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私とあの子の境界線。
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私は私。
あの子はあの子。
人は確かに、自分と他を別のものとして分けている。
だけど、その境界線はどこにあるのだろう。
私とあの子の、なんとなく空いた30cmにあるのか。触れ合った瞬間に意識する、お互いの肌なのか。
私にとって、他人との境界線はきっと身体の外側にある。
当たり前だと君は言うだろうか。
なら、他人との境界線が身体の内側にある、あの子の話をしよう。
なんてことない日常会話の中。
「今日どこいく?」
「カラオケオールとかどうよ」
「いいねぇ、たのしそう」
複数の友達に囲まれ盛り上がる彼女は、不意に私を振り返って、手を挙げた。
「今日カラオケオールするけど、一緒に行くでしょ?」
私はあの子の疑いのない目を見返して、少し困ったように、首を傾げた。
「ごめん、うちの家、門限あるから」
そう言うとあの子はびっくりしたように目を見開いて、ええ、と声を荒らげた。
「まだ門限あるの?可哀想」
あの子はそう言うとすぐに私に興味を無くし、輪の内側に入って行ったが、私は彼女の背中を、呆けたように眺めていた。
私は可哀想、なのだろうか。
別に門限があって不自由したこともない。
門限があることが、私にとっての普通。だけどあの子にとってはそれが普通じゃない。
だからあの子は、私を可哀想だと、言うのだろうか。
私は私を、可哀想だと思わないけど。
進路希望調査を提出する日。
「どこ志望するの?」
そう言いながら彼女は、私の手元の紙を覗き込んだ。
「市立大学?あの古くて汚いところ?」
彼女は私の志望校を見るなり眉を寄せて、顔を歪めた。
「頭良いんだからもっと新しくて綺麗な私大も狙えるはずなのに。
私も経営に進もうと思ってるから、ここにしたよ。昨年から新しい校舎なんだって」
そう言ってあの子は、第二志望にその大学を書くよう促した。
私はそれをやんわりと断って、書きかけの紙をしまうと、小さな反抗心とともに、彼女に向かい合った。
「行きたい大学くらい、自分で書けるよ」
自分の進路くらい、自分で選ぶ。
そういう意思表示のつもりだった。
私は私。あなたはあなた。違う選択をして当たり前だと、伝えたかった。
「えーでも、絶対こっちの大学のほうがいいのに」
彼女は譲らなかった。
絶対いい。その言葉が、彼女にとっての絶対いい、なだけであって、私にとっての絶対でないことに、たぶん彼女は気付いていない。
「私ならこっちを選ぶのに、有り得ない。そんな選択をするなんて、変なの」
私にとっては、有り得なくない。そして、変でもない。
そんな言葉は呑み込んだまま、訝しげな彼女の目を見てハッとした。
彼女が見ているのは、私ではない。
彼女が見ているのは、彼女自身だ。
彼女は自身と他人が、同じものであるに違いないと思い込んでいるのだ。
だから彼女は、他人の違う価値観を、理解できない。存在しているとも、思っていないのかもしれない。
きっと彼女にとって、私との境界線は、私の中に作られているんだろう。
それは一種の、私を縛る鎖のように、重たいものだが、彼女はそれを、永遠に知り得ない。
私はその重みが、私を作る一つの役割を果たしていることを、まだ知らない。
あの子はあの子。
人は確かに、自分と他を別のものとして分けている。
だけど、その境界線はどこにあるのだろう。
私とあの子の、なんとなく空いた30cmにあるのか。触れ合った瞬間に意識する、お互いの肌なのか。
私にとって、他人との境界線はきっと身体の外側にある。
当たり前だと君は言うだろうか。
なら、他人との境界線が身体の内側にある、あの子の話をしよう。
なんてことない日常会話の中。
「今日どこいく?」
「カラオケオールとかどうよ」
「いいねぇ、たのしそう」
複数の友達に囲まれ盛り上がる彼女は、不意に私を振り返って、手を挙げた。
「今日カラオケオールするけど、一緒に行くでしょ?」
私はあの子の疑いのない目を見返して、少し困ったように、首を傾げた。
「ごめん、うちの家、門限あるから」
そう言うとあの子はびっくりしたように目を見開いて、ええ、と声を荒らげた。
「まだ門限あるの?可哀想」
あの子はそう言うとすぐに私に興味を無くし、輪の内側に入って行ったが、私は彼女の背中を、呆けたように眺めていた。
私は可哀想、なのだろうか。
別に門限があって不自由したこともない。
門限があることが、私にとっての普通。だけどあの子にとってはそれが普通じゃない。
だからあの子は、私を可哀想だと、言うのだろうか。
私は私を、可哀想だと思わないけど。
進路希望調査を提出する日。
「どこ志望するの?」
そう言いながら彼女は、私の手元の紙を覗き込んだ。
「市立大学?あの古くて汚いところ?」
彼女は私の志望校を見るなり眉を寄せて、顔を歪めた。
「頭良いんだからもっと新しくて綺麗な私大も狙えるはずなのに。
私も経営に進もうと思ってるから、ここにしたよ。昨年から新しい校舎なんだって」
そう言ってあの子は、第二志望にその大学を書くよう促した。
私はそれをやんわりと断って、書きかけの紙をしまうと、小さな反抗心とともに、彼女に向かい合った。
「行きたい大学くらい、自分で書けるよ」
自分の進路くらい、自分で選ぶ。
そういう意思表示のつもりだった。
私は私。あなたはあなた。違う選択をして当たり前だと、伝えたかった。
「えーでも、絶対こっちの大学のほうがいいのに」
彼女は譲らなかった。
絶対いい。その言葉が、彼女にとっての絶対いい、なだけであって、私にとっての絶対でないことに、たぶん彼女は気付いていない。
「私ならこっちを選ぶのに、有り得ない。そんな選択をするなんて、変なの」
私にとっては、有り得なくない。そして、変でもない。
そんな言葉は呑み込んだまま、訝しげな彼女の目を見てハッとした。
彼女が見ているのは、私ではない。
彼女が見ているのは、彼女自身だ。
彼女は自身と他人が、同じものであるに違いないと思い込んでいるのだ。
だから彼女は、他人の違う価値観を、理解できない。存在しているとも、思っていないのかもしれない。
きっと彼女にとって、私との境界線は、私の中に作られているんだろう。
それは一種の、私を縛る鎖のように、重たいものだが、彼女はそれを、永遠に知り得ない。
私はその重みが、私を作る一つの役割を果たしていることを、まだ知らない。
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