何もない空間。眼前に広がる果てのない星空。塔の周りには何もないのだろうか、周囲の喧騒も、虫の声も、木々が揺れる音さえも聞こえない。
「この世に自分一人…」
アレッシアがポツリと零した呟きに、ジルは何気なく伸ばされていたアレッシアの手をそっと握った。
「今は二人だよ。手を握るくらいは許して」
何も言わずジルの方に視線を向けると、ジルもアレッシアを見ていた。しばらく無言で見つめ合い、どちらからともなくまた空を見上げた。
「ここはどこだと思う?」
「周りに何もないから、郊外のどこかかしら?」
「残念ながら、ハズレだ」
ジルは「クックックッ」と笑いを噛み締めた。
「ここはかつてここにあった国から棄てられた塔。魔境だよ」
「え!?」
予想外の答えにアレッシアは驚き、起き上がる。
「ここが魔境だと言うなら、なぜ無事でいられるのです?魔境は瘴気に覆われていて、何の装備もなしでは活動すること自体難しいはずでしょう?」
アレッシアの問いかけにジルはゆっくりと起き上がると、話し始める。
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