怪賊

住原かなえ

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第一話 ダッケ島

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「おい新入り!急げ!だらだらしてないで船に乗るぞ!」
ニックが走りながら言う。
「了解です船長!」
追っ手はすぐそこまで来ていた。

海岸に泊めてある船に縄ばしごをつたって上る。
ここからは出航作業だ。帆を揚げ、エンジンをかける。俺とエマは追ってくる敵が船に侵入しないように縄ばしごを切断し、麻酔弾で敵の動きを止める。

俺は新入りだから戦いには入れてもらえないがこの海賊は強い。何しろ、すぐに仕事を終わらせる。無駄が無い。

「よし、出航するぞ!」
船長のニックが叫ぶ。
トーマスが舵を取る。
「全速前進で行くぞ!」
トーマスが一気に加速させる。
背後からはわずかにボートが追ってきているがもはや追いつかれることはなさそうだ。

「よーし、乾杯だお前ら!」
ジェイムスがそう言う。
「しかし、今日のダッケ島はちょろいもんだったな、ハハハ!」
クリスがビールを飲みながら言う。
「今日は豪華なディナーなんだからどんどん食べていってね!」
メリザが厨房から声を飛ばす。
今日は確かに豪華だ。
高級食材が並んでいる。
旨そうな肉、魚。
勿体無いくらいだ。

「おいおい遠慮はいらねぇぜフォックス。」
トーマスがそう言って俺の皿に肉を置き、俺のジョッキーにビールを満杯に注ぐ。
「そんなに飲めませんってば、トーマスさぁん、ベロベロになりますってぇー!」
「おうなれなれ!やっぱ男は酒だぞ!」
「あらそれは聞き捨てならないねトーマス。女だって負けないわよー!」
エマがビールをガブ飲みする。
「うげっ!お前めちゃくちゃ酒強いからなぁ、俺負けちまうぜぇ。」
トーマスが酔っ払いながらそう言う。
「エマ、あんたほんと行儀悪いね。」
メリザが笑いながら、すごい勢いで酒を飲むエマにツッコミを入れる。
そして負けじとトーマスも飲む。
「お!お前ら楽しそうな事やってんなぁ!」
さらに酔ったクリスまで乱入して来た。
もう酔っていないのはメリザだけだ。
「おいおいよく見たらジェイムスは寝てるじゃねえか!」
ニックがそう言う。
「実は一番飲んでたんじゃねぇのジェイムスのやつぁやぉ」
呂律が回っていないトーマスが言う。
「本当に行儀が悪いねぇ。フォックス悪いけど片付け手伝ってえ!こいつらもう駄目だわ。」
メリザが笑いながら言う。
「了解っす!メリザさん!俺そんなに酔ってないんで!」
「頼りになるわぁ!お願いね!このだらしない大人達ときたらホント笑えるね。」
盛大に散らかった食器類を回収し、厨房に運びメリザと洗い物をする。

「フォックスはこの感じ慣れて来た?」
メリザに聞かれる。
「そうですね、割と最初に比べると、って感じですかね。」
「いいじゃん!ウチら仕事早いからね振り落とされないように頑張りなよ!」
「はい!」

もう夜も更けてきた。
ちらっと食堂の方を覗くと、すでに全員が脱落していた。タフな人達だなあ。

俺は自分の部屋へ向かう。
はあ疲れた。
だが、俺の本当の任務はこれからだ。
楽しい気分でいてはいけない。
耳に埋め込んだ無線を起動させる。

「こちらフォックス。アーマン大佐に繋げ。」
「了解しました。」
女の声がそう言う。
「待っていたぞフォックス。アーマンだ。」
「アーマン大佐。本日は予定通りダッケ島へ宝を奪取に向かいました。」
「そうか。で、どうだった?」
「やはり、この海賊の圧勝です。新人として戦いの様子ははっきり見れてはいませんが、あまり時間は要していなかったかと。」
「なるほど。やはり警戒すべき力はあるということなのだな。」
「はい。今はまだ世に知れていませんが、いずれ強くなると直感しています。今日の件でも、仕事の早さからして、見掛け倒しとは言えません。」
「そうだな。それは言えてる。本当だったら我々も兵を出したい所だが、ダッケ島はマーランド島政府の支配下だからな。下手に手を出せなかったというのが現状だ。」
「それは理解しています。」
「ところでフォックス。まさかとは思うが怪しまれていないだろうな?」
「当然です。今までもこういった潜入はしてきたので慣れています。」
「すまんな。毎回君に任せてしまって。」
「大丈夫です。」
「まあ、いずれにしろ、その海賊はまだ世にも出ていない。世に出る前に始末しておかないと危険な予感がしてたまらない。申し訳ないが、この潜入は長くしてもらう事になりそうだ。心から健闘を祈っているぞ。」
「はい。ありがとうございます。」
「今日はもう寝ろ。ではな、また報告を待っているぞ。」
「はい。それでは。」
そう言って無線を切る。
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