【本編完結】おかわりはいかが?〜偉大なる魔女たちの優雅なお茶会〜

上木 柚

文字サイズ
小 中 大 特大
45 / 86
第三章

襲撃

「何人いる?」
「窓から見える範囲だと…7、あー8人っすかね」

 エミリオはミリアムの肩を抱き寄せ、安心させるようにもう片方の手で震えるその手を包み込む。

「エミリオ様…何が起きているのでしょうか?」

 ガタガタと震えるミリアムの頬にそっと口づけを落とすと、エミリオは少し屈んで目線を合わせる。

「何があっても大丈夫だ。私も、ここにいるディーノもそこそこ強いし、実は護衛もいる」
「え?」

 ミリアムが店内を見回すと、他の客だと思っていた者たちは護衛の近衛騎士だったようで、各々警戒態勢に入っていた。

「爆発音はなんだったんだ?何か見えるか?」

 ディーノは窓からつぶさに外の様子を観察する。

(10メートル程離れた場所にあった馬車が燃えているのが見える。恐らくこれを爆破した音だろうか。赤いローブの集団の人数は8人。一見7人かと思ったが、向かいの建物の屋根に1人いるのがかろうじて見える。見張りか何かか?)

「少し離れたところで馬車が燃えているっす。爆破音はそれじゃないっすかね。近付いてくるっす!」

 そう言うやいなや、店を取り囲んでいた赤いローブの集団が次々と店内に押し入ってきた。
 エミリオはミリアムを背に隠し、護衛たちがその周りで臨戦態勢に入る。

「エミリオ第一王子とお見受けする!」

 赤いローブの集団のうち一人の男が前に出てくる。

「お前たち、何者だ!?」

 エミリオが叫ぶと、男はバッと両腕を広げる。その手には黒い紐飾りと魔石で飾られた杖が握られていた。

「我々は真の救国神に仕えし、神の使いだ!遥か遠き昔、我々から救国神たる聖なる竜を奪った憎き魔女に組する卑しい王子よ!貴殿にはここで消えていただく!」

 男がその手に持った杖を上に掲げると、翠緑の魔法陣が現れ、小さな火球がクルクルと魔法陣を廻る。轟々と燃え盛るそれは中心に近づくにつれ、大きさを増していった。
 それを合図にその他の者たちも一斉に襲いかかってくる。

「そんなものを出して、周辺も巻き込むつもりか!」

 ジリジリと男が近づき、いよいよ最大級に到達した火球を解き放そうとしたその時、火球の真上に瑠璃色の魔法陣が現れ、雷鳴と共にいくつもの閃光が周囲を走る。眩い光が一瞬にしてあたりを包み込むと、燃え盛っていた火球が跡形もなく消えた。

 そして、エミリオたちと赤いローブの男の間に金の巻き毛に瑠璃色の瞳の人形の様な少女が降り立ち、嫣然と微笑んでいた。

「ヴァレリア様!」

 一見すると儚げなその姿に安堵する。樹海の魔女ヴァレリアは自身の白銀の杖を構え、赤いローブの集団を一瞥する。

「せっかくのミリィのデートを邪魔するなんて無粋な奴らねー。…せっかく覗き見してたのに台無しじゃないのよ」

 最後の不穏な一言をエミリオは聞き逃さなかった。

「覗き見とかいいませんでしたか!?」
「今そこ食いつくんすか!?」

 赤いローブの集団も、全員が全員魔力があるわけではないらしく、剣やナイフ、メイスなどの武器を持った者たちは護衛の近衛騎士とディーノが交戦中であった。
 ディーノはブレードナイフを両手に持ち、向かってくる者を体術も織り交ぜながら沈めていく。

「いやだって、覗き見されるのはちょっと嫌だろう?」

 斬り込んできた剣を横に受け流し、剣の柄で相手を昏倒させながらエミリオが答える。

「エミリオ様!危ないですわ!」

 エミリオを後ろから狙っていた者をミリアムがその辺で拾った燭台で殴打する。

「やんじゃないのミリィ!でもあんたは下がってなさい!こいつらを拘束するわ!」

 ヴァレリアはゆっくりと杖を旋回させながら瑠璃色の光の渦を創ると、自らの頭上に魔法陣を展開させた。

『カットゥラーレ!』

 ヴァレリアの言葉に反応するように、瑠璃色の光が矢のように降り注ぎ、赤いローブの者たちに向かって飛んでいく。突き刺さるかのように見えた光の矢はそのまま光の拘束具となり、襲撃者たちを見事に鎮圧したのだった。

「ありがとうございます!ヴァレリア様!」

 三人はヴァレリアに駆け寄った。ヴァレリアはパンパンッとローブの裾を直すと、金の巻き毛をかき上げた。

「フン。別に大したことないわよ。こんなやつら」
「でもどうしてここがわかったんですか?」

 エミリオが疑問を口にすると。ヴァレリアは目を逸らしながら答える。

「…レオのやつがあんたたちのデートを監視してほしいっていうから、便乗して覗いてたのよ」

 とんでもない発言にミリアムは唖然とした。

「の、覗いていた?どこからでございましょうか??」
「全部よ」
「もしかして、皆さんで?」
「当たり前でしょ」
「いやぁぁぁぁぁ!」

 顔を抑えて逃げ出そうとしたミリアムを後ろからエミリオが抱きしめて捕らえる。

「他の皆さんは?」
「エリーは外のもう一人を捕らえに行った。リーチェとレオは何か調べることがあるって言って、王城に残ったわ」
「調べること?」
「そう」

 その時、ドアからエレオノーラが入ってくる。

「すまない、屋根の上にいた者は逃してしまった。ただ、一瞬フードが取れた後ろ姿は白銀色の髪だった」

 “白銀の髪”ということはジルだろうか?
 一同に緊張が走った。
感想 5

あなたにおすすめの小説

君を愛するつもりはないと言われたので、三年待って離縁しました。――今さら帰ってきてくれと言われても、私はもうあなたを愛していません 表紙

君を愛するつもりはないと言われたので、三年待って離縁しました。――今さら帰ってきてくれと言われても、私はもうあなたを愛していません

「約束どおり、離縁してください」 結婚から、ちょうど三年。 エレナは夫アレクシスに離縁を申し出た。 政略結婚だった初夜、彼から告げられたのは、 「三年を目処に、この領地を立て直したい。その間、妻として力を貸してほしい。だが、君を愛することはない」という言葉だった。 だからエレナは三年間、伯爵夫人として領地を支え続けた。 いつか自分を見てもらえるかもしれない――そんな期待も、いつしか捨てて。 そして三年後。 領地の再建を終えたエレナは、妻としての役目も終わったのだと思っていた。 けれどアレクシスにとって、「三年」は結婚の期限ではなかった。 さらに、彼がかつて愛していた女性が未亡人となって戻ってきたことで、エレナは静かに決意する。 「私はもう、ここにいる必要はありません」 離縁し、実家へ戻ったエレナは、自分の名前で働き始める。 誰かの妻としてではなく、エレナ・アルヴェールとして。 一方、アレクシスは妻がいなくなって初めて気づいていく。 自分がどれほど彼女を頼り、彼女がいる未来を当然のように思っていたのか。 そして――自分が本当に愛していたのは誰だったのか。 けれど、気づいたときにはもう遅い。 「今さら帰ってきてくれと言われても、私はもうあなたを愛していません」 愛されない妻だった女性が、自分自身の人生と幸せを選び直す、離縁から始まる恋愛物語。 7時と18時に投稿します😊 不定期で20時にも投稿します。
恋愛 完結 長編 R15
文字数 218,669
【完結】番なんて信じません!と逃げ出した侍女ですが、氷の黒豹辺境伯様が離してくれません 表紙

【完結】番なんて信じません!と逃げ出した侍女ですが、氷の黒豹辺境伯様が離してくれません

番なんて、人間から自由を奪う言い訳だ。 母を「番」として奪われた侍女ミレイは、匂いを隠して北の辺境伯邸で働いていた。 けれど薬草が切れた夜、屋敷の主「氷の黒豹」ゼルキウスに見つかってしまう。 「見つけた。……もう、二度と離さない」 逃げても逃げても、静かに、甘く追い詰めてくる黒豹辺境伯。 それでも彼は、決して無理に奪わない。「選ぶのは、お前だ」 番を信じない侍女が、自分の意思で愛を選ぶまでの溺愛ロマンス。 全17話、完結済み。 ※この作品は、外部サイトでも掲載しております。
恋愛 完結 長編
文字数 41,562
専業主婦十年、夫と息子に「何もしてない」と言われたので、自分の名前で稼ぐことにした 表紙

専業主婦十年、夫と息子に「何もしてない」と言われたので、自分の名前で稼ぐことにした

「お母さん、何もしてないじゃん」 小学四年生の息子に言われた。翌朝、夫も言った。そっちは家にいるだけだろ、と。 専業主婦十年。渡される生活費は白い封筒の月3万円。家の通帳は見たこともない。 期限切れのファンデーションを塗り、フォロワー48人のアカウントに写真を上げた。「ダメ出しお願いします」。止まらない通知の中に、短い返信が一つ。 ――ひとつずつでいいよ。 早朝の新聞配達に、時給1200円の品出し。夜は簿記の参考書を開いた。額面22万円の雇用条件通知書。初めてのPR案件は、2万5千円。 その秋、夫が昼に誰と会っているかを知った。離婚届は12月24日。 一年後、私の会社の月商は500万円、フォロワーは200万人。港区のタワーマンションの鍵は、私の名前で受け取った。 「家にいるだけだろ」と言った人が、その数字を口にする番が来る。 この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。 全9話。
ライト文芸 連載中 短編 R15
文字数 23,624
【完結】毎夜、幼馴染の元へ通う夫へ。完璧な妻の仮面は返上いたします 表紙

【完結】毎夜、幼馴染の元へ通う夫へ。完璧な妻の仮面は返上いたします

【祝】HOTランキングランクイン!たくさんの応援ありがとうございます! 社交界で「理想の夫婦」と称えられるグランヴェル伯爵夫妻。だが実態は、毎夜幼馴染の愛人の元へ通う夫レオナルドと、一人冷たいベッドで眠るアメリアの「白い結婚」だった。 愛人に金品を貢ぎ、妻を「冷たい飾り」と見下す夫。しかし彼は知らなかった。己が誇る「優秀な領地経営」を担っていたのが、アメリアの頭脳だったことを――。 限界を迎えたアメリアの知的な罠が弾ける時、偽りの夫と愛人に完膚なきまでの絶望が襲いかかる! ※ハッピーエンド保障 ※全5話完結しました
恋愛 完結 短編
文字数 10,963
「君を愛している」と言った公爵様には、奥様がいました 表紙

「君を愛している」と言った公爵様には、奥様がいました

「君を愛している」 そう言って、公爵様は私に微笑んだ。 男爵家の庶子だった私には、その言葉だけで十分だった。 王都に用意された小さな家も、初めて身に纏う美しいドレスも、優しく私の名を呼んでくれる公爵様も。 そして、彼との間に授かったお腹の子どもさえ。 全部、夢のような幸せだった。 だから私は、何も知らなかった。 どうして公爵様は、一度も私を夜会へ連れて行ってくれなかったのか。 どうして使用人達が、時折、言葉を飲み込むような顔をしていたのか。 知ろうともしなかった。 幸せな夢から目を逸らさないために。 これは、夢から目覚めた一人の少女が、自らの無知と向き合う物語。 そして、祈ることしかできなかった、私の物語。
恋愛 連載中 長編
文字数 112,791
【完】もしも私が死んだなら、あなたは後悔してくれますか? (10月18日 取り下げ) 表紙

【完】もしも私が死んだなら、あなたは後悔してくれますか? (10月18日 取り下げ)

「……残念ながら、もう手の施しようがありません」  何度目かになる入念な診察の後、医師は哀れみのこもった声で、そう告げた──。 ♢♢♢ 貴族学園で出会った公爵令息のセルディオと、身分の差を乗り越え、幸せな恋愛結婚をした子爵令嬢のニーナ。 順風満帆な人生を送っていた彼女の身に異変が起きたのは──結婚後、一年と少し経ってからのことだった。 ほんの少しのすれ違いから、運命はニーナを残酷な世界へと叩き落とし、お互いを唯一として愛し合っていたセルディオも、他の女へと目移りするようになる。 「一生私を愛してくれると言っていたのに……あなたの一生涯の愛は、たった一年だけのものだったの?」 身体は病に侵され、心は愛する夫に引き裂かれ……ニーナは自分にとって、最も辛い決断をする──。 ※表紙画像はAIが頑張ってくれました。  初めて使ったので勝手が分からず……時間かかりました(ノω・、`)
恋愛 完結 長編
文字数 177,952
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。 表紙

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
恋愛 完結 長編
文字数 173,941
「もう、うんざりだ」と言われたので、出ていきますね 表紙

「もう、うんざりだ」と言われたので、出ていきますね

【とりあえず、何かください】 ある日、豪華なベッドで一切の記憶を失った状態で目覚めた私。鏡を見ても「あなたは誰?」駆けつけた使用人たちに、言いたい放題言われるけれど、他人事のようで少しも自覚が持てない。ただ分かったのは、自ら毒を飲んだことと、夫がいるということだった。妻が目覚めたのに駆けつけてこない夫の元へ挨拶に行くと「もう、うんざりだ」と告げられる。皆からは嫌われているし、記憶もないから未練もない。青ざめる夫に別れを告げて、新天地へと旅立つことを決意した―― ※ 他サイトでも投稿中 ※ 22時更新予定
恋愛 完結 長編
文字数 144,932