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第三章
第二王子派
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エレオノーラは腕に怪我を負っていた。ジルと交戦し、負傷した隙に空間転移で逃げられたのだ。
「エリーに傷を付けるなんて、案外やるのね」
「すまない。油断した」
エレオノーラはダークエルフと人間のハーフだけあって、救国の魔女としての力を得る前から攻撃魔法を得意としていた。それ故に戦闘的な能力はベアトリーチェやヴァレリアより高いのだ。
そのエレオノーラが油断していたとはいえ、怪我を負わされるとなると、かなりの手練だ。
「逃げたやつはジルベルト・ダッラ・ディ・フェリーネで間違いないっすか?」
「ああ、恐らく。肩までの白銀の髪の男だった」
ヴァレリアはエレオノーラの負傷した腕を手早く応急処置する。
手当が一通り終わると、二人は杖を再び取り出す。
「ひとまず一旦城に戻るわよ」
頭上に一際大きな魔法陣を展開させると、眩い光と共に王城へと移動した。
捕らえた赤いローブの集団の記憶をヴァレリアが覗き、使用していた武器なども細かく調べる。
「やはり黒龍の髭に漆黒の魔石だな」
リーダー格と思われる男が使っていた黒い紐飾りと魔石で飾られた杖を手に取り、エレオノーラはさらに調べる。
「魔素の量もやや少ない事から見ても、幼体のもので間違いないだろう」
「じゃあやっぱり渓谷に黒龍を誘き出したのも赤いローブの集団ってことなのねぇ」
ベアトリーチェはテラスの円卓にお茶を並べると、一同を招いた。
「今回の襲撃は何だったんだ?第二王子派の中にイヴァンの他にも件の新興宗教団体と繋がっている者がいるのか?」
エミリオがディーノに尋ねると、ディーノはため息をつきながら首を横に振る。
「恥ずかしながら、第二王子派も一枚岩ではないっすよ。特に今は肝心のイヴァン殿下が幽閉状態っすからね」
「…そうか」
「今は大きく3つのグループに分かれてるっす。第一王子に鞍替えの機会を伺うグループ、一先ず静観するグループ、そして王位継承権が剥奪されていないのを逆手に取り、第一王子を排除してイヴァン殿下を復権させようと画策するグループ…いわゆる過激派っすね」
「すると、今回の件は第二王子派の過激派グループが絡んでいる可能性が?」
「恐らくその通りね」
声の方を振り返ると記憶の確認を終えたヴァレリアが戻ってきていた。
「その過激派グループとやらにサンタンジェロ公爵が含まれているならね」
サンタンジェロ公爵は現国王の側妃の実兄で、イヴァンの伯父にあたり、イヴァンを国王にすることで、裏から王国の実権を握ろうと考えている人物だった。
「含まれているっつーか、モロに中心人物っすね」
「リーダー格の男の記憶の中に出てきたわ。何度か邸も尋ねてたみたいね。それから、真・救国神教の中心人物と見られる男も顔を確認できたわ。貴族年鑑に絵姿ってある?」
「現当主なら載ってるはずっす。原本は持ち出せないんで、確認するなら一緒に書庫まで来てもらえるっすか?」
「わかったわ。行きましょ」
ヴァレリアはそう言うと、カップに注がれたお茶をガブ飲みし、焼き菓子を口に放り込んだ。
「な、なんか樹海の魔女様はいろいろ意外っすね」
「モタモタしてんじゃないわよ。さっさと行くわよ」
その可憐な見た目と行動とのギャップにドン引きしたディーノを連れてヴァレリアは書庫に向かった。
◇
「あー、いたいたコイツだわ。中心人物」
貴族年鑑の現当主一覧を確認していたヴァレリアとディーノは、目的の人物を見つける。
サヴェリオ・ランベルト・ロ・フェリーネ。赤茶色の髪に緑の瞳、痩せこけた頬の目つきが鋭い男であった。
「やっぱりフェリーネ家だったわけね」
「まあ、息子があれだけガッツリ関わっていて父親が無関係なはずないっすけどね」
貴族年鑑を元の場所に戻しながらディーノが苦笑する。
「そう言えばあんた第二王子派なのにいいの?こんなに手伝ってたら立場が悪くなるんじゃないの?」
ヴァレリアの問いにディーノは頬を指で掻きながら自嘲気味に笑う。
「あー、まあ、俺はあんまりサンタンジェロ公爵に好かれてないっすからね」
「ふーん。何かやらかした?」
「いやいや、こう見えて俺は結構優秀っすよ。ただ、サンタンジェロ公爵はイヴァン殿下の側近にはレオナルドを望んでたんす」
実家の爵位にこそ差はあるものの、レオナルドとディーノの能力自体にはあまり差はない。
どちらが側近になったとしても執務に影響は出ないはずだが、サンタンジェロ公爵はレオナルドを望んだのだ。
「レオナルドをと言うよりはカパローニ家…タチアナ侯爵夫人の息子をって感じっすかね」
「あー、なるほどね」
「金の髪に紫水晶の瞳がよく似てますからね。レオナルドとアレッシア嬢は」
「あの頃のアナはすごい人気だったしね」
――――20数年前、社交界では絶大な人気を誇る一人の女性がいた。当時の王国騎士団長の娘タチアナ―ミリアム達3兄妹の母である。
数多の貴族子息が恋い焦がれ、婚姻を申し込んだが、騎士団長である父の紹介で出会ったフェルディナンドと恋に落ち、婚姻を結んだ。
フェルディナンドも美貌の騎士として有名であった為、二人の恋物語は王都中の話題となった。
それは絵姿や吟遊詩人の詩になるほどであった。
「サンタンジェロ公爵もタチアナ侯爵夫人へ求婚していた一人だったらしいんすけど、まあ、結果はご存知の通り。ただ、未だに執着してるんすよね。自分の子供たちは年齢が合わないから、自分の甥であるイヴァン殿下の側近に息子のレオナルドを、娘のどちらかは将来の妃にと、なんとか繋がりを持とうとしてたんすけど…」
「ことごとくエミルに持ってかれたわけね」
「それでより一層エミリオ殿下が憎いんでしょうね」
「逆恨みもいいところね」
「違いない」と頷き、二人はベアトリーチェの邸へと空間転移で戻った。
「エリーに傷を付けるなんて、案外やるのね」
「すまない。油断した」
エレオノーラはダークエルフと人間のハーフだけあって、救国の魔女としての力を得る前から攻撃魔法を得意としていた。それ故に戦闘的な能力はベアトリーチェやヴァレリアより高いのだ。
そのエレオノーラが油断していたとはいえ、怪我を負わされるとなると、かなりの手練だ。
「逃げたやつはジルベルト・ダッラ・ディ・フェリーネで間違いないっすか?」
「ああ、恐らく。肩までの白銀の髪の男だった」
ヴァレリアはエレオノーラの負傷した腕を手早く応急処置する。
手当が一通り終わると、二人は杖を再び取り出す。
「ひとまず一旦城に戻るわよ」
頭上に一際大きな魔法陣を展開させると、眩い光と共に王城へと移動した。
捕らえた赤いローブの集団の記憶をヴァレリアが覗き、使用していた武器なども細かく調べる。
「やはり黒龍の髭に漆黒の魔石だな」
リーダー格と思われる男が使っていた黒い紐飾りと魔石で飾られた杖を手に取り、エレオノーラはさらに調べる。
「魔素の量もやや少ない事から見ても、幼体のもので間違いないだろう」
「じゃあやっぱり渓谷に黒龍を誘き出したのも赤いローブの集団ってことなのねぇ」
ベアトリーチェはテラスの円卓にお茶を並べると、一同を招いた。
「今回の襲撃は何だったんだ?第二王子派の中にイヴァンの他にも件の新興宗教団体と繋がっている者がいるのか?」
エミリオがディーノに尋ねると、ディーノはため息をつきながら首を横に振る。
「恥ずかしながら、第二王子派も一枚岩ではないっすよ。特に今は肝心のイヴァン殿下が幽閉状態っすからね」
「…そうか」
「今は大きく3つのグループに分かれてるっす。第一王子に鞍替えの機会を伺うグループ、一先ず静観するグループ、そして王位継承権が剥奪されていないのを逆手に取り、第一王子を排除してイヴァン殿下を復権させようと画策するグループ…いわゆる過激派っすね」
「すると、今回の件は第二王子派の過激派グループが絡んでいる可能性が?」
「恐らくその通りね」
声の方を振り返ると記憶の確認を終えたヴァレリアが戻ってきていた。
「その過激派グループとやらにサンタンジェロ公爵が含まれているならね」
サンタンジェロ公爵は現国王の側妃の実兄で、イヴァンの伯父にあたり、イヴァンを国王にすることで、裏から王国の実権を握ろうと考えている人物だった。
「含まれているっつーか、モロに中心人物っすね」
「リーダー格の男の記憶の中に出てきたわ。何度か邸も尋ねてたみたいね。それから、真・救国神教の中心人物と見られる男も顔を確認できたわ。貴族年鑑に絵姿ってある?」
「現当主なら載ってるはずっす。原本は持ち出せないんで、確認するなら一緒に書庫まで来てもらえるっすか?」
「わかったわ。行きましょ」
ヴァレリアはそう言うと、カップに注がれたお茶をガブ飲みし、焼き菓子を口に放り込んだ。
「な、なんか樹海の魔女様はいろいろ意外っすね」
「モタモタしてんじゃないわよ。さっさと行くわよ」
その可憐な見た目と行動とのギャップにドン引きしたディーノを連れてヴァレリアは書庫に向かった。
◇
「あー、いたいたコイツだわ。中心人物」
貴族年鑑の現当主一覧を確認していたヴァレリアとディーノは、目的の人物を見つける。
サヴェリオ・ランベルト・ロ・フェリーネ。赤茶色の髪に緑の瞳、痩せこけた頬の目つきが鋭い男であった。
「やっぱりフェリーネ家だったわけね」
「まあ、息子があれだけガッツリ関わっていて父親が無関係なはずないっすけどね」
貴族年鑑を元の場所に戻しながらディーノが苦笑する。
「そう言えばあんた第二王子派なのにいいの?こんなに手伝ってたら立場が悪くなるんじゃないの?」
ヴァレリアの問いにディーノは頬を指で掻きながら自嘲気味に笑う。
「あー、まあ、俺はあんまりサンタンジェロ公爵に好かれてないっすからね」
「ふーん。何かやらかした?」
「いやいや、こう見えて俺は結構優秀っすよ。ただ、サンタンジェロ公爵はイヴァン殿下の側近にはレオナルドを望んでたんす」
実家の爵位にこそ差はあるものの、レオナルドとディーノの能力自体にはあまり差はない。
どちらが側近になったとしても執務に影響は出ないはずだが、サンタンジェロ公爵はレオナルドを望んだのだ。
「レオナルドをと言うよりはカパローニ家…タチアナ侯爵夫人の息子をって感じっすかね」
「あー、なるほどね」
「金の髪に紫水晶の瞳がよく似てますからね。レオナルドとアレッシア嬢は」
「あの頃のアナはすごい人気だったしね」
――――20数年前、社交界では絶大な人気を誇る一人の女性がいた。当時の王国騎士団長の娘タチアナ―ミリアム達3兄妹の母である。
数多の貴族子息が恋い焦がれ、婚姻を申し込んだが、騎士団長である父の紹介で出会ったフェルディナンドと恋に落ち、婚姻を結んだ。
フェルディナンドも美貌の騎士として有名であった為、二人の恋物語は王都中の話題となった。
それは絵姿や吟遊詩人の詩になるほどであった。
「サンタンジェロ公爵もタチアナ侯爵夫人へ求婚していた一人だったらしいんすけど、まあ、結果はご存知の通り。ただ、未だに執着してるんすよね。自分の子供たちは年齢が合わないから、自分の甥であるイヴァン殿下の側近に息子のレオナルドを、娘のどちらかは将来の妃にと、なんとか繋がりを持とうとしてたんすけど…」
「ことごとくエミルに持ってかれたわけね」
「それでより一層エミリオ殿下が憎いんでしょうね」
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