68 / 92
アルシア移住
大森林スタンピード②
しおりを挟む
ユーニウス、どうなってる!?
遠目から漆黒に見えていたモノは、ユーニウスの周囲を取り巻く霧だった。
時折、霧は「キュイィィィ……」と微かな音と共に収束して、一拍おいて再展開している。
(この再展開……えげつないわ)
この時の霧は地鳴りのように「ゴォォォォォォオ」、と不気味な低い音を放ち線香花火のようにスパークする。
──結果、周囲の魔物が声もなく絶命。
なにこれ!
ヤバない?
近付いたら自分も喰らいそう。
「ユーニウス!!」
振り向かない。
時折見えるユーニウスは、熾火──限界まで熱せられた炭火のような燃え上がる瞳、目視出来るほど青白く輝く鬣と尾。
馬体からは漆黒の霧を絶え間なく噴き出している。
ユーニウスは頭で魔物を突き上げ、蹴り上げ、宙を舞わせ、踏みつけて随分荒れている様子。
(────最終覚醒による魔力暴走だわ)
私はそういう結論に達した。
(早く保護しないといけない! このままでは…………)
──ユーニウス自身が、爆散してしまう!
声に魔力を纏わせ大声で叫ぶ。
「ユーニウス!」
「ユーニウスー!」
振り向かないが──足は止まった。
⎯⎯⎯⎯チャンスか!?
「ユーニウス! ビスケットだよーーーー!」
ほら! 大好物の執事長のビスケットだぞ!
お願い!!
お願い、こっち見て、こっち見て────!
──見た。
ユーニウスが。
私を!
周囲は魔物だらけなのに、ビスケットを振り回す私はさぞ滑稽だろう。
だが、焦ってる私は──脱走した子には食べ物!しか思い付かなかった。
こっち来て!ユーニウス、私を見て──!
ユーニウスから噴き出す霧の密度が薄まり──
ハッキリと首をもたげ、こっちを見た────。
夕日色だったはずの瞳はまだ、異様な煌めきをしているが。
首をこちらに向け、一歩踏み出す。
──極度に緊迫している時は、何もかもがスローモーションに見えることがある。
ユーニウスが、私の元に来るまで。
──数時間掛かったような気がする。
実際は十数秒だったんだろうけど。
霧が噴き出したままだけど、さっきの「収束ー再展開」は停止している。
──あ、後ろ足で蹴り上げた。
魔物が数メートル後方に吹っ飛んでいく。
「ユーニウス、もう少しがんばるわよ。セバ爺は無事だからね」
ぷひん!
ユーニウスはビスケットを咀嚼しつつ、良いお返事をした。
付近の魔物は、団長達が追い付いてきたのでここはもう大丈夫そう。
「無事か」
「どうにかね」
団長の情報によると、スタンピードの規模は大森林の範囲から考えれば小規模らしい。
ただ、最終ボスはハグィエア大森林の固有種ハグィエアドラゴンとのこと。
「かなり苦戦している模様。援護に行くぞ」
私とユーニウス第三騎士団は、ハグィエア大森林入り口付近に向かった。
もちろん魔物を処分しながらだ。
魔物の湧きは終っている。
後は周囲の雑魚魔物と、ドラゴンだけだ。
第五騎士団は消耗が激しく、団長同士が数分話し合い、ドラゴンは余力のある第三、周辺の掃討は第五、と決まったようだ。
相当第五騎士団が頑張ったのだろう、ドラゴンは片眼を失い、後ろ足も負傷して大幅に機動力も下がっている。
──だが、ちょっとだけ大きい。
頭の位置が六メートルくらいの高さにある。
「鑑定してみたわ。魔法耐性が大きすぎるから魔法は悪手ね。属性は土多めの風の混成」
「固いやつじゃん!」
カイががっかりしたように、しょぼくれた。
「ちなみに422歳のレディみたいよ」
「歳かんけーねえんだわ……」
「まあ、見てなさいよ。すぐ終わらせてあげる。エルフの流儀は一撃必殺よ」
私カイからドラゴンへの距離およそ四十メートルあまり。
団長は既に回り込んで、後ろ足の付近にいる。
「ユーニウス、あなたもう一走りできるかしら?」
ユーニウスは嘶き、前足をかいて「俺はやるぜ!俺はやるぜ!」モードだ。
鞍も何もない裸馬だけど、私には関係ない。
ユーニウスに騎乗し、私は魔剣ベルシュナ・ヴァリへの物質保護魔法を強化した。
魔剣に魔力を。
ベルシュナ・ヴァリの刀身が徐々に輝き出す。
最初は仄かに、そして真夏の太陽のように。
魔剣は持ち手を震わせ、限界間近を知らせる。
「いくわよー、ユーニウス!」
私はドラゴンの頭上一メートル、左側を掠めるルートで、氷の道を展開した。
ミシミシ……バリバリと音を立て、蒼い氷がドラゴンへ伸びていく。
ユーニウスの鬣を左手で掴み、腹をトンと蹴る。
ユーニウスは、臆しもせずに蒼い道を駆け出した。
後少し、後少し──。
私は自身にも浮遊魔法をかけ、身体を捻ってユーニウスから離脱。
目指すはドラゴンの頸椎。
振りかぶった魔剣ベルシュナ・ヴァリのインパクトの瞬間、重力魔法を乗せ───。
「422歳なんて小娘なのよ!」
エルフの戦闘は、常に優雅でなければいけないのだ。
ドラゴンの首は、静かにズレて地上に落下していった。
遠目から漆黒に見えていたモノは、ユーニウスの周囲を取り巻く霧だった。
時折、霧は「キュイィィィ……」と微かな音と共に収束して、一拍おいて再展開している。
(この再展開……えげつないわ)
この時の霧は地鳴りのように「ゴォォォォォォオ」、と不気味な低い音を放ち線香花火のようにスパークする。
──結果、周囲の魔物が声もなく絶命。
なにこれ!
ヤバない?
近付いたら自分も喰らいそう。
「ユーニウス!!」
振り向かない。
時折見えるユーニウスは、熾火──限界まで熱せられた炭火のような燃え上がる瞳、目視出来るほど青白く輝く鬣と尾。
馬体からは漆黒の霧を絶え間なく噴き出している。
ユーニウスは頭で魔物を突き上げ、蹴り上げ、宙を舞わせ、踏みつけて随分荒れている様子。
(────最終覚醒による魔力暴走だわ)
私はそういう結論に達した。
(早く保護しないといけない! このままでは…………)
──ユーニウス自身が、爆散してしまう!
声に魔力を纏わせ大声で叫ぶ。
「ユーニウス!」
「ユーニウスー!」
振り向かないが──足は止まった。
⎯⎯⎯⎯チャンスか!?
「ユーニウス! ビスケットだよーーーー!」
ほら! 大好物の執事長のビスケットだぞ!
お願い!!
お願い、こっち見て、こっち見て────!
──見た。
ユーニウスが。
私を!
周囲は魔物だらけなのに、ビスケットを振り回す私はさぞ滑稽だろう。
だが、焦ってる私は──脱走した子には食べ物!しか思い付かなかった。
こっち来て!ユーニウス、私を見て──!
ユーニウスから噴き出す霧の密度が薄まり──
ハッキリと首をもたげ、こっちを見た────。
夕日色だったはずの瞳はまだ、異様な煌めきをしているが。
首をこちらに向け、一歩踏み出す。
──極度に緊迫している時は、何もかもがスローモーションに見えることがある。
ユーニウスが、私の元に来るまで。
──数時間掛かったような気がする。
実際は十数秒だったんだろうけど。
霧が噴き出したままだけど、さっきの「収束ー再展開」は停止している。
──あ、後ろ足で蹴り上げた。
魔物が数メートル後方に吹っ飛んでいく。
「ユーニウス、もう少しがんばるわよ。セバ爺は無事だからね」
ぷひん!
ユーニウスはビスケットを咀嚼しつつ、良いお返事をした。
付近の魔物は、団長達が追い付いてきたのでここはもう大丈夫そう。
「無事か」
「どうにかね」
団長の情報によると、スタンピードの規模は大森林の範囲から考えれば小規模らしい。
ただ、最終ボスはハグィエア大森林の固有種ハグィエアドラゴンとのこと。
「かなり苦戦している模様。援護に行くぞ」
私とユーニウス第三騎士団は、ハグィエア大森林入り口付近に向かった。
もちろん魔物を処分しながらだ。
魔物の湧きは終っている。
後は周囲の雑魚魔物と、ドラゴンだけだ。
第五騎士団は消耗が激しく、団長同士が数分話し合い、ドラゴンは余力のある第三、周辺の掃討は第五、と決まったようだ。
相当第五騎士団が頑張ったのだろう、ドラゴンは片眼を失い、後ろ足も負傷して大幅に機動力も下がっている。
──だが、ちょっとだけ大きい。
頭の位置が六メートルくらいの高さにある。
「鑑定してみたわ。魔法耐性が大きすぎるから魔法は悪手ね。属性は土多めの風の混成」
「固いやつじゃん!」
カイががっかりしたように、しょぼくれた。
「ちなみに422歳のレディみたいよ」
「歳かんけーねえんだわ……」
「まあ、見てなさいよ。すぐ終わらせてあげる。エルフの流儀は一撃必殺よ」
私カイからドラゴンへの距離およそ四十メートルあまり。
団長は既に回り込んで、後ろ足の付近にいる。
「ユーニウス、あなたもう一走りできるかしら?」
ユーニウスは嘶き、前足をかいて「俺はやるぜ!俺はやるぜ!」モードだ。
鞍も何もない裸馬だけど、私には関係ない。
ユーニウスに騎乗し、私は魔剣ベルシュナ・ヴァリへの物質保護魔法を強化した。
魔剣に魔力を。
ベルシュナ・ヴァリの刀身が徐々に輝き出す。
最初は仄かに、そして真夏の太陽のように。
魔剣は持ち手を震わせ、限界間近を知らせる。
「いくわよー、ユーニウス!」
私はドラゴンの頭上一メートル、左側を掠めるルートで、氷の道を展開した。
ミシミシ……バリバリと音を立て、蒼い氷がドラゴンへ伸びていく。
ユーニウスの鬣を左手で掴み、腹をトンと蹴る。
ユーニウスは、臆しもせずに蒼い道を駆け出した。
後少し、後少し──。
私は自身にも浮遊魔法をかけ、身体を捻ってユーニウスから離脱。
目指すはドラゴンの頸椎。
振りかぶった魔剣ベルシュナ・ヴァリのインパクトの瞬間、重力魔法を乗せ───。
「422歳なんて小娘なのよ!」
エルフの戦闘は、常に優雅でなければいけないのだ。
ドラゴンの首は、静かにズレて地上に落下していった。
1
あなたにおすすめの小説
異世界転生日録〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆感想の受付開始しました。
【あらすじ】
異世界に転生したルイは、5歳の高熱を境に、記憶を取り戻す。一度は言ってみたい「ステータス・オープン」で、ステータスを見れることに気付いた。スキル「生活魔法∞(無限大)」を発見。その意味を知るルイは、仄かに期待を抱いた。
それと同時に、今世の出自である農家の四男は、長男大事な両親の態度に、未来はないと確信。
家族に隠れて、ステータスにあったスキルの一つ「鑑定」を使い、村のお婆(薬師)相手に、金策を開始。
十歳の時に行われたスキル鑑定の結果を父に伝えたが、農家向きのスキルではなかったルイは「家の役には立たない」と判断され、早々に家を追い出される。
だが、追放ありがとう!とばかりに、生活魔法を知るべく、図書館がある街を目指すことにしたルイ。
最初に訪れた街・ゼントで、冒険者登録を済ませる。だがそのギルドの資料室で、前世の文字である漢字が、この世界の魔法文字だという事実を知ることになる。
この世界の魔法文字を試したルイは、魔法文字の奥深さに気づいてしまった。バレないように慎重に……と行動しているつもりのルイだが、そんな彼に奇妙な称号が増えて行く。
そして、冒険者ギルドのギルドマスターや、魔法具師のバレンと共に過ごすうちに、バレンのお師匠様の危機を知る。
そして彼に会いにいくことになったが、その目的地が、図書館がある魔法都市アルティメットだった。
旅の道中もさることながら、魔法都市についても、色々な人に巻き込まれる運命にあるルイだったが……それを知るのは、まだ先である。
☆見切り発車のため、後日変更・追記する場合があります。体調が不安定のため、かける時に書くスタイルです。不定期更新。
☆カクヨム様(吉野 ひな)でも先行投稿しております。
最安もふもふ三匹に名前をつける変な冒険者ですが、この子たちの力を引き出せるのは私だけです ~精霊偏愛録~
Lihito
ファンタジー
精霊に名前をつける冒険者は、たぶん私だけだ。
うさぎのノル、狐のルゥ、モモンガのピノ。三匹とも最安の契約で、手のひらに乗るサイズ。周りからは「手乗り精霊で何ができる」と笑われている。
でも、この子たちへの聞き方を変えるだけで、返ってくる答えはまるで違う。三匹の情報を重ねれば、上位の精霊一体では見えないものが見える。
上位パーティが三度失敗した大型討伐。私は戦わない。ノルに地中を、ピノに上空を、ルゥに地上を調べさせて、答えを組み上げる。
——この世界の精霊の使い方、みんな間違ってませんか?
『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~
チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!?
魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで!
心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく--
美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!
王女様は温かいごはんが食べたい ~冷えた王宮料理を変えたら、オープンキッチンと政略婚約がついてきました~
しおしお
恋愛
異世界の王女リリアーヌは、前世の記憶を持つ転生者。
豪華絢爛な王宮で暮らし始めた彼女だったが、ひとつだけどうしても耐えられないことがあった。
――食事が、冷めているのだ。
どれほど立派な料理でも、ぬるいスープや冷めた肉ではホッとできない。
「温かいごはんが食べたい」
そのささやかな願いを口にしたことから、王宮ではなぜか大騒動が巻き起こる。
地下厨房からの高速搬送。
専用レーンを爆走するカートメイド。
扉の開閉に命をかけるオープナー。
ついには食堂に火を持ち込むオープンキッチンまで誕生して――!?
温かさは、ホッとさせてくれる。
それは料理だけではなく、人との距離まで少しずつ変えていくものだった。
冷えた王宮に湯気と笑顔を取り戻す、
食と温かさをめぐる宮廷日常コメディ!
-
異世界カントリーライフ ~妖精たちと季節を楽しむ日々~
楠富 つかさ
ファンタジー
都会で忙しさに追われる日々を送っていた主人公は、ふと目を覚ますと異世界の田舎にいた。小さな家と畑、そして妖精たちに囲まれ、四季折々の自然に癒されるスローライフが始まる。時間に縛られず、野菜を育てたり、見知らぬスパイスで料理に挑戦したりと、心温まる日々を満喫する主人公。現代では得られなかった安らぎを感じながら、妖精たちと共に暮らす異世界で、新しい自分を見つける物語。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。
ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。
ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。
ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。
なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。
もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。
もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。
モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。
なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。
顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。
辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。
他のサイトにも掲載
なろう日間1位
カクヨムブクマ7000
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる