私とあの子の境界線。

れい

文字の大きさ
1 / 1

私とあの子の境界線。

しおりを挟む
私は私。

あの子はあの子。

人は確かに、自分と他を別のものとして分けている。
だけど、その境界線はどこにあるのだろう。
私とあの子の、なんとなく空いた30cmにあるのか。触れ合った瞬間に意識する、お互いの肌なのか。

私にとって、他人との境界線はきっと身体の外側にある。
当たり前だと君は言うだろうか。
なら、他人との境界線が身体の内側にある、あの子の話をしよう。


なんてことない日常会話の中。

「今日どこいく?」

「カラオケオールとかどうよ」

「いいねぇ、たのしそう」

複数の友達に囲まれ盛り上がる彼女は、不意に私を振り返って、手を挙げた。

「今日カラオケオールするけど、一緒に行くでしょ?」

私はあの子の疑いのない目を見返して、少し困ったように、首を傾げた。

「ごめん、うちの家、門限あるから」

そう言うとあの子はびっくりしたように目を見開いて、ええ、と声を荒らげた。

「まだ門限あるの?可哀想」

あの子はそう言うとすぐに私に興味を無くし、輪の内側に入って行ったが、私は彼女の背中を、呆けたように眺めていた。

私は可哀想、なのだろうか。

別に門限があって不自由したこともない。
門限があることが、私にとっての普通。だけどあの子にとってはそれが普通じゃない。
だからあの子は、私を可哀想だと、言うのだろうか。
私は私を、可哀想だと思わないけど。


進路希望調査を提出する日。

「どこ志望するの?」

そう言いながら彼女は、私の手元の紙を覗き込んだ。

「市立大学?あの古くて汚いところ?」

彼女は私の志望校を見るなり眉を寄せて、顔を歪めた。

「頭良いんだからもっと新しくて綺麗な私大も狙えるはずなのに。
私も経営に進もうと思ってるから、ここにしたよ。昨年から新しい校舎なんだって」

そう言ってあの子は、第二志望にその大学を書くよう促した。
私はそれをやんわりと断って、書きかけの紙をしまうと、小さな反抗心とともに、彼女に向かい合った。

「行きたい大学くらい、自分で書けるよ」

自分の進路くらい、自分で選ぶ。
そういう意思表示のつもりだった。
私は私。あなたはあなた。違う選択をして当たり前だと、伝えたかった。

「えーでも、絶対こっちの大学のほうがいいのに」

彼女は譲らなかった。
絶対いい。その言葉が、彼女にとっての絶対いい、なだけであって、私にとっての絶対でないことに、たぶん彼女は気付いていない。

「私ならこっちを選ぶのに、有り得ない。そんな選択をするなんて、変なの」

私にとっては、有り得なくない。そして、変でもない。
そんな言葉は呑み込んだまま、訝しげな彼女の目を見てハッとした。

彼女が見ているのは、私ではない。
彼女が見ているのは、彼女自身だ。

彼女は自身と他人が、同じものであるに違いないと思い込んでいるのだ。
だから彼女は、他人の違う価値観を、理解できない。存在しているとも、思っていないのかもしれない。

きっと彼女にとって、私との境界線は、私の中に作られているんだろう。
それは一種の、私を縛る鎖のように、重たいものだが、彼女はそれを、永遠に知り得ない。

私はその重みが、私を作る一つの役割を果たしていることを、まだ知らない。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

予言姫は最後に微笑む

あんど もあ
ファンタジー
ラズロ伯爵家の娘リリアは、幼い頃に伯爵家の危機を次々と予言し『ラズロの予言姫』と呼ばれているが、実は一度殺されて死に戻りをしていた。 二度目の人生では無事に家の危機を避けて、リリアも16歳。今宵はデビュタントなのだが、そこには……。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...